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Data.52 飛翔

 町の外に出た私たちは一応周囲を警戒しつつ、少し道を外れた場所に集まった。街の近くでも外は外。襲いかかろうと思えばツジギリ・システムで襲いかかれる。


 まあ、人気の多い場所で悪事を働くと妨害が入る可能性が高いから、悪党もそう簡単に襲ってはこないって話だけどね。


 あと、お仲間はまだしもザイリン本人は戰の本番まで襲ってこないんじゃないかな? 本番までに私との戦いに決着がついたら、戰の注目度が下がっちゃうからね。目立ちたがり屋からすれば、それは絶対に避けたいはずだ。


「さあさあお待ちかね! アタシの優雅蝶ちゃんのお披露目だよ!」


 リュカさんが持つ本がまばゆく発光し、ペラペラと激しくページがめくられる! そして、そのページの中から巨大な蝶が飛び出した!


「これが【優雅蝶召喚】さ!」


 優雅蝶は白と金を基調としたロイヤルなカラーリングで、蝶と言ってもかなりデフォルメされた姿をしている。わずかでも虫要素があると耐えられないくらいの虫嫌いでもない限り、さほど拒絶感はないと思う。私も虫はあまり得意じゃないけど、この優雅蝶は問題ない。


 ただ、その大きさには面食らった! 人を乗せられる蝶と聞かされていても、蝶と言えばあの小さくてパタパタ羽ばたく姿を想像してしまう。


 しかし、目の前の蝶は全長5メートル以上はあり、2枚の羽根を広げた幅は10メートルを超えているんじゃないか!? 


 さらに蝶の背中には4人くらい座れそうな座席が装備されている。馬具ならぬ蝶具とでも言うべきこれは、最初から蝶についていたわけではなく、リュカさんが特別な道具を使って後から装備させたものらしい。


 おかげで蝶の体に生えている短い毛にしがみつくことなく、自然とその背中に乗り込むことができた……!


「飛ぶ姿も優雅だから大きく揺れたりはしないけど、一応座席の前にあるバーはしっかり握っておくんだよ。結構な速度で飛ぶから、万が一落ちた時のダメージは大きいからね!」


 まるで絶叫マシンだなと思いつつ、座席の前のバーを握る。私とうるみは後ろの席に並んで座り、リュカさんは前の席で蝶に指示を出す。


 冷静に考えると、蝶に乗って空を飛ぶってすごいファンタジーな絵面ね。リアルじゃ絶対できない経験だ。気になるのはその乗り心地だけど……。


「飛翔せよ!」


 蝶が上から下へゆったりと羽を動かす。その瞬間、ふわっと蝶の体は浮き上がった。


 まるでそよ風に飛ばされたティッシュのように軽い動き……という例えは、優雅な蝶に合わないかもしれないけど、まるで重さがないような動きにはビックリする!


 さらにもう一度羽ばたけば、蝶の体はぐんっと前に進み始める。まるで空を自由に泳ぐように……はっ! これがバタフライというわけか!


 私とうるみはしばらく初体験の飛行感覚に気を取られ無言だった。でも、しばらくすると動きにも慣れてきて、会話をする余裕も出てくる。


「もっと高度って上げられるんですか?」


「上げられるよ!」


 蝶は今のところ地上2メートル強くらいの高さを飛んでいる。大柄のプレイヤーがいてもぶつからない程度の高度だ。


 それが1回強く羽ばたいただけで、ぐんっと倍以上の高度になった。自分が高所恐怖症だと思ったことはないけど、流石にこの急上昇はふらっときた……。


「ただねぇ……。あんまり高度を上げ過ぎると地上の敵に見つかりやすくなるし、空の敵にも目をつけられやすくなるのよ。ほら、おいでなすったわ!」


 上空を旋回しているのは数羽のトンビのような魔物だ。明らかにこちらに狙いをつけている!


「いったん着陸して戦いますか?」


「いや、ここは優雅蝶に任せてくれないかい? 召喚獣だって魔物みたいなもんさ。当然戦う力は持ってるよ!」


 蝶は飛行を続ける。トンビたちは急降下してこちらに接近してくる! 向かって来てくれるなら斬るのは簡単だけど……ここはリュカさんの出方を見よう。


「引き付けて……引き付けて……今だ! 誘蛾鱗粉弾(ゆうがりんぷんだん)!」


 蝶の羽から飛び散った鱗粉が塊となり、迫りくるトンビたちへと飛んでいく。しかも、鱗粉の塊はトンビたちを追尾している!


「いわばホーミングミサイルさ。これなら飛びながらでも当てられるし、鱗粉の弾が当たれば体に引っ付いて敵の動きを鈍らせてくれる。特に飛んでる敵なんかには効果てきめんだよ!」


 トンビたちはばったばったと地面に落ちていく。翼の動きが鈍くなれば飛べなくなるということね。飛びながら攻撃も出来るなんて、すごいちょうちょだなぁ。


「弱点は案外射程が短いこと、追加で私の念力が持っていかれることかな。召喚獣は召喚しているだけでもじわじわと念力を消費していくけど、召喚獣に技能を使わせるとさらにドンッて感じなのよね。だから、長距離移動には念力回復の道具が欠かせないのよ」


 そう言って小瓶の中身を飲み干すリュカさんは、なんだかお酒でも飲んでいるかのように見える。うーん、大人の雰囲気だ。


「まず私たちが目指しているのは『月読山(つくよみやま)』のふもとの村『月下村(げっかむら)』だよ。そこには村人NPCがどうしても山に入らないといけない時に使う登山ルートがあるんだ。それが山頂まで続いているかはわからないけど、あてずっぽうよりはマシさ。私たちはそこから山に入るよ!」


 ほとんど未開の山の攻略も、この優雅蝶がいれば大丈夫な気がしてきた。最初は蝶に乗って飛ぶことに違和感も覚えたけど、今となっては頼れる仲間ね。


「あと、『月下村』はそれなりに発展した村だから道具の品揃えも豊富さ。足りない道具があったら山に入る前に買っておくんだよ。それに村人から話を聞くことも大事だね。登山ルートはすでに把握してるけど、他にも何か役に立つ情報が手に入るかもしれない。とりあえず何でも聞いてみるのが、有益な情報を集めるコツさ」


 リュカさんの言葉を胸に刻みつつも、私の意識は遠くに見える山に引き寄せられていた。人を寄せ付けぬあの山に一体何が潜んでいるのか……。うーん、思った以上にワクワクする!

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― 新着の感想 ―
[一言] 〝月詠〟山、ねぇ……何か、意味深なネーミングだなぁ
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