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失恋のショック

よろしくお願いします。

最後までお付き合いくださると嬉しいです^^

 恋をするのも突然だったけど失恋するときも突然だ。ときめいたときも衝撃だったけど、ショックを受けるのはそれ以上に衝撃が大きいものなのか。


「可愛いね。見てるだけで癒されるんだよね。全く飽きる気がしない、日毎可愛い」


 たまたま会議室横を通りかけたとき耳にやたら覚えのある声たちが話をしていて立ち止まってしまった。”可愛い”、”癒される”そう囁くみたいに呟く声がうっとりしていて愛を感じた。

 愛って、耳だけで感じ取れるものなんだな、頭のどこかでぼんやりそんなことを思っていたのは軽く現実逃避だったのかもしれない。


 もともとの声に色気があってそこに静かに落ち着いて話すから余計優しさも含まれると単純に甘い。そんな声が愛を含んだように呟いた言葉が胸に頭にガンガンと響いている。


相馬(そうま)の言い方怖いわ~」

「大事な子はさ、ずっと見てたいでしょ?どれだけでも見つめていられるものだよ。俺は時間が許す限り見つめていたいな」

「……捕まんなよ?」

「失礼だな、桐山(きりやま)は。だいたい結婚すればすべて解決するんだよ、あぁ、はやく結婚したいな」


 そのあと会話が繰り返されていたけれど、どんどん靄がかかるように聞こえなくなる。頭の中はガンガンガンガンひどくなる。


(相馬さん……恋人いるんだ。しかももう結婚まで話が進んでる……)


 いないと思ってたわけじゃない、相馬さんは社内でも目を見張るほど素敵で誰もが憧れているような、手の届かない素敵な人だ。どこぞの御曹司だと噂もある。その噂通り、育ちの良さがわかる品のある仕草に落ち着いた柔らかい物腰。清潔感があってすれ違うとふわっといい香りがして、なにより存在感がすごい、言うなれば王子様。


 そう、私にとって相馬さんは王子様みたいな人だった。出会った時から――。


 初めて出会ったのは入社配属前の電車の中。朝の通勤ラッシュで激込みしている車内で感じた違和感。周囲には女性もいたけれど誰かなにかははっきりわからない。でも感じるのだ、腰回り……お尻にとなにかが触れるのを。

 混んでいるから仕方ない、誰かの荷物かもしれない。本当に当たっているだけ?私自身が確信を持てない、ただ感じる違和感。その違和感を疑心し始めると不快感に変わり始める。


(なに、なに?やっぱりこれって触られてる?手なの?わかんない、でも嫌だ、どうしよう)

 新快速電車はなかなか止まってくれない。ようやく次の駅に辿り着くアナウンスが車内に響いた。目的の駅ではないが次の駅で降りるべきか、人波が動けば情況は変えられる?でも同じ人が乗ったままでもっと近寄られたら、触られたら……考えがまとまらない。

 降りたら新人オリエンテーションに遅れる。入社してすぐに遅刻なんてイメージ最悪じゃないか?我慢してこのまま乗り続けて駅まで行く方がいいか。迷いの葛藤が止まらない。


(何を一番に優先したらいいのか、全然わからないっ!)


 ぎゅっと瞳を閉じて身体を硬くしてその場を耐えようとしたらふわっといい香りがした。


「失礼」


 落ち着いた声が頭から降ってきて私の身体横に滑り込んできた人がいた。見あげたと同時に電車が揺れて思わず身体がその人に飛び込んでしまった。


「わっ、あ!すみませ……」

「大丈夫ですか?」

「わ、私はだいじょ……」

 そこまで言ってハッとした。


(どうしよう!!)


「降りましょう」

「え?!」

 車両ドアが開いて人波に流れる様に一緒に降り立たされる。自分一人の足では降りることは出来なかった、降りてから身体中に感じる安堵、心なしか息が乱れている。そこまで自分が緊張して身体を強張らせていたのだと初めて気づいた。


「大丈夫ですか?」

「ぁ、は、はい……」

 声をかけられて初めてその人の顔を見て絶句した。


(王子様?!)


 バカみたいだけど本当にそう思うほどカッコイイ顔で、ノベル小説のどこぞの貴族なのか?!とか脳内で突っ込んでしまったほどだ。


「もしかして車内でなにかあったんじゃないですか?僕の目ではしっかり確認が取れなくて……とりあえず連れ出してしまいました、すみません」

「あ、いや……た、助かりました……どうしたらいいかってちょっとパニックに……」

「やっぱり……」

 はぁ、と小さな溜息を溢されて前髪をかきあげる姿に単純に見惚れた。


「そういうときは、我慢せず声をあげるべきです。飲み込んじゃダメだ」

「……は、ぃ」

 真っ直ぐ見つめられて窘められた、その言葉に心配されてる気持ちを感じて不謹慎だけど嬉しくなってしまった。誰かも知らない、ただその場に居合わせただけの私にそんな言葉を投げてくれる。やっぱりこの方はどこぞの王子様に違いない、そう思って見つめ返した。


 そしてまたハッとする。


「あ、あのぉ!!」

「はい」

「私、とんでもないことをっ――」

「え?」

 首を傾げるその王子様のスーツジャケットを思わず掴んで距離を縮めた。王子様に見下ろされて距離が近っ……と、思ったがそれよりもだ!


「口紅を……」

「え?」

 お互いが胸元に視線を落とす。王子様の白のカッターシャツには私のピンク色の口紅が付着していた。


「すみません、どうしましょう……さっきの電車の揺れで胸に飛び込んだときにつけてしまったみたいで……こういうのって濡らして取れないですよね、化粧品だし油分?クレンジングとかでしっかり取らないと……あぁ、どうしよ、本当にすみません!!」

「……いいですよ?」

 くすくす笑いながら言われて思わず顔をあげた。笑い事ではない気がするが、とても楽しそうに笑われてまたときめく。だから不謹慎だよ、私はさっきから!心の中で突っ込むがどうしようもない。

 素敵なのだ、すべてが。


「本当に。気にしないでください。それより時間」

「あっ!!」

 腕時計を確認して次の電車の時刻を確認する。到着は二分後か、ギリギリ間に合わないかもしれない……頭の中で逆算してまたプチパニック。そう思っていたら王子様は携帯を取り出して電話をかけ始めた。


「おはようございます。相馬です、申し分けないんですが少しトラブルが起きまして。はい、少し遅れます。はい、あと小林(こばやし)衣都(いと)さんも一緒です、はい」


(え?)


「それは大丈夫です、僕が送り届けます。山下くんにも伝えてもらえますか?お願いします」

 電話を切ったと同時にホームに電車が入ってきて髪の毛が乱れる。目の前の王子様はニコッと微笑んで言った。


「落ち着いて出社しましょうか」

 そして無事配属先が知財部に決まった私はまた驚く。知財部の相馬課長はその王子様だったから。




誤字脱字報告ありがたいです。

ブクマ、評価とても励みになります、よろしくお願いいたします<(_ _)>

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