「隙間」
前作「河童」が長かったので、読みやすさを意識してみました。
今回は風刺を強めに書いてみました。
ある豊かな国の豊かな町の隅に、小さな小さな「隙間」があった。
ある日、ある男が、道に空き缶を捨てた。
「隙間」は、捨てられた空き缶を吸い込んだ。
「隙間」は少し大きくなった。
ある日、ある女がたばこの吸い殻を花壇に捨てた。
「隙間」はその吸い殻を吸い込んだ。
「隙間」は少し大きくなった。
ある日、ある男が、ペットボトルを川に捨てた。
「隙間」はそのペットボトルを吸い込んだ。
「隙間」は少し大きくなった。
人々は、ビニール袋を、段ボールを、弁当の容器を道に捨てた。
「隙間」はそれを次々と吸い込み、少しづつ大きくなっていった。
人々は、使い終わった洋服を、家電を、車を、街に捨てた。
「隙間」はそれを吸い込み、少しづつ大きくなっていった。
豊かな国の豊かな街に、「隙間」があった。
ある日、男が物を盗んだ。
「隙間」は、その男を飲み込んだ。
「隙間」は、少し大きくなった。
ある日、男がスリをした。
「隙間」は男を吸い込んだ。
「隙間」は、少し大きくなった。
ある日、女が詐欺をした。
「隙間」は、女を飲み込んだ。
「隙間」は少し大きくなった
そのあとも、人々はストーキングをし、脅迫をし、暴力をふるった。
そのたびに「隙間」に飲み込まれ、「隙間」は、少しづつ大きくなっていった。
ある日、男が人を殺した。
「隙間」は男を飲み込んだ。
「隙間」はまた大きくなった。
その後も人々は、強姦をし、惨殺をし 虐殺をした。
そのたびに「隙間」に飲み込まれ、「隙間」は少しづつ大きくなっていった。
ある豊かな国の豊かな街に、大きな大きな「隙間」があった。
「隙間」は時とともに大きくなっていき、やがて街を飲み込んだ。
そして「隙間」に覆われた町は、ごみにあふれ、犯罪が横行した。
あの豊かな国の豊かな街は豊かではなくなってしまった。
あの小さかった「隙間」も、「隙間」ではなくなってしまった。
誰の心にもある、「これくらいなら」という「隙間」の恐ろしさを感じてもらえれば幸いです。
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