ドラゴン?
「ピギィ!!」
お腹の上に座った子豚が元気よく鳴き声をあげる。興奮した様子でこちらを見つめてくる。
「あれ?これは?」
ノアの想像していた生物とは違う生き物。垂れた耳と大きな鼻、紛れもなく豚である。
予想外の出来事に驚いた様子でジャックに質問する。
「うむ…これは豚じゃな。」
ジャックは先程の召喚の様子を見て、何か強大な力を持つドラゴンが出てくるとばかり考えていたようだ。しかし召喚されたのは子豚で周りにドラゴンがいる様子も無い事を確認する。
「今までドラゴン以外の生物が泉から召喚されたという話は、長い事生きて来たが一度も聞いたことがない。」
「どうやらお前が召喚したのはその豚で間違いないようだ。」
ジャックの言葉を聞いたノアは豚の方を向く。
豚はノアの手首の辺りを楽しそうにペロペロと舐めている。
「ずっと夢だったのに…」
「俺…冒険者にはなれないのかな…」
ノアがどこか悲しそうにジャックに聞く。冒険者になる事はノアにとって夢であり、憧れだった。
小さい頃から何度も想像したドラゴンの姿は無く、目の前には子豚が居るだけだった。
「それは分からない。召喚したその豚はお前と共に生きて成長するんだ。大切なのは召喚したのが何であれ、絆だと思うぞ」
「気持ちも落ち着かないとは思うが一旦ワシの家に来なさい。話をしよう。」
ジャックはノアにそうとだけ言い、家に向かう。
ノアは戸惑いながらも子豚を両手に乗せてジャックに着いていく。
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【ジャックの家】
森を抜け、住宅街から少し離れた丘の上の小さな家でジャックは妻と従えるドラゴンと暮らしていた。
扉を開けると白い髪が美しい女性と岩のような鱗で覆われたドラゴンがノアを迎えてくれた。
「帰ったぞ!」
「おかえりなさい。あらこの子は?」
ノアがおそるおそるジャックの後ろから顔を出す。抱えている豚はフガフガと鳴きながら辺りを見回している。新しい場所に興味津々な様子だ。
「あぁ…ローズ。こいつはノアだよ。今日の召喚式が終わったから連れてきたんだ。」
「ふーん。ノア君の連れてるのはペット?召喚式が終わったならドラゴンはどうしたの?」
ローズと言われた女性はノアに問い掛ける。
「召喚したのがこの豚なんです。だからドラゴンは居ません。」
「へー、そうなんだ。まぁ、上がって!」
予想に反して特に驚く事も無くローズはノアに言葉を返す。
玄関で話していたノア達はローズに案内され、家の中に入っていく。
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リビングに置いてある大きなソファにノアとジャックが座り、ローズはキッチンへ向かった。
「珈琲でも大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます。」
ノアは聞こえるよう大きな声で返事をし、ジャックは無言で頷いた。夫婦の長い付き合いだからこその阿吽の呼吸というやつだろうか。
ローズの出してくれた珈琲のカップを手に取り口に入れる。森まで走り、ここまで歩いてきたので少し苦い珈琲がいつもより美味しく感じた。
一仕事終えたローズがソファに座ると、ノアの抱えた豚はローズの膝に飛び移って座った。
膝の上でピョンピョン飛び跳ねる豚を見てローズは笑っている様子だ。
「この子、名前は?」
「そういえば決めてませんでした。」
ローズの素朴な質問にノアが返す。
「召喚したら名前を付けるのが古くからの習わしだ。ノアも考えてみると良い。」
これからの人生の相棒に付ける名前だけあって、適当に考える訳はいかず、ノアは頭を悩ます。
「そうだこんなのはどうかしら!…………」
ローズが明るい声色で提案する。
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