冬の童話祭 ゆめのなか ぼくのだいじなたからものをさがして
おもちゃがみつからないんだ・・・。
ぼくの好きな飛行機のおもちゃ。
去年のクリスマスにおかあさんが送ってくれたんだよ。
いつもなくなるたびにハナがみつけてくれる。
あれ?ハナもいない。
どこへいったんだろう。
いつも部屋の中にいてあんまり動かないハナ。
時々「ふご~。」って大きないびきをかいて眠ったりするハナ。
ぼくのことをよく見ていてくれるハナ。
いないとおもうと急にこわくなってきた。
子供部屋を探してみる。
ベッドにはアオイがいるはずだ。
でも、いなかった。
そうだった、アオイはこの前病院に移されたんだ。
アオイならなんでもよく見ているから
ハナがどこにいったのかも知っているはずだった。
アオイはしばらく治療したらよくなって帰ってくるって言っていた。
そうか。
アオイには今は頼れないな。
廊下に出てみる。
みどりママがよく小走りに入っている廊下だ。
ハロウィンにみんなでお化けマント着て並んでたら
みどりママが通れなくて困ってたっけ。
「ママ~・・・。」
返事がない。
みどりママは忙しいからな。
ぼく、ひとりでなんとかしなくちゃ。
って、なにをなんとかするのだろう・・・?
えっと、ハナを探しに行くところだったんだ。
ハナがいればなにも心配ない。
大丈夫、すぐ見つかるさ。
そうだ、キッチンに行ってみよう。
ハナはときどきミルクをもらっていたよ。
このまえさやかのおばあちゃんからもらったお菓子もあるはずだ。
さやかはいまごろどうしているのかな。
泣き虫だったけど、いまは楽しく過ごせているみたいだ。
ちょっとうらやましいかな。
ああ、やっぱりキッチンにもだれもいない。
扉は閉まっていて入ることはできなかった。
お庭に出てみようか。
窓からみた外の景色はいつも通りのように見える。
でも、もう薄暗い。
夜にひとりでお庭にでたことはないからとてもこわい。
なんだか足元がふかふかする。
大丈夫だろうか・・・。
だけどハナに会いたい。
どうしても会いたい。
ぼくはぎゅっとちからを込めて一歩一歩足を踏み出していった。
それでもふかふかした床に体がゆらゆらする。
おかしいな。
走っていきたいけどうまく進めない。
はやくいかなくちゃ。
夜になってしまったらぼくはハナを見つけることができないよ。
あの、ぶどうのようなハナの黒い鼻先。
くんくんっていいながらぼくの手をなめてくれるあのやわらかい舌。
ひとつひとつを思い出しながら、ぼくは一生懸命足を踏み出した。
お庭はもう夜になっている。
どこを探そうか。
そうだな。夏になるとよくみんなで遊んだ大きな木をめざそうか。
はっぱの影がちらちらして、涼しい風が気持ちよく吹いているところだ。
近くに街灯があってそこは少しだけ明るい。
そこにいけばきっとなにかが見つかるはずだ。
ころびそうになりながらやっとたどり着いたそこには
特になにもなかった。
ちょっとがっかりした。
「少しやすもう。」
ぼくは木の根元に腰をおろした。
とっても疲れていた。
体が冷たくて硬くなっている。
「ハナ・・・・。」
泣きそうになった顔を木の根元に押し当てた。
だれもいないけど、そんな泣き顔をだれにも見られたくなかった。
地面の柔らかい草がぼくを優しく支えてくれた。
「ハナ・・・。」
おでこをくっつけた木の根っこがだんだんあったかくなってきた。
おかしいな。
木の根っこってあったかくなるもんだっけ。
でもなんだか心地よい。
なんだかねむ・・く・・・・・・。
「こうちゃん、こうちゃん!」
だれかが呼んでる。
だれだろう。
あったかいものに包まれたぼくは
もう目をあけることもできない。
だけどこわくはなかった。
「こうちゃん、こうちゃん!」
めったに鳴かないハナが探し物をみつけるとあんなふうに鳴くんだよね。
いまはハナが探し物なんだけどな・・・。
体がふわっと浮いた感じがして目が開いた。
眠ってしまってたのか。
みどりママがぼくをしっかり抱きしめてくれている。
「ママ・・・。」
どうして泣いてるの?
「ああ、こうちゃん。よかった。」
ハナがそばにいた。
でも、動かない。
「ハナが、ハナがね・・・。」
ぼくはびくっとした。
ハナ。探していたのに見つけられなかった。
ぼくの知らない間にみつけられないところに行ってしまったのか。
「ハナ、ハナ!」
ぼくはハナの重たい体をゆすって名前を呼んだ。
「ハナ!」
みんなも集まってきて、ハナの体をさすっていた。
「ハナ、ハナ!」
「もういちど目をあけて!」
ぴくっとハナの体が揺れた。
なみだでゆがんだ景色のなかでハナのやさしい眼がぼくをみていた。
「ハナ!」
ハナが起きたのをみて、みんながいっせいに声をあげて喜んだ。
見つけたよ。ハナ。
ゆめのなかからずっと探していたんだ。
ぼくのだいじなたからもの。
いつもそばにいてくれてありがとう。