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王子様の本音

「ま、ま、ま……聖人さんっ!!」

「どうしたの?」

 引っ越してきて数日、寝室のチェストの引き出しを開けた衣都が震えながら大きな声をあげて僕を呼んだ。


「ここ、これはどうして、なんで……ここにっ――」

 青くなるより赤い、言うなれば真っ赤だ。震えながら手にしている文庫本はあの時の衣都の落とし物。


「僕の愛読書」

「うそでしょ?!」

「衣都のだよ、それ。ブックカバーは外しちゃってるけど」

「ななななんでここに?!こ、これ私失くして……落としてって……ちょ、なんでブックカバーユニパックに入れてるの?」

「だって衣都が触れていたものに汚れたり埃が付くと困るから綺麗に保管しておきたくて」

「保管ってなに!!つけよ?むしろ使って?!装丁を包んでよぉ!」

 そう言ってユニパックからカバーを取り出そうとするからその手を止めた。


「やめて。これは僕の思い出のブックカバー。衣都の私物を初めて手にした大事なものなんだから勝手なことしないで」

「言い方言い方ぁ!」

「ブックカバーをつけたいのなら新しいのを買ってあげる。だからこれには触らないで」

「これ私のなんですけどぉぉ!!」

 お互いが譲らずにユニパックを取り合っていたけど引かない僕に衣都が諦めてくれた。



「それより……あの時ぶつかった人って聖人さんだったの?聖人さんが拾ってくれたの?」

 あの時の相手が僕だと衣都は気づいていなかったのか。まぁ入社面接なら緊張してそれどころでもなかったのかもしれないな。


「そうだよ。僕が持ち帰った。帰ってすぐ読んだよ。なかなかおもしろかった」

「読まないでーーーー!!!!」

 鬼畜な王子は愛に飢えていてそこで偶然出会った令嬢に恋をする。しかし歪んだ愛情は執着めいていてどんどん令嬢を囲う形になる。周りから固めて自分との結婚まで持ち込み、ほぼ監禁状態で城に閉じ込める。初めは戸惑っていた令嬢だがそんな王子の異常な行動を愛情と受け止めて日に日に愛しく思いハマっていくという素晴らしい話だった。



「これ失くしたと思って本当にショックで……面接のお守りに持って行ってたくらいなのに」

 お守りにするには内容がだいぶんズレていないかい?と、思うけれどそんなこと突っ込むわけがない、すべて可愛いに繋がってしまう。


「失くしてもまた買ってたでしょ?電子の方で」

「だから!!なんでそんなことを事細かに把握しているの!!それ!!本当に犯罪行為だから!!」

「訴える?」

「~~~~しないけどぉ!!もう、勝手に覗くのはやめて……」

「趣味を覗くのはプライバシーの侵害だよぉ……」そう言って真っ赤になった衣都がやっぱりどうしようもなく可愛い。



「今は覗いていないよ。だいたい僕はアカウントは知ってるけど携帯を乗っ取って悪用なんかはしていない。どういうサイトを覗いているのかとか何を買ったのかとか……たまにカメラを動かしたり……「はい!もうそれ普通にアウトーー!!逮捕!!それ逮捕ぉぉ!!」

「カードや金銭関係の操作をしたことはない」

「それだけが犯罪行為だって思ってるのがそもそもアウトー!!」

「僕がしていたのは衣都がどういう類の小説を好んで読んでいるのか把握していたくらいだ。あとは見ていた動画や覗いていたサイト……「一番やられたくないやつーー!それぇぇ!!」

 衣都が絶叫して赤面するのは分からないでもない。そこそこエロイものばかり見ていたから。大人しそうな顔して、職場では澄まして上品そうな振る舞いをしていたくせに騙されていた。それは別に嬉しい誤算だったけど。知ったら知ったでこっちは大変だった。こういうものに性癖をくすぐられて夜な夜な衣都が自分以外のモノに感じて善がっているのかと想像したらそれだけで何回でも抜けた、不本意だが。



「そんなモノで気持ち良くなってるなら僕の手で何回でもイかせてあげたかったんだよ。毎晩僕の悶々していた気持ちをもっと考えてほしい」

「そういうセリフ真剣に言うのどうかしてる……そもそも勝手に覗いてるくせにぃ……なら覗かないで!!」

「衣都がどんなことを考えて暮らしているのか知りたくて我慢できなかったんだ、ごめんね」

 ぎゅっと抱き締めながら言ったら衣都はやっぱり赤面して腕の中に包まれていた。



「仕方ないよ、僕にとって君は溺愛されてる囚われの令嬢だから」

「……私は一般人です」

「じゃあ溺愛されている囚われのお嬢様」

「~~~~おじょ……んんっ!」

 ちゅっとキスの音を鳴らしてくちびるを濡らしたら一瞬で蕩けた顔させるからまた可愛い。衣都は秒刻みで僕を悩殺してくる。



「僕って鬼畜なのかな?」

「鬼畜な王子様って、ヒロインをただ愛してるだけだから。他に興味や関心が薄いだけな気がする。ヒロインにはただただ甘いんだよ?だから……好きなの」

 こんな風に言ってくれる子は今までいなかった。多分もう出会えないだろう、僕が衣都に出会えたのは運命だった、こんな奇跡がもう訪れるわけがない。



「衣都……好きだよ、愛してる」

「……ま、真面目な顔してやめて、それ」

「僕はいつでも真面目だけど。どの言葉も思いも疑わないでほしい」

「~~~~あい、愛してるとか……やめてぇ」

「愛を伝えるのに愛している以外になんて言えばいいのかなぁ。だいたい衣都が好んで読んている小説のどの王子も愛しているって言葉が最大の表現じゃないか」

「小説じゃないの!!ここは現実世界!!二次元のセリフその顔で真面目に囁くのがそもそも犯罪レベル!!」

 結局犯罪者か、困ったな。



「じゃあ言葉以外で伝えよう」

「え、あ、きゃあ!!」

 まだまだ僕の気持ちの深さがわからない衣都には、言葉以外の愛を伝えてわからせないと。押し倒した身体にかぶさって、軽くキスを落としたらそれだけで真っ赤になる衣都。もう一度、今度はゆっくり、強く押し付けたら震える手で一瞬押しのけてきたけど、そのか弱い力はすぐにそれを諦める。細い指先が僕の肌に伸びてきてなぞって首裏に腕ごと回してくる。指先が後頭部の髪の毛を掻き分けて絡みとっていく。衣都の腕に抱きしめられると胸がぎゅっと締め付けられる。


 僕が離したくないと思う気持ちを掬いあげてくれるようで胸がいっぱいになるから。こんな僕を抱きしてめてくれる、受け入れるように引き寄せてくれる、それがどうしようもなく嬉しくて。



 君を愛してる、その一言が言いたくてずっとしまい込んでいた。だからもう我慢しない、ずっと伝え続ける、その言葉を。



「衣都……愛してる」

「ん、ぁ……」

 唾液で濡れた唇を舐めて吸ってたら衣都の足が僕の腰に絡んできて……。


「私も……愛してます……」

 そんな艶っぽい声でそんなセリフを僕に吐くのはどうかしている。部下として働いていた時からそうだ、衣都は僕を全面的に信用しすぎなんだ、疑うことを知らないかのように。



 もう少し、僕を疑った方がいいな。信用してくれるのは嬉しいけどな。信用してもらいたくてずっと大切に見守ってきたんだけど――。


 僕はもっともっと、衣都のことを支配して独占したいと思っているんだよ。



ここまでご愛読ありがとうございました!!

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