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第1話 異世界召喚された七人

 ─────学生をやっていられるのもあと2年。

 ありきたりなアパートの一室で天井を見ながらボヤく彼の名は相馬竜也。

 二十歳、都内の私立大学生、男、彼女いない歴二年…のはず。高校時代に付き合っていた彼女は遠距離恋愛でも大丈夫とか言っておきながら、彼が帰省した際に早々に地元で新しい男とよろしくやっていた。雰囲気からして彼と別れてから付き合い始めた訳ではない。要は二又かけられていたんだが、まあ二年という事にしておく。

 この相馬竜也という男、なんと小学生の頃から高校時代にかけては剣道において全国区で神童と呼ばれていた。だが、大学でも当然のように剣道部に入るもコーチや先輩とソリが合わず、一年目に大暴れした挙句にあっさりと退部。道場を営む実家に呼び出され、これまた大喧嘩で飛び出す。ここまで聞けば血の気が多い考え無しという印象だが、その実、学業成績は優秀。そのおかげで大学には通い続けさせてもらってはいるが、正直、剣を離せば人に自慢できる程のものは持ち合わせていない、ちょっと成績がいい大学生だ。

 とはいえ、剣を捨てた訳ではない。日々の鍛錬は怠ってはいない。卒業したら地元に就職して、いずれは道場を継ぐ気持ちはある。学生剣道にこだわる気持ちが無かっただけだ。


 午後の講義に出席するためにアパートを出て駅へ向かう彼の目前には、学校をバックレたのは決定的な高校生グループと外回りの最中であろうデブハゲ中年オヤジが歩いていた。


「は~…。」


 思わず溜息が出る。片や青春を謳歌する若者達(いや、自分も若造だが)、片や社会に揉まれ擦り切れた中年。このオッサンは会社や家庭ではどんな扱いを受けているんだろうか? いや、見た目は冴えないが実はデキるオヤジだっりしてな。


 その刹那、竜也の身体の周囲が光に覆われた。いや、竜也だけではなく高校生グループとオッサンもだ。光の元は地面の不可思議な紋様だった。

 竜也は体育会系の人間だ。だがアニメやゲームと全く無縁の生活をしている訳では無い。とっさに理解した。


 !? これはアレだ、魔法陣ってやつじゃないか? 異世界に召喚されるとか転移するとかそういう系の話か?


 実際に眼前で起きている現象なのだ。「あまりに非現実的、ありえない」、そう考える方が現実逃避である、という結論に竜也は瞬時に到達したのだ。

 周囲の景色がぼやけ、再び現れた景色を見た時、竜也は予想が的中したと確信する。

 夢なんかじゃない。宝くじに当たる確率なんて目じゃない。アイドルと結婚するなんて妄想すら、これに比べたら現実的と言えるだろう。そう、空想の中でしかないと思っていた現象に、彼らは遭遇したのだ。

 ─────そこは石造りの大きな広間だった。

 腰を抜かした高校生グループの女子、ポカンとする男子とオッサン。竜也は周囲を見回す。


 巨大な水晶玉を囲うマント装束を羽織った一団、俺らを召喚した張本人達かね? 奥におわすはどこから見ても“王様”と“王妃”。その横にいるお坊ちゃまは“王子”、美少女は“姫君”といったところか。派手に着飾ったお偉いさんらしき人物、鎧を着こんだ騎士様までいらっしゃる。マジかよ。


「おお! よくぞいらっしゃった、異世界線の勇者達よ!」


 いらっしゃったも何も、てめえらが勝手に召喚したんだろ?


