2-25 楽しい夕べ
間もなく彼女が俺の部屋に来てくれた。
うおー、女の子をお部屋に迎えるなんて何年振りか。
しかも会社の受付嬢を務めるほどの超美人で、まさに俺のストライクゾーンど真ん中そのもので、超好みの美女なんだぜ。
彼女も、今度は普通っぽい服装で思いっきり御洒落をしてきてくれた。
俺もあちこちで仕入れてきた服で、それなりに御洒落なスタイルで彼女を迎えた。
「おまたせ、食堂へ行く?」
「いや、ここの部屋で食べようよ。
図体のでかい目立つフォミオもいるしな。
ここの方が皆も気兼ねがない。
ここは俺達勇者が行くとあれこれ目立つような高級宿だし」
俺は宿の人間を呼んで、夕食を部屋まで運んでもらえるように頼んだ。
そして彼女は若干羨望の眼でフォミオを見て言った。
「そうねー。いいなあ、従者付きの身分は」
「あれ、一応は勇者なのに使用人くらいつけてくれないのかい?」
「まさかあ、そんな待遇はあの勇者の子くらいのもんよ。
王様も、あの宗篤姉妹達にはもう少し待遇よくしておくんだったわね」
「そうか、あの子達がいなくなったのって、そういうのもあるのかねえ」
だが、それを聞いた彼女はなんとも言えないような感じに表情を曇らせた。
「あー……なんていうかさ、あれはそういうんじゃないんだよね。
会った時にあの子達から聞いていないの?
ちょっと十代の女の子には厳しかったかなっていう感じで。
気の毒としか言いようもないわ。
まあ、あたしも空から見ていただけなんどさ。
あたしが直接敵とやりあった訳じゃないしね」
「やりあった?」
「あ、ああ、うん。
他にもいろいろとあってさ。
その件については、あまりあたしの口から話したくないのよ。
今度あの子達に会ったら直接聞いてちょうだい。
話してくれるかどうかはまた別なんだけど」
「わかったよ、そうする。
ごめん、あまりお食事前には相応しくない話題だったみたいだね」
「いいの、あたしこう見えて結構図太いもの。
空を飛べるんだから、そうでなかったらとっくに逃げちゃっているわ」
「そうかあ、王都行きになった人も大変なんだなあ」
「うん、特に女の子勇者はねー。
勇者の男どもに限らず、この国の貴族だの大商人だの、言い寄ってくる変な奴がいっぱいいるわ。
中でもあの腐れヤンキーどもとか、自分は偉いとか勘違いしちゃっているファッキン親父どもとか。
もう、どいつもこいつも碌な奴がいなくて馬鹿な男ばっかりでうんざりよ。
あたしらだって男が欲しくないわけじゃないんだけどさ、あれは無いわあ。
女の子同士で同盟を組んで、夜とかはあいつらは近寄らせないようにしているのよ。
こっちの男にも碌な奴がいないし、やっぱり文化の違いというか価値観の違いはどうあがいても埋められない感じね」
「あっはっはっはっは。
そいつは笑える~。
それって王様の新しい頭痛のネタになっているんじゃないの。
どうせなら男の勇者連中には、こっちの女でも宛がっておけばいいのによ」
だが彼女は眉を顰めてこう言ったのだ。
「それはもう実施済みよ。
その上での狼藉なのよ、あいつらは」
「あーあー、それはまた」
勇者の男どもめ、どこまでも馬鹿なんだな。
そんな女を宛がってもらっているというのなら、それで我慢しておけばいいものを。
きっと、それなりの女性を与えてもらっているのに違いないのだから。
だがその俺を見て、泉がこんな事を言いながら弄ってくる。
「ふっふー、ハズレ勇者君がちょっと羨ましそうにしてる~」
「ば、馬鹿言えー。
我が家にだって『可愛い女の子』くらいいるんだからな。
もっぱら子守り専用の幼稚園児のチビっ子達なんだが」
「あっはっは、それはいいわね。
あんたって、なんか凄く子煩悩そうなんだけど、国に家族はいるの」
「親兄弟はいるけど、幸いな事に自分の分はいないよ。
だけど、おっさん達なんかは女房子供を日本に残してきているんだろうから、半ばヤケッパチなところがあるんじゃないのかな」
「ああ、そうなのかもしれないわねー。
そうそう、あの国護のおっさんだけはモテているわよお。
日本の夜の街でも鳴らしたものだったみたいで、女の子にはマメねえ。
あのおっさんだけは例外で勇者の女の子達からもモテているわあ。
残りのマシそうな性格の男といえば、みんな凄いおっさんっぽい人ばっかりだから、いくらいい人でもちょっと無理。
あの人達は女性をあてがってもらうのを拒否していたわ」
「あははははー。
やるな、国護のおっさん。
それはわかるな。
でも、あの国護のおっさんから無理に女の子にコナかけてなんていかないだろう。
ああいうところはきちんとしていそう。
日本でも一度気に入ったら、その子一筋って感じだったぜ」
「そうそう、王国からつけられた女性にも凄く優しくてさ。
みんなの前で素敵なプレゼントを渡したり花を贈ったり、そっと手を取って『さあ、アメリア。帰ろうか、俺達のスイートホームに』っていう感じでさあ。
その彼につけられた彼女の方も、もうあのおっさんにメロメロなのよ~。
もうあれは傍からは、見ていたいんだけどやっぱり見たくないかなみたいな、この気持ちわかるー?」
「あー、わかるわかる」
俺達はすっかり意気投合してしまい、お話は尽きず、楽しい食事も終わったが時も忘れて語り合っていると、気がつけばいつの間にか他の二人が部屋にいなかった。
「あれ、二人ともどこへ行っちまったのかな」
「あはは、心配ないわよ。
あの商人さんも、この街のどこかにいい人がいるんじゃないの?」
「ああ、そうなのかもしれないな。
行商人なんて、まるで港ごとに恋人がいる船乗りみたいなものなのかもしれないね」
しかし、そいつは俺も気が利かなかったかな。
さっさとショウを開放してやればよかった。
まあそんな事をしたら、泉には会えなくって今の楽しい時間はなかったのだろうが。
おっと、忘れないうちに例の贈り物を渡しておかないとな。
「そうそう、こいつを渡しておくよ」
そう言って俺は、お菓子の入っていたセロファンとその口を縛っていたモールでラッピングしたエリクサーを彼女に進呈した。
「うわあ、素敵。
あはっ、エリクサーがちょっと可愛くなってるー」
「まあ、ここじゃそれがせいぜいなんだけどな。
ああそうだ、君はポーションをどれだけ持っている?」
「うーん、上級は各一個かな。
品薄だから、あたしみたいな下っ端勇者にはそんなに回ってこないのよ」
「ひでえな。
真っ先に戦場に向かう偵察が任務の貴重な飛行勇者なのに。
確か、魔王軍には強力な対空魔物がいるから、空を行くのは難しい状態なんだろう。
じゃあ、これも持っていけよ」
俺は四種類のポーションを各十本くらい出して泉に渡した。
「えー、なんで一個ずつしか買えなかったポーションがこんなに!?」
「へっへー、そいつは企業秘密さ。
あ、俺から貰ったっていうのは他の人には内緒だぜ」
「うん、わかってるよ。
でもありがとう。
いつも怪我とかしたらどうしようって内心ではビビっていたから嬉しいな。
気遣ってくれてどうもありがとう。
カズホは本当に優しいね」
彼女はそう言うと俺にそっと寄り添ってくれ、そして二人のシルエットと気持ちは一つになり、やがて二人だけの夜がそっと始まった。




