群青と漆黒 2/6
そんなこんなで、高校の最寄駅である『あさぎ野駅』の駅前に到着。
徒歩約二十分、あっという間に過ぎた時間に名残惜しさすら感じた。
有松はこれからバイトだと言っていた。
バイトなんてしてるなんて、なんて大人なのだろうかと感心した。
どの目線で言ってんだって感じだけど、コミュ障拗らせてる俺にはバイトなんて無理だな。
接客なんて確実に会話成立しねぇし、裏方の仕事ですら仕事仲間達と意思疎通取れる気がしねぇ…。
「バイトしてる」と聞いただけで、物凄く大人に感じたし、どこか遠い存在に思えた。
あ、でも有松が大人に見えるは流石に言い過ぎた、前言撤回。
駅前にある交差点で手を振り、有松と俺らは互いに別れを告げる。
こんな高校生っぽい事、俺が出来るなんて感無量だわ。
ホントここまでの不条理全部取り返してるんじゃないかって思えるくらい上手いこと話が進んでて、もはや恐怖すら覚えるほどだった。
人生の幸福の程度は、全員人生単位で同じ値に均されると聞く。
前半の不幸分を取り戻してるのかもな、とまた下らない事を考えていた。
きっとそんな単純なものではないんだろうが、そう考えるのが己の心を落ち着けるおまじないみたいな節があった。
ただただ後に来る不幸に目を向けたくなかった。
そんな弱さを、こんなところでも全面的に発揮する圧倒的雑魚感。
IQ4くらいの頭悪そうな人生マジ考察は凛の声で掻き消された。
彼女は相変わらずの透き通った綺麗な声で、恥じらいながらなのか、顔を紅潮させて訊いてきた。
「あ、あの、優はさ…、あたしのコト、今もキライ?…」
いやそんな顔で上目遣いで言われたらキライとか言えませんやん。
異性として意識してなくても、無理矢理意識させられるようなとんでもない必殺奥義、一子相伝のトドメの一撃みたいなの食らわせられた気分。
もちろん俺はブッサイクに吃って言った。
「い、いや…き、嫌いとかそ、そういうの、は…無い」
そんな気色悪い俺の返事に凛はホッとした表情で言った。
「良かった…。あたし嫌われちゃってたらどうしようと思って…」
え、なにそれどういうこと?
そういう意味深な事は童貞の前で言っちゃダメって保健体育の授業でやらなかった?
まさかとは思うけど凛が俺に気があるだなんてパラレルな話あったりすんの?
あったとして、俺は何て返事するんだろうか?
俺の脳はフル回転で既にオーバーフローしてしまっていた。
しかしふと思い返すと「あたし別に優のコト嫌いだし」という数十分前の凛の発言が俺のフィールド上にアドバンス召喚される。
リリースされた残念すぎる俺の妄想、理想は須く墓地へと送られる。
あ、そうだった。
凛は俺の事嫌いだけど、幼なじみという立場上仕方なく関わってくれているのだ。
思い上がるな、舞い上がるな。
ダサい、キモい、はしたない邪念を一切かなぐり捨て、悟りを開くのだ、春日優…。
「これからもよろしくね、優」
脳天直撃、会心の一撃、俺にとっては痛恨の一撃を一発、とても大きな一発を食らった。
その微笑み、ズルイわ。
やっぱ俺は煩悩を何一つ捨て切れないどうしようもない男だったんだと。
どういう意図で言ってるだとか、どういう感情でその微笑みを見せているのだとか、一切推理不可能、逆シャーロックホームズ状態だったが、俺はすかさず言った。
「おう、こちらこそ世話になるわ」
よく言えたわマジで。
褒めて欲しい、頑張った俺。
帰り道、駅から家までの道のり。
そう遠くはないその帰路の途中、何気ない会話を楽しんでいると、俺らが歩く真後ろで声がした。
その声は聴き馴染みの無い声だったが、その話し方、言葉遣いや雰囲気で、一秒の考える隙を与える事なく、誰の声か判った。
そしてその会話する声は、あろう事か俺たち二人に気づいたようで、突然名前を呼んだ。
「あ、西野じゃん」
その声を聞いて、俺は肩が竦んだ。
震えが止まらなかった。
心臓の鼓動が、小動物のそれと遜色ないくらい速く脈打った。
今すぐこの場から走り出して、逃げてしまいたかった。
その声に気が付き、振り返る凛。
…振り返らないでくれ。
そんな願いが届くはずもなく、凛は応えた。
「……掛川」
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