「こ、ここは…?」


 相変わらずポカンと間の抜けた顔のままで男子高校生の中の一人が口にすると、おお、如何にも”清楚”という単語を絵に描いたようなお姫様が答えた。


「ここはレハラント王国、勇者様達が今までおられた世界線とは別世界線になります。」


「ちょっ! 困りますよ! ここが何処だっていいけど、わたしはまだ回らなきゃならないお客さんが残ってるんだ! すぐに帰してくれ!」


「申し訳ありません。私達が神から与えられたのは勇者様を召喚する力までなのです。御帰還にあたっては、この世界に脅威を与えている魔王を討伐して、神から褒賞をいただくしかありません。」


 ポンコツな事を言い出したオッサンに再びお姫様が答えた。


「アニメや漫画で言うところの“異世界転移”ってやつだな。俺らの世界じゃその言い方の方がピンとくる。おまえらもそうだろ?」


 しびれを切らした竜也が高校生グループに声を掛けた。


「そんなバカな…。」「ありえない…。」


「あなたたちは転移の際に“ギフト(天賦)”と呼ばれる特別な力を三つ授かっているはずです。是非そのお力で私達をお救い下さい!」


 まだ困惑している高校生グループとオッサンにお構いなしでお姫様が説明を続けた。


「ギフト…。チートスキルみたいなものかな?」


 少々落ち着きを取り戻した男子高校生が口にした。


「スキルですか? 転移された方はよく勘違いされますが、私どもではスキルというのは、得手不得手はありますが学習と修練によって身に付ける技能の事で、皆様の様に転移時に付与されたり、あるいは転せ…先天的な能力の事はギフトと呼んで区別しております。」


 『転生』? 今、『転生』と言ったな? という事はこの世界は“転移”と“(前世の記憶を持ったままの)転生”の両方がある世界なのか?


 竜也は“この世界”に俄然興味が湧く自分を自覚した。


 こいつらは魔王とやらを討伐すれば元の世界に戻れる、なんてテンプレな事を言いやがったが話が漠然として曖昧過ぎる。そんなの何の保証も無いじゃねえか。

 元の世界に未練はあるが、戻れないという想定はすべきだ。ゲームや漫画の様に怪我をしても「ヒール魔法で元通り!」なんて事が出来るのかもまだ分からない。だったらここがどういう世界なのか調べ上げなくては魔王討伐の冒険行脚なんてできるか、ボケ。


「申し遅れました。私はレハラント王国第一王女エリス・ラファー・シャムブラド、こちらは父のレハラント王国国王イーバル・グラストール・シャムブラド陛下、王妃で母のジンジャー・ケイマス・シャムブラド陛下、兄の第一王子シェーン・デスト・シャムブラドです。」


 国王は鼻から一つ「フンッ!」と息を吐いた。


「宰相のダンダル・コービンス、魔法省長官のフーブ・ラーエ、近衛騎士団長のジャスク・ガンダーです。」


「何か必要な物があれば申せ。全て揃えよう。」


 宰相が口を開いたが完全な上から目線である。竜也はそれが癇に障ったが、他の面々は場の雰囲気に呑まれ恐縮していた。


「まずは諸君のギフトを判定しよう。」


 魔法省長官のラーエがそう言うと、男子高校生の一人が叫びだした。


「ステータス! ステータス! …あれ、違うのかな?」


「ははは。あなた方は“そういうの”がある世界線からいらっしゃったのかな?」


 男子高校生は“そういう”能力値を表示するスクリーンの様な物がポンと飛び出すのを期待したんだろう。だが残念ながら“それ”は出なかった。そしてラーエはその事を察して笑い飛ばした。

 つまり彼らはこんな行動を何度も目撃している。

 私達の世界でも“神隠し”と呼ばれる突然の失踪は大昔からあった。もちろんほとんどは犯罪や事故だろうが、中にはこういう例もあったかも知れない。

 それに彼らは召喚対象を無数にある世界線の中のどの世界線から呼び込むかの選択は出来ない。ランダムなのだ。私達の世界と近似する世界線からの召喚者だって同じ様な言動をとったのかも知れない。

 先立ってのエリス王女の数々の発言と併せて考えると分かる通り、彼らが異世界線から“勇者”“聖女”と呼称する人材を召喚するのは結構な回数に達しているのだった。

 先人達は一体どうなった? いよいよもって胡散臭い話だ、と竜也は思った。


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