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第2話 能力判定

「片手でこの紐を握り、もう片方の手をこの上に翳すのだ。」


 やはり上からの物言いなのは気になるが、ラーエが差し出したのは端に鎖編みの紐が付いた半透明の石板だった。大きさは一辺が三〇センチ程の正方形だ。


「これによって諸君のギフトとスキルの判定ができるのだ。」


「スキルもあるのか?」


 竜也が尋ねる。少しはマシな態度で口を利くお姫様に尋ねたつもりだったが、返答したのは大層立派な顎髭をたくわえたラーエだった。


「諸君は元の世界で何の取柄も無い人間だったのかね? 元々持っている技能で一定以上の力量を習得していれば、それはスキルとされる。」


「へぇ~、じゃあ簿記の資格持ってたらスキル“簿記”なんて出るのかね?」


「無論だ。測定器には“出納記帳”と表示されるがな。」


 竜也は冗談で言ったのだが、その解答は意外だった。だが考えてみれば当たり前の話である。単純に転移しただけなのに、元の世界で培った知識も能力も別の世界に来たらキレイサッパリ消滅するという事は無い。


「姫様は諸君にギフトを三つ授かっていると言ったが、実のところ、その内一つは既に分かっておる。我々が見たいのは残り二つだ。」


「分かってる一つってのは何だい?」


「“言語理解”だ。」


 なるほど、それで違和感の謎が一つ解けたと竜也は理解した。

 

 だが問題はラーエの台詞の最後、『我々が見たいのは』だ。この文言の意味するところは自分達に対する値踏みに他ならない。わざわざこんなチェックを行うという事はもしかして…ハズレもあるって事じゃないのか? だとしたら冗談ではない!

 そういえばそれで城から放逐されるなんて漫画を読んだ事がある。

 だがたとえギフトはハズレでも幸い俺には剣の心得がある。腕に自信もある。最悪の結果にはならないと信じたい。


「じゃあ見てもらおうか。」


 竜也はまだ及び腰の他の面々に先んじて最初に判定を始めた。別にリーダーシップを取りたかった訳ではない。誰かが先陣を切らなければ話が進みそうにない、ただそれだけだ。それに面倒事は先に片付けてしまっておきたいという性分もある。


 もし仮に剣のスキルも出なくてハズレ認定を受けて放逐されても、能力に向いてない仕事を押し付けられるより、向いてる道を見つければ、それはそれでいいじゃないか。何らかのチート能力を授かっている事だけは間違いないみたいだから、何とかなるだろう。


 そう覚悟を決めて左手で紐を握り、右手を石板に翳すと文字が浮かび上がった。

 ラーエの言った通り“言語理解”が一番上の行に出た。見た事も無い文字なのに何故か頭で理解できるのはこのギフトの恩恵である。

 そして“超気配察知”。さらに三行目に“空間操作系魔法”の文字が浮かぶと、どよめきが起きた。

 そして習得スキルには思惑通り“剣術”がある。

 ちなみに“出納記帳”もだ。実務経験は無いが検定二級で出るものだった。


 続いて男子高校生二人が判定に臨んだ。

 一人は関根 健。ギフトは“超動体視力”と“超俊敏”。身体能力系の組み合わせだが悪くはない。広間にいる連中からも「おお…」と声が上がる。

 もう一人は大塚礼二。ギフトは“温度操作系魔法”と“筋力強化補助”。どちらも魔法系だが微妙なのは周囲の反応で明白だ。


 さらに女子高校生三人が続く。

 上原弥生。ギフトは“超視力”と“念動系魔法”。どうやら“念動系魔法”の方が異世界人達の期待に添えたようで感嘆の声が上がった。

 迫田舞美。ギフトは“治癒系魔法”ともう一つは竜也と同じ“超気配察知”。

 佐々木麗華。ギフトは“光学系魔法”と“念話”。だが先の四名にはスキルが無かったのに彼女にだけはあった。それは“房中術”。つまり元の世界でとんだビッチ女子高生だったという事だが、本人は意味が分からず「ボーチュージュツって何だ?」とキョトンとしている。「なーなー、兄さん、これって何?」と竜也にも訊いてきたが、敢えて何も言わなかった。


 最後にオッサンが判定したが、ギフトは“測距”と“毒耐性”。“測距”は支援能力としては使える方なのだが、スキルの方が異世界人達の眉間に皺を作らせた。“詐術”である。

 営業マンとして鍛えられたものなのだろうが、この場では完全に裏目である。彼は要注意人物としてマークされる事になった。


 “交渉術”じゃなくて、よりによって“詐術”かよ、オッサン。あんた一体何の営業してたんだ?


