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2-23 おまけとは一体

「こいつは凄い。

 それでは厚かましくも、お願いがあります。

 私はこれらを絶対に必要としていますので、いちいち値段の交渉をするのは面倒です。


 この値段なら、あなたが絶対に売ってもいいという値段を教えてください。

 我々の商習慣では、いわゆる一撃入札価格と呼ばれているものです」


「ほお、その値段で払ってくれれば落札して、その場で取引が終了するという価格の訳なのじゃな」


「その通りでございます。

 さすがは師と呼ばれる高名なお方、話が早い」


「それではこの値段でいかがじゃな?」


 師は既に、俺の渡した日本から持ち込みの見積書に金額を書き込んでいたらしく、間髪入れずにそれを渡してくれた。


 そのこちらの世界の数字相当の文字で書かれた金額を見て、思わず脇から見ていた泉が呻いた。


 このような美女の呻き声なんて、こんなところじゃなくって是非ともベッドの上あたりで聴きたいもんだな。


「ぼったくりー、ぼったくりもいいとこよー。

 こんなありふれたポーションが四本で金貨千二百枚だとー。

 一穂、あんた絶対に騙されているわよ」


 だが俺は穏やかな笑顔を浮かべて、彼女に向かって静かにこう言ったのであった。


「でもさ、泉達はそいつを軍よりさえも優先して無料で貰えるけど、ハズレ勇者の俺はこの値段でも手に入れられたら物凄いラッキーなんだよ。

 選択の余地なんかどこにもないんだ」


「あ、ゴメン……悪い、あんたはそういう立場だったよね」


 ちょっとバツが悪そうな感じに泉は謝ってくれた。

 そういう顔も可愛いなあ。


 ますます俺の好みだぜえ。

 気のいい感じのところがまた凄くいい。


「まあまあ、そう気にしなさんな。

 しかし、これで随分と助かるというものさ。


 では偉大なるマーリン師よ、代金を御納めください。

 大金貨でよろしかったでしょうか。

 金貨の方がよければ、そちらも前もって数えてございますが」


 俺は前もって小分けしておいた大金貨を、百枚口の袋を一つ出して手早く五枚ずつ積んで並べ、それを二列にして置いていき、もう二十枚を同じように並べてみせた。


 カジノチップの並べ方みたいなものだが、この世界では貨幣の厚み自体がやや不揃いなので綺麗に揃わないため、目で見てすぐに確認しやすいように列はわざわざ放して置いた。


「ほっほっほ。

 これはまた、いちいちやる事が癪な男だね。

 どうやら何かおまけしてやらねばいかんようだねえ」


 そう言って師は、金と引き換えにカウンター・テーブルの上で小瓶四本を俺に差し出すと、何か不思議な色合いの液体が入った小瓶を同じく差し出した。


 そいつは何やら虹色に光り、きらきらとした燐光のような物を放っていた。


「何です、これは。

 え、エリクサーですって!?」


 俺は鑑定してみて、びっくりした。


【エリクサー 究極の霊薬である回復魔法薬 脳髄破壊・頭部切断・心臓破壊並びに停止・全身焼けただれなどの致命傷からの復活を可能とする。その他、死して間もない者を蘇生可能】


「マジか!

 こいつはすげえ代物だ。

 これがおまけの無料で貰えるのだと!

 いくら高額取引だからって、こりゃあまた出鱈目なサービス品だな」


「あーーー!

 婆さん、あんたって人はあー。

 それ、王様からここで買ってこいって、あたしが頼まれていた奴じゃないのさ。

 あの魔王にブルってるチキンな勇者にやるからって。


 婆さん、あんたなんて真似を。

 しかもぼったくり商品のおまけの無料品ですってえ、きーっ」


 ああ、ああ。

 これはもう俺としては笑ってしまってもいいシーンだよな。


 泉ちゃん、君もまだまだ若いねえ。

 こういう事は相手を立てて交渉しないといけないんだが、俺みたいに優秀な代理人を派遣して交渉に臨むとかしてな。


 王様の権威を振りかざしたって駄目駄目。

 俺は苦笑するショウに満面の笑顔を向けて店を退出しようとした。


 できれば、せっかく仲良くなった泉ちゃんを口説きたかったのだが、どうやら男に口説かれたい気分のようではなさそうだ。


 こういう時に押したっていい事は何もないのさ。

 その楽しみはまたの機会に取っておくとするか。


 だが、しわがれた声が俺を呼び止めた。


「お待ち、勇者カズホ。

 もう一ついいものをやるから大金貨もう十枚お出し」


 俺は「取引も終わったのになんで今更」とか思ったのだが、大人しく素直に彼女の指示に従った。


 これほどのお方が無意味な事をするはずなどがないのだから。

 俺は迷わずそれを五枚ずつ積んで、二山を丁寧に恭しく礼と共に差し出した。


「お前さんは自分の信じた通りに迷いなく行動できるから強いね。

 昔の勇者もそうだったそうだよ。

 ほらこれさ、あんたには入用かと思ってね」


 俺は思わずヒュウっと口笛を吹いてしまった。

 さっきのエリクサーも、どえらい物だったが、こいつはまた素晴らしい品だった。

 それは鑑定するまでもなくわかったのだ。


 金貨、大金貨よりも上の金貨百枚に相当する貨幣、鑑定すると【白金貨】とあった。

 材質はミスリルか。

 魔法金属だな。


 この上がオリハルコンか、実はそいつの方を先にすでに入手済みなのだが。

 もしかするとオリハルコン製の金貨などがどこかにあるのかもな。


 さすがにそれには万倍化も手が出ないと言うか、「このような物をこんなにたくさん、一体どこから入手した!」とか言われちゃいそうだしな。


 だがマーリン師は片手で俺を招き、その耳元に意味深に小声で囁いた。


「お前の事だから言われずともわかっていると思うが、それはやたらと出さない事だね。

 あとエリクサーは値段もさることながら、その入手は極めて困難な伝説級の代物よ。

 たとえ勇者といえども滅多な事では人前で見せないようにな。


 特に、決して【多数を】出してはならんような代物よ、ふひょひょっひょっ。

 お前さんとしても、あれこれと余計な事を詮索されたりすると、まあ他にも色々と都合が悪かろう?」


「ぶふう!」


 どうやら彼女マーリン師には俺のスキルはバレていたようだ。


 金貨の形のコピー具合や、ずっと辺境にいた癖にやたらと金払いが良すぎるあたりとかから、高名な錬金術師ならあっさりと俺の贋金作りも見破るか。


 だが、どうやら彼女は内緒にしてくれるつもりのようだ。


 彼女マーリン師が俺にこうもよくしてくれるのは、俺の事を気に入ってくれたのもあるのだろうが、この街を襲ったザムザと勇敢に戦った勇者への感謝と御褒美なのかもしれない。


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