イタ告から始まる恋 1/4
「―大きくなったら、絶対結婚しような」
「―うん、約束だよ」
バンッ
「起きろ、春日。授業中だぞ」
分厚い国語便覧が頭を直撃した。どうやら授業中らしい。
現国の先生が、難しい言葉をだらだらと話しているその声で気が付いた。
あぁ、夢か。道理でおかしなわけだ。
何故か俺がやたら幼い女の子と話してたのはそういうわけだ。にしてもホント嫌な夢見たな。
この夢を起きてすぐ夢と判断できたのはほかでもない、俺がぼっちだからだ。
俺は友達がいない。基本的に誰とも話さず一人で行動している。学校に俺の居場所などない。
授業中は寝てばかりで授業にはついていけていないが、その割には赤点ギリギリで留年を回避して、なんとか二年に進級できた。
人間関係以外は、なんやかんやで卒なくこなしている自負がある。
さて四限の授業が終わったが、どこでメシを食べようか。
ほとんどの生徒は教室で食事している。
俺がいる二―四教室もその例に違わず、多くの生徒が教室にいるお陰で、教室内で食べるのは流石に肩身が狭い。
どこぞのラブコメみたいに、わが浅葱野高校は屋上が自由に使えるわけではない。
そりゃあ危ない屋上に立ち入りを許可してたら、今のご時世親どもから何を言われるかわからないだろうし。
ここ最近ずっと便所メシしてたけど、便所だとニオイでメシが不味くなるから、便所というのも選択肢から外れる。
外のベンチで食べるとなると、イチャつくカップルが目に付いて虫唾が走る。
…であるならば、俺はどこへ向かえばいいのか。
そんな事を考えながら弁当箱片手にブラブラ歩いていると、急に後ろから声をかけられた。
「せーんぱい!」
体育館の更衣室前で出逢ったその声の主は、栗色の髪の毛がよく似合う、笑う顔が素敵な、背が低くてとても愛嬌のある女の子だった。彼女のそのとても大きな目は、吸い込まれそうになるほど、澄んでいて美しかった。
彼女は俺に再び笑顔を投げかけると、またその甲高い声で同じ言葉を俺に向かって発してきた。
「せんぱーい! よかったら一緒にご飯、食べませんか?」
素晴らしい提案だったが、俺は長年拗らせていたぼっち&コミュ障のせいで、凄く気持ちの悪い返事しかできなかった。
「あ…あの、お前…誰…?」
彼女はそんな俺に対しても律義に返してくれた。
「私は一年の千野美沙です! 美沙って呼んでもらって構いませんよ?」
あ、やばい。めっちゃ可愛い。惚れそう。
長年苦楽を共にしてきた童貞という呪いの影響により、俺は彼女に毒されていく。
しかし、俺はそこまで愚かではない。すぐに冷静さを取り戻し、ふと先人の非常にありがたいお言葉を思い出した。
『女の発言・態度・表情、見える全ての振る舞いのうち九割五分が嘘である』
このお言葉のお陰で、誰にも騙されず今日まで生きてこられたのだ。
こいつだって、何を企んでいるか分からない。
「ご、ごめん…。俺ちょっと行かないといけないとこがあってさ…」
下手くそな嘘でどうにかこうにか誤魔化し、その場を去ろうとした。
「え~、先輩待ってくださいよ~」
そんな事を言いながら、千野は俺の周りをちょこまかとついてくる。
それを無視しながら歩いている最中に、気が付いてしまった。
視聴覚室、人が集まって話している。
―そうだ。今日、学級委員長会じゃん…。
俺は二年四組の学級委員長だった。
と言っても、俺が好きでなったわけではない。
理由は単純。クラスで誰も立候補者がおらず、学活の時間居眠りをしていた俺に、その面倒な役回りをクラスの奴らが押し付けたまでだ。
で、俺はやりたくもない学級委員長の大任を拝したわけだが、そのせいで月に一回開催される学級委員長会に参加しなければならなかった。
その会合がまさに今日の昼休みだったのを、俺はすっかり忘れていた。
「そ、そうだ。俺学級委員だからさ…」
まるで今思いつきました、みたいな理由を頼りない声で彼女に説明した。
すると、千野は少し寂しそうに、上目遣いで言った。
「あぁ、そうですか…。それは残念ですね…」
正直申し訳ないと思ったが、心を鬼にして言った。
「申し訳ない、そういうことなんで」
あ、言ってから思ったけど全然鬼になってないよな。何言ってんだ俺。
すると千野は、俺に思いついたかのように言った。
「あ、あの、じゃあもしよかったら、今日の放課後、私に時間ください! 自転車置き場の裏で待ってますから!」
え、っちょ、何? 告白?
いやそんな事考えてる余裕全く無いわ…早く教室入らないと…。
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