 ─────さて、エリス王女殿下とラーエのジジイの説明によるとこうだ。

 

 大塚礼二君の“温度操作系魔法”とは、つまるところが“炎魔法”と“氷魔法”の事だ。元いた世界の漫画やゲームではこの二つは別物とされる事が多いが、この世界では同系統魔法として分類されている。“術式”と呼ばれる発動に使われる呪文の様な物がそれを証明しているそうだ。

 そしてこの系統の魔法は修練に要する時間や練度限界にある程度の適性による差はあるものの、基本的にその気になれば学習と修練によって誰でも会得可能だという。ギフトとして持つメリットは術式詠唱が不要で瞬時発動が可能な事と魔素消費がゼロなので無限に打ち出せるという事らしい。しかし、熟練魔法士なら瞬時とまではいかなくとも高速発動は可能だし、大火力戦になりがちな“攻性魔法戦”はそんなに長時間に及ぶ事は無く決着がつく場合がほとんどなので大きなメリットにはならないらしい。

 話を聞いて礼二君も肩を落としている。本人の前で言う事ではなかろうに。鬼畜か、この二人は。

 

 そしてこの世界では“空間操作”“時間操作”“重力操作(念動)”は神の領域の魔法とされている。

 “空間系魔法”と“念動系魔法”は単純術式こそ発見されているが、どちらもスキルとして魔法で習得できるかどうかは適性次第。更に“空間系魔法”の方は仮に習得出来たとしても僅かな発動でも高位魔法士が一発でブッ倒れる程の膨大な魔力を要し、尚且つ精度がお粗末でとても実用には耐えられないという。その点、ギフトの場合は魔力消耗無しという訳だ。

 ちなみに俺たちの異世界転移は空間魔法ではなく、それをも超える“世界線移動術”と名付けられている全く別種にして術式未解明の物で、あの巨大水晶玉という“神器”があってこその御業であり、その“神器”でさえ稼働させるには十人以上の高位魔法士が必要で、しかも一度発動させると自動ロックのようなものが作動して十年間はウンともスンともいわなくなるそうだ。

 “時間操作”に至っては術式がまったく未解明だという。

 ギフトでも“時間操作”能力を得た者は歴史上でまだ一人しかおらず、“空間操作”と“念動”をギフトで得る者も極めて稀な存在という事だ。

 なるほど、その中の二つが同時に現れたのなら「今回の召喚は当たりだ」と声が上がるわけだ。


「それはそうと、俺たちのいた世界には魔法なんて無かったんだ。使い方が分からんぜ?」


「ああ、、それでしたら…。」


「それなら心配は要らん。」


 姫殿下が答えかけたところでラーエのジジイが割り込んできた。


「ギフトとしての魔法とスキルで会得した魔法の違いだ。ギフトは術式不要、頭の中で『こうであれ』とイメージするだけで発動する。」


「あ、そう。」


 これは便利なようだが、逆に安全装置が無く、簡単に暴発する危険を孕んでいる。他の連中にも釘を刺した方がいいかな? いや、しかしよく考えたら垢の他人だしな、そこまで気遣う義理も無いか…。


「レベルだ!」


 ヘコんでいた礼二が突然叫んだ。


「そうだ、レべリングすりゃいいんじゃん! これってどうやってレベルを確認するんだ?」


「レベル? “級”や“段”の事でしょうか?」


 エリス姫が人差し指を顎に当て、首を傾げながら言う。勿論、礼二が何の事を言っているのか理解している上で、である。純潔の乙女の如きオーラを出しつつ、なかなか底意地の悪さが垣間見れる。


「姫様、これはアレですよ。召喚した勇者や聖女の中に時折見られるアレでしょう。」


 騎士団長のジャスクが礼二を小馬鹿にする視線を送りながら口を開いた。


「『アレ』ですか…誠に申し上げにくいのですが説明が必要でしょうね。技能にせよ魔法にせよ、認定試験や検定試験を基準にした“級”や“段位”はございますが、おそらくあなた様が御想像されておられるであろう“レベル”というものは御座いません。」


「そんな…。」


 エリス姫に続けてジャスクが説明を続ける。


「今までもあなたの様な事を言う召喚者はいましたから、何の事を言っているのか予想はつきますよ。“レベル”…“キャラレべ”、“戦闘力”なんて言う人もいましたね、何ですか? それは。そんな物を数値で表すとして“1”の幅の基準になるベンチマークは何だと言うんです? あとよく言われるのが『魔獣を討伐して経験値』とかいう話でしたっけね? そんな便利な物無いですよ。そういう考え方は改めないと早々に死にますよ?

 まあせいぜい魔力には濃度に応じた規定の単位があるので数値化が可能なくらいですね。」


 言いたくなる気持ちは分からなくも無いが、そんなきつい言い方をしなくてもいいだろう。相手は高校生のガキだぞ? と竜也は思ったが、この世界では礼二の十七歳という年齢は一般的には成人とされていた。無論、竜也はまだそんな事を知る由も無いのだが。

 何にせよ、もしかしたら行動を共にする事になる可能性があるその少年のゲーム脳をさっさと諫めてくれたのは竜也にしてみれば助かった。


 まあ自動的に上がるようなゲーム的な“数値化されたレベル”は無いが、実戦経験や鍛錬で腕を上げるという意味でのレベルはあって、試験による級・段位制度でその力をおおよそ推し測れる。元居た世界と同じ、その辺に問題は無いって訳だ。頑張れ、礼二君よ。


「その魔王って奴の討伐するまで許される猶予期限はどれくらいなんだ? 当然いつまでも待っちゃくれないんだろ?」


「早いに越したことはございませんが、今すぐという訳にもまいりませんでしょう? まずはこの世界の基本的な事を知っていただきませんと、討伐の前に日常生活で挫折されてはかないませんものね。」


 おっとぉ? この姫さん、なかなか言ってくれるねえ。竜也は心の中で苦笑いした。


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