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1.放っておけない。

今日は、もう一話かな。

明日の夕方から、短編の続きに入ります。


応援よろしくお願いいたします。








「ここって……?」

「あぁ、ここは――『暗殺者ギルド』だよ」




 ダイス叔父さんに導かれるまま、たどり着いたのは薄明りが頼りな建物の中。彼はここを暗殺者ギルドと言った。でもボクは、思わず首を傾げてしまう。

 だって、暗殺者ということはつまり――。



「叔父さん。人助けと暗殺、って……正反対じゃないの?」



 そうだった。

 暗殺ということは、誰かの命を奪うということ。それはどこか、人助けとは繋がらないように思われた。しかし、ダイス叔父さんは首を左右に振る。


 そして、ボクの目をジッと見てこう言った。



「そんなことはないんだ、リーシャス。私たちの暗殺者ギルドは厳格な規則によって、管理されている。そして、その規則によって暗殺する対象は――」



 その時だ。



「う、うわああぁぁぁぁぁぁん……!」

「えっ……?」



 幼い女の子の泣き声が、聞こえてきたのは。

 その場にそぐわないそれにボクは驚き、その声のした方を見た。するとそこには、まだ年端もいかない少女の姿。

 出で立ちからして、貴族の女の子、だろうか。

 ぬいぐるみを抱えた彼女は、母親を探して泣き続けていた。



「どうしたんだい。アネッサ」

「……ダイス様。実は――」



 そんな彼女の傍らにいた黒服の女性――アネッサさんに、叔父さんが声をかける。すると、この少女が泣きじゃくっている理由が判明した。



「また、あの貴族の仕業です。この子の両親は、残念ながら――」

「……殺された、か」



 ……殺された?


 ボクはその言葉に、思わず耳を疑った。

 だって、あまりに現実味がなかったから。だけど状況からしても、ダイス叔父さんの言う通りのようだった。この女の子の両親は、ある貴族によって殺されたのだ。貴族のことはあまり詳しくない。それでも――。



「……ダイス叔父さん。この女の子、これからどうなるんですか?」

「ひとまず、今すぐに命を狙われることはないだろう。だが現状のまま放置しては、悲劇が繰り返される可能性が高い」

「それって、どういう……?」



 ボクの問いかけに、叔父さんは逡巡してからこう語った。



「一人、こういった行いを繰り返す貴族の男がいるんだ」――と。









 ある貴族の男がいる。

 名はデイビッド・アルジャス――近年、貴族の中でも頭角を現している人物だった。だが、その躍進には裏がある。


 簡単な話。

 彼は自分にとって、都合の悪い相手を殺害しているのだ。



「さらには、殺した貴族の財産を奪うなど、窃盗も行っている。王家ももちろん認知しているが、下手に手を出せば何をするか分からない相手だ」

「それで、今までずっと放置されている、ってこと……?」

「あぁ、そうだ」

「…………」



 ボクが声を震わせたのに対して、叔父さんはあえて淡々と答える。

 こんな話があって良いわけがないと、本気でそう思った。ボクは拳を強く握りしめる。どうにかできないのか、と考えた。

 だが、しかし――。



「デイビッドは、独自に暗殺集団を雇っている。こちらが無策に飛び込めば、きっとすぐにバレてしまうだろう。この任務には、異常なまでの隠密が必須になる。それこそ『誰の記憶にも残らない』ような……」

「…………」



 叔父さんが語る。

 すなわちデイビッドをどうにかするには、凄腕の暗殺者が必要だということ。しかし、どんな暗殺者であっても『記憶に残らない』なんて、不可能だった。


 ということは、八方ふさがり。

 そう、思われた。



「そこで、だ。――リーシャスに、頼みたいことがある」

「え……?」



 その時だ。

 ダイス叔父さんが、ボクの肩に手を置いてこう言ったのは。



「キミには、自身が気づいていない才能がある。その極限までの平凡さ――限りなく『記憶されない』その力を、私たちに貸してくれないか……?」



 真っすぐな、叔父の視線。

 最初は彼の言うことが、信じられなかった。

 だけど、ボクは肩越しに涙する少女のことを見て思う。



 もしかしたら、ボクにしかできない『人助け』なのかもしれない――と。



 それならば。

 ボクは、唾を呑み込んでこう答えた。



「分かったよ、叔父さん。ボクは――暗殺者に、なる」





 たしかな決意を込めて。

 このような悲劇を二度と、繰り返さないために……。




 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編を読んで、飲み込まれました。 とても面白いです! [気になる点] 一話が短いのが少し.... 個々が増えるより一個の重量をあげた方がいいと思いました。この暗殺系だとですけど、そのほうが…
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