2-26 二人の朝
「おはよ」
「おはよー」
俺達は少し照れくさい遅めの朝を迎えたが、今日は一緒に楽しくこの街でデートする約束なのだ。
生憎と在庫がないので夜明けのコーヒーとはいかないが、俺達はフォミオが俺の要望通りに織機を使って生地から作ってくれた、地球の欧米系ホテルで出て来そうな着心地のいい上等なガウンを着て、ペットボトルの緑茶で乾杯した。
「いーなあ、日本のお茶。
よかったの、こんな貴重品を出してもらって」
「あー、なんていうかな、そのあたりはいろいろあって」
「う、うん。訊かないよ。
ハズレ勇者の君が今更有用だってバレたら、またゴタゴタするものね」
「ああ、最初から向こうにいたのならいいんだが、今更だとなあ。
勇者の中に三分の一くらいいる、俺を蔑視しているあいつらと揉めるだけだろうし。
大方、君ら女性勇者に嫌がらせしている連中がまさにそれだ」
「あー、言えてる言えてる」
まあ、その女性勇者の中にもその三分の一に該当する連中が一部いるのだが、それはこの楽しい時間に言いっこなし。
言わぬが花の物語だ。
「ねえ、あなたがいる村ってどこ?」
「ああ、例の荒城があっただろう。
あそこからこっち方面に向かって最初にあるところでアルフ村というんだ。
通称、焼き締めパン村だ」
「やだ、何それ」
「昔、あの砦で戦があって、砦を撤廃しつつも監視用にあの支援用の村を残したんだ。
今でも住人は買い物難民なのも相まって、焼き締めパンを齧っているのさ」
「うーむ、あれをかー」
「あれも食べ方次第でそう悪くはないぞ。
俺は最初あれしかなくてな。
食べ方は結構工夫したんだから」
「へえ、もう焼き締めパンの達人ねー」
「おう、新焼き締めパンまで開発されたし、焼き締めパンスープはこれまた絶品なのさ。
今度秋にお祭りやるんで来ない?
あれこれメニューは開発中なんだ。
ほらほら」
俺は先日開発したメニューを見せてあげた。
スモモ飴やチョコスモモ、わらび餅などを見せた。
「うわ、これチョコだね、あるの?
この世界にチョコが」
「たぶん無いと思うが、向こうからの持ち込み品なのさ」
「え、持ち込み?」
俺はチョコその他のお菓子を見せてやった。
その他、ロッシェや金平糖なども見せた。
「う……わ、凄い。
ありえないし、また凄く量があるね」
「あはは、まあそこのところは企業秘密という事で。
収納に入れてあったものだから消費期限なんかは気にしなくていいよ。
あと、こいつはどうだい」
俺が見せてやったものは、例の非常食のアルファ米のオニギリだった。
それも山盛りで、ペットボトルの御茶も大量につけた。
「うわあ、ありえない。
インスタント・オニギリだあ。
こんな製品があったんだなあ、って何でこんな物を異世界に持ってきているのよ」
「ふふ、サラリーマンを舐めるなよ。
あの少し大きめの鞄を持ち歩いている奴らの常備品はこういう物なのさ」
「うっわー、それはちょっと引くわあ。
あれ、もしかして……あれこれと数が増やせるんだ?」
「ああ、そうだ。
でも内緒で頼むよ。
いろいろあってなー、本来なら絶対に増やしちゃいけない物までも増やしちゃっているんで」
すると、彼女はあのマーリン師のお店での金払いのいい一幕を思い出したものか噴き出した。
「いやあ、それは重罪だわ。
やだわー、あたしの新しい彼氏って重犯罪者だわー」
「しゃあねえだろ、こっちは無一文で放り出されたんだから、ほんの賠償金や給料代わりさ。
こう見えて、結構魔物だの厄介なネストだのを無給で退治しているんだから、そこは堂々としたもんさ。
君らはお金をどうしているんだい」
「ああ、お小遣いを貰っているからそう不自由はしないよ。
御飯はちゃんと出るし。
あれこれと利殖して増やしている人はいるわね」
「へえ、どんな感じに?」
「王都の商会とつるんで、あれこれとタイアップ商品を作ったり、デザインの権利を売ったり。
魔法でバイトしている人もいるしね」
「あっはっは、じゃあもし王都に行ったら日本風のいい商品があるかもなあ」
「うん、よかったら遊びに来てよ。
王都はこの世界でも結構都会だよ。
なんていうか物凄く派手な街だしね。
うーん、君との連絡をどうしようか」
「そうだな、君が迎えに来てくれてもいいぞ。
君が暇な時に遊びに村まで来てくれてもいいし。
今カイザっていう騎士の家に世話になっているんだが、丸太小屋の別荘みたいで素敵さ。
村長の息子のゲイルって人に聞いても、顔見知りだから案内してくれるよ。
後は村に一軒しかない鍛冶屋が、仕事をしょっちゅう頼んでいるんで俺とは親しいかな。
今度自分用の小屋もフォミオに作らせようと思っているんだ」
「いいわねー、素敵」
「君らって休みは?」
「まあまあ貰えているわよ。
まだ本式に魔王軍とやりあっている訳じゃないの。
今は小手調べ程度で、第一あの最強の姉妹が参っちゃって逃げちゃったしねー。
碌に訓練とかしないうちにあの子達を敵にぶつけるんだもの。
馬鹿なんじゃないの、この国。
あの王様は非常によく出来た方だけど、本当に苦労しているっぽいわ」
「あらまあ、そいつは大変な事だ」
「まあ私はスキルの性格上、偵察とかこういう特別な任務が入った時は忙しいけど、それもこの世界はアバウトだから、こんな風にしていても別に怒られないし特別手当も貰えるしね。
あちこち行けるのはいわ、気も紛れるし」
「まあ景気がいいのはいい事さ」
そして俺達はまた二人でじゃれ始めた。
なんかこう、ようやく俺も今までの悲惨さの埋め合わせができてきたような気がする。




