第1話:終わりのはじまり
『左遷されたギルド職員』と同じく、十万字程度書きためた新作になります。
助教設定はシリアスですが、明るいノリですので、楽しく読んで頂ければと思います。
「みんな! また会ってもよろしくな! 楽しかったよ!」
その台詞を聞いた瞬間、オレの運命は決まった。
王立ガスティーヤ学園。桜舞いちる春の季節。石とガラスで作られた校舎が建ち並ぶ一画に、制服姿の学生達が集っている。
全員が胸元に桜を模した造花を身につけ、今日は卒業式だ。
集っている学生達の制服、特に女子のものが妙に体のラインがはっきりしたり、髪色がカラフルなのは、そういう場所だから仕方ない。
ここは、オレがかつて遊びまくった美少女ゲーム、『茜色の翼、暁の空』の世界だ。現代日本の制服を魔改造したような服装と、ゲームっぽい異世界の建物。そして、見慣れたキャラクターが並んでいる。
「あんたはこれから、どうするのよ?」
「俺はしばらく、冒険者をやってから……どうするかな?」
木陰から眺める視界の中、目元まで隠れた黒髪の少年が、赤髪の少女と会話している。
男の方はレイヤ・ミニスター、このゲームの主人公。
赤髪の方はエリア・リコニア、ヒロインの一人だ。
今日この時、俺も含めたこの場の全員は学園を卒業し、それぞれの進路に乗る。
ある者は実家の領地に。
またある者は騎士団に。
またある者は研究所に。
それまたある者は冒険者に。
「それじゃあ、みんな、またな!」
表情がわかりにくい割に、妙に爽やかさを感じさせる口調で、レイヤが胸元の造花を手に持つ。
周囲にいた様々な髪色のヒロイン達も、それに続く。
それがきっかけになったのか、周囲の生徒達も同じく桜の造花を手にした。一応、俺もそれに続く。
「王立ガスティーヤ学園に栄光あれ!」
主人公の声に合わせ、空に桜の造花が舞った。
ファンタジー世界において、プレイヤーに親近感を持たせるために設定されたソメイヨシノもどき。異世界でも変わらず美しい桜吹雪が舞う中に、卒業生達の造花が加わる。
良い光景だ。昔、何度もテキストとイベントCGを見たこのシーンを実際に見られるとは、感無量だ。ちょっとした感動すら、俺の胸に去来する。
「それじゃあ、みんな、ありがとう!」
そう言い残して、ゲームの主人公、レイヤ・ミニスターは一番にこの場を去って行く。
俺はそれを見送りながら、小さく一言零す。
「……確定だな。全滅ルート」
主人公が特定のヒロインとくっつかずに、一人で卒業する。
『茜色の空、暁の翼』において、これは特殊なルートに入ったことを意味する。
これから始まるのは、戦乱ルート。
ガスティーヤ学園のあるメイナス王国は、隣の帝国から侵攻を受ける。
ひたすら戦火を広げる帝国に侵略され、主人公とヒロインが必死になってそれを撃退する。そんな特殊ルートだ。
このルートの特徴は、全滅。
主人公レイヤが誰か一人ヒロインとくっつくことで、更に別ルートに入るんだけど、それができないと最悪全滅する。
ゲームとしては学園編から継続するRPGパートとADVパートの選択肢の組み合わせで進行するが、時間などの制限がシビアなのだ。
『茜色の空、暁の翼』はゲームとしての出来は非常に評価が良かった。かつて、二〇〇〇年代を若者として生きたオレは、気に入って何度も遊んでいたわけだが。
「選択の余地なしで、これは酷くないですかねぇ……」
空を仰ぎ、そう零す。
オレが意識を持ったのは三日前。既に全ては手遅れだった。主人公レイヤを誘導して、ヒロインとくっつけることすらできない。
美少女ゲームの世界に転生を果たした今のオレの名前はマイス・カダント。
だいたいこれから一年後、戦乱の中で死ぬことが確定しているサブキャラだ。
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