1.放っておけない。
今日は、もう一話かな。
明日の夕方から、短編の続きに入ります。
応援よろしくお願いいたします。
「ここって……?」
「あぁ、ここは――『暗殺者ギルド』だよ」
ダイス叔父さんに導かれるまま、たどり着いたのは薄明りが頼りな建物の中。彼はここを暗殺者ギルドと言った。でもボクは、思わず首を傾げてしまう。
だって、暗殺者ということはつまり――。
「叔父さん。人助けと暗殺、って……正反対じゃないの?」
そうだった。
暗殺ということは、誰かの命を奪うということ。それはどこか、人助けとは繋がらないように思われた。しかし、ダイス叔父さんは首を左右に振る。
そして、ボクの目をジッと見てこう言った。
「そんなことはないんだ、リーシャス。私たちの暗殺者ギルドは厳格な規則によって、管理されている。そして、その規則によって暗殺する対象は――」
その時だ。
「う、うわああぁぁぁぁぁぁん……!」
「えっ……?」
幼い女の子の泣き声が、聞こえてきたのは。
その場にそぐわないそれにボクは驚き、その声のした方を見た。するとそこには、まだ年端もいかない少女の姿。
出で立ちからして、貴族の女の子、だろうか。
ぬいぐるみを抱えた彼女は、母親を探して泣き続けていた。
「どうしたんだい。アネッサ」
「……ダイス様。実は――」
そんな彼女の傍らにいた黒服の女性――アネッサさんに、叔父さんが声をかける。すると、この少女が泣きじゃくっている理由が判明した。
「また、あの貴族の仕業です。この子の両親は、残念ながら――」
「……殺された、か」
……殺された?
ボクはその言葉に、思わず耳を疑った。
だって、あまりに現実味がなかったから。だけど状況からしても、ダイス叔父さんの言う通りのようだった。この女の子の両親は、ある貴族によって殺されたのだ。貴族のことはあまり詳しくない。それでも――。
「……ダイス叔父さん。この女の子、これからどうなるんですか?」
「ひとまず、今すぐに命を狙われることはないだろう。だが現状のまま放置しては、悲劇が繰り返される可能性が高い」
「それって、どういう……?」
ボクの問いかけに、叔父さんは逡巡してからこう語った。
「一人、こういった行いを繰り返す貴族の男がいるんだ」――と。
◆
ある貴族の男がいる。
名はデイビッド・アルジャス――近年、貴族の中でも頭角を現している人物だった。だが、その躍進には裏がある。
簡単な話。
彼は自分にとって、都合の悪い相手を殺害しているのだ。
「さらには、殺した貴族の財産を奪うなど、窃盗も行っている。王家ももちろん認知しているが、下手に手を出せば何をするか分からない相手だ」
「それで、今までずっと放置されている、ってこと……?」
「あぁ、そうだ」
「…………」
ボクが声を震わせたのに対して、叔父さんはあえて淡々と答える。
こんな話があって良いわけがないと、本気でそう思った。ボクは拳を強く握りしめる。どうにかできないのか、と考えた。
だが、しかし――。
「デイビッドは、独自に暗殺集団を雇っている。こちらが無策に飛び込めば、きっとすぐにバレてしまうだろう。この任務には、異常なまでの隠密が必須になる。それこそ『誰の記憶にも残らない』ような……」
「…………」
叔父さんが語る。
すなわちデイビッドをどうにかするには、凄腕の暗殺者が必要だということ。しかし、どんな暗殺者であっても『記憶に残らない』なんて、不可能だった。
ということは、八方ふさがり。
そう、思われた。
「そこで、だ。――リーシャスに、頼みたいことがある」
「え……?」
その時だ。
ダイス叔父さんが、ボクの肩に手を置いてこう言ったのは。
「キミには、自身が気づいていない才能がある。その極限までの平凡さ――限りなく『記憶されない』その力を、私たちに貸してくれないか……?」
真っすぐな、叔父の視線。
最初は彼の言うことが、信じられなかった。
だけど、ボクは肩越しに涙する少女のことを見て思う。
もしかしたら、ボクにしかできない『人助け』なのかもしれない――と。
それならば。
ボクは、唾を呑み込んでこう答えた。
「分かったよ、叔父さん。ボクは――暗殺者に、なる」
たしかな決意を込めて。
このような悲劇を二度と、繰り返さないために……。