3話 俺、反撃します!①
時は少し遡る
私、中野優は自分の自己紹介が終わり、留糸の自己紹介を聞いていた。
それを聞いていたクラスメート達は、半数以上が笑っていた。
能力を嘲笑っている者。
自衛隊のお手伝いをするために学校に入った事を知って、面白いと感じた者。
その他にも、違う理由で笑っている者も少なからずいる事が私には分かった。
でも、私は笑う事が出来なかった。
なぜなら、留糸は私の恩人であるからだ。
過去にいろいろあり、助けてもらった恩人を笑えるはずが無い。
私は、留糸に少しでも恩返しが出来たら良いなと思い、留糸に付いてきた。
留糸からは、「将来やりたい事があるんなら、この学校はやめとけ」って言われた。
私のやりたい事は、あなたへの恩返し。
将来の夢は諦めているから。
いや、もしかしたら私は少し期待しているのかも知れない。
この学校なら、私の将来したい事が見つかるかも知れない。
この学校なら、なにか、ヒントが見つかるかも知れない。
と、そんな事を考えていると、留糸と入れ違いになってみんなの前に出てきた坂本先生が、締め括りの言葉を話していた。
その時だった。
急に胸騒ぎがした。
なんだろう、この違和感。
なぜ急に足が震えているの?
この感情は…恐怖?
何に対して私は恐怖心を抱いているの?
これから起こる事に恐怖を感じてるの?
いろいろな事が頭によぎった。
そして、その恐れている正体がわかった。
授業終了のチャイムと同時に、激しい爆発音があちこちから聞こえてきて、訓練場や校内の建物が崩れていった。
「きゃぁぁああ!!!」
「くそぉ!!なんだよこれ!!」
「痛い痛い!誰かぁ!!助けてくれぇ!!」
あっちこっちから、悲鳴や怒声が聞こえる中、私は、【女神憑依】の能力を使い、近くにいたクラスメート3人を覆うように『バリア』を張った。
「え?あれ?…俺、生きてる?」
「た、助かった?」
「あぁ神様…生かしてくれる事に感謝します…!」
正しくは女神様だけど、今の私は神様に見えるらしい。
【女神憑依】は、天界に存在する様々な女神と契約し、自身に憑依させ能力を行使出来る。憑依している間は女神と体を共有するため、見た目が女神寄りになる。
今の私は、『女神・アルテミス』と契約している。
15歳になった時の夜、夢の中の私の目の前にアルテミスが現れた。
アルテミスは、私の持つ【女神憑依】と、アルテミス自身が持つ能力の説明だけをして「上手く使え」とだけ残し、何処かに消えた。
今使っている『バリア』は、自身の体力が持つ間、物体を無効にする能力。
無事三人を守りきった私は、目の届く範囲にいた留糸の安否を確認しに行った。
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今だに爆音が轟く中、留糸のもとに駆けつけた私は、その酷い有り様に目を見開いて両膝を落とし絶望していた。
仰向けの状態で瓦礫の下敷きになっている下半身はぐちゃぐちゃに潰れており、半開きの状態になった目は、こちらを見つめているように、死んでいた。
「なんなのよ、これ…」
その周囲にも、ついさっきまでバカみたいに笑っていたクラスメートが死んでいるのを、私は直視する事が出来なかった。
と、その場に崩れている私の背後から複数の男が近づい来るのを感じた。
「おいおい、こんところに仕留め損ねた奴がいるぜ?」
「おぅ、本当だな。なぁ、こいつ結構上玉じゃねーか?」
「犯すか。どうせ殺すんだ、気持ちよくしてもらっても罰は当たらねぇよ!」
「じゃあ俺は、上を貰うぜ?」
「お前の性癖は今でも分からねぇよ」
などと下品な内容を話しながら私に触れようとした。
その瞬間
「そこまでだ!その子にちょっとでも触れてみろ。お前達を切るぞ!」
瓦礫の上から男達を見下ろすように、クラスの委員長・風馬翔君が立っていた。
「お前達はテロ組織かなにかか?知っている事を話せ!」
「あ?生き残りがまだいたのか。まぁいい。おいお前ら仕事だ。あいつを殺して続きをするぞぉ!」
風馬君の質問を無視し、数人がかりで襲いかかった。
「はぁ、質問を無視して殺しに来るとは…。僕は君達みたいな人間が大嫌いだ!」
そう言いつつ風馬君は、自身の目の前に手をかざして「start up!」と叫んだ。
すると手をかざしたところの空間が歪み、そこから
自身の身の丈ほどある大きな西洋剣が出てきた。
風馬君はそれを手に取り、複数人いる敵に突っ込んだ。
「あんなデカイ剣なんか振り回していたら、必ず隙がうまれる!そこを狙え!」
敵のリーダーらしき人がそう叫ぶと、他の敵が風馬君の周りを囲むように動いた。
完全に囲まれた風馬君は多勢に無勢で殺られるかもしれない。
私が戦闘に参加すれば、まだ勝率は上がるはず………
でも……
留糸を守りきれなかった私は…
留糸に守られっぱなしの私は…
何をしたらいいの?
昔、留糸に守られた私は、あの日以降、なにか恩返しが出来ないかと思って、今日まで引きずってきた。
人はいつ死ぬか分からないのに、明日も会える事が当たり前だと勝手に思い込んでいた…
そんな私が…みじめで…あわれで…憎い!
そして…ついさっきまで生きていた彼を死なせてしまった事が、とても…悔しい…!
そんな感情が私の中で渦巻いており、今何をしたら良いのか分からなくなっていた。
私は、そんな自分と葛藤していた。
その時だった
「あれ?なんだこの状況?なんであのイケメンがむさい男に囲まれてるんだ?」
死んだはずの私の恩人・雪村留糸が、びっくりした顔で周りを見回していた。