偽善滅罪幸福論 4/6
家に帰ると、母親がもう既に夕飯を作って待っていた。
「優、今日は随分帰りが遅かったじゃないの。どうかした?」
やけに嬉しそうにほほ笑む母親。
「ううん、何でもねぇよ」
俺もちょっと嬉しそうに返した。
「お友達でもできたの?」
「まぁそんなとこ」
母親は偉大だ。
直ぐに俺の心の内を見抜いてしまう。
中学時代いじめられていた時も、俺の気持ちを汲んで寄り添ってくれた。
その当時は「俺の何が分かるんだ」って心にもない事思ってたけど、今にして思えば全部バレてたんだろうな。
ホント、エスパーみたいな人だよ。
そんな能力あったら、俺だってもっと早く深瀬の内情だって知れたはずなのに。
それどころか、何故俺に構ってくれるのか分からない三人の心の内まで見てみたいくらいだな。
「そういえば、凛ちゃんがさっきウチに来たわよ」
母がそう言った。
「…え? なんで凛が?」
俺は意味が分からなかった。
「なんかあんたが心配だからって言ってたけど? それにしても、あんた達ヨリを戻したのねぇ~」
「いやそもそも付き合ってねぇし! にしても、何しに来たんだ…?」
「そんなの明日聞いたら良いじゃないの。あんたたち同じクラスなんでしょ?」
「まぁそうなんだけど…、止むに止まれぬ事情があるというか…」
「…大体察しは付いてるわよ」
「ご理解が早くて非常に助かります」
「まぁゆっくりやったら良いんじゃないの? 人生長いんだしね」
「長く生きてらっしゃるおばさんの意見は参考になります」
「誰がおばさんよ! お姉さんとお呼びなさい!」
「いてっ! 何だよ叩く事ねぇだろ(笑)」
我が家の食卓に笑顔が戻った瞬間である。
俺が普段仏頂面でメシ食ってたからだと思うけど、いつもはこんな会話を交わす事なんて滅多に無かった。
やっぱり会話が弾むとメシも美味く感じる。
「そういえば父さんは?」
「今日も残業で遅くなるんだって」
「…大変だな」
「そうよ。しっかりあんたも感謝しなさいよね。誰のお陰でこんなに美味しいご飯食べられると思ってるの」
「へいへい、分かってますよ」
父親は何食わぬ顔であり得ない時間の残業をこなし、平静を装って深夜に帰宅する事が多いが、俺だってもう子供じゃないんだし分かっていた。
親父はずっと俺たち家族の為に無理している。
それなのに、一言も愚痴や弱音を吐かずに直向きに仕事に取り組むその姿は、何よりも地味で、それでいて輝いて見えた。
しんどい顔一つ見せずに、無理難題に一生懸命に取り組んでいくそんな親父を素直に尊敬していた。
親父みたいな大人に、俺はなれる気がしなかった。
親父の偉大さを、俺はいつだって遠巻きに眺めては肌で感じていた。
でも何故親父はそこまでして、家族を支えようなどと思うのだろうか。
一家の大黒柱だから当たり前と言ってしまえばそれまでだが、何か他に理由があるのか。
「母さん」
「何?」
「父さんって何時頃帰るか分かる?」
「そうね~、大体十二時を回るくらいかしらね」
「わかった、ありがとう」
「なぁに~? 何か企んでるんじゃないの~?」
「い、いや、何も企んでなんかねぇよ…」
俺は食べ終えた食器を片付け、自室に戻ってその時を待った。
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