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2-19 花の都の一流店

 いかにも高級宿らしき宿屋に着いて、セントラ隊長から厳重に宿へは言い含められた。


「よいか、勇者カズホ様は大切なお方だ。

 くれぐれも粗相のないようにな」


「ははあ!

 セントラ隊長が直々にそのように仰られるとは。

 そのような勇者様を我が宿へお迎え出来て光栄です。


 勇者様、私はこの花の都ホテルの支配人フラードにございます。

 何かご要望がございましたなら、なんでも御申しつけくださいませ」


 花の都か、もしかしたらこの街の別名なのかもしれない。

 美都と謳われるくらいなのだから、そうなのかもしれないな。


 いや、それにしてもこんなに恭しく迎えられると嬉しくなるね。

 今までが今までだったからなあ。


 こうして丁重に出迎えられていると、あの荒れ城で石化して固まっていた日が遠い彼方の出来事に思えてくる。


 そして、なんとも豪華な貴賓室の部屋に通されて、どっかっと高級ソファに背中からダイビングしてやってふんぞり返り、俺は猛烈に高笑いした。


「いやあ、こんな待遇なら勇者っていうのも、なかなか悪くはないもんだな」


 だが呆れ返ってこっちを見ていたショウが言いやがった。


「もう、あれこれと遠慮なく吹きまくりですねー。

 見ている方が心配になってきますよ。

 もしも王様にバレたらマズくないですかね」


 バレたらどころか、わざわざ耳に入れさせるように仕向けている訳だが。

 こんな事になってしまっているのは、あの人間のよく出来た王様の本意ではあるまい。


 こいつは辺境に置き去りにされたハズレ勇者から王様へのの薫陶なのだ。

 この話を聞いて思いっきり苦笑を浮かべるがいいさ!


「いいの、いいの。

 あっちが勝手に俺をクビにしたんだぜ。

 ずっとこの国にいて、自分の力で好き勝手に生きていいって、王様から直々にお墨付きをもらっているんだから。


 そこは勇者のパワー全開でいくぜ。

 というか、こういうのは前の国にて仕事の中で培ったスキルだな、こりゃ。


 召喚された勇者なのは、この黒髪黒目が自動的に証明してくれるしなあ。

 なんて便利な世界なんだろう。


 あの王様も立派な人間らしいから、俺が有用だからって今更戻ってこいなんてきっと言わないさ。

 それよりもせっかくの貴賓室なんだ、もっと楽しもうぜ。

 今からどうする?

 まだ夕食までは時間もあるが」


「そうですね。

 できれば収納袋の方だけでも先に取引を済ませてしまいたいものですが、いかがなものでしょう」


「いいね。

 ここまでやって来ておいて、トンビに油揚げで誰かに横取りされたなんていったら堪ったものじゃないからな」


 一つはショウ専用、一つはカイザへの御土産なのだ。


 フォミオを連れ出してしまうと美味しい御飯が食べられなくて、収納袋が無いと、あのチビ達がその度に泣き喚くに違いない。


 俺達はショウの案内で、その収納袋をいただきに行く事にした。

 フォミオは留守番させて、あれこれと資材を出してやり、工作の時間にしてもらった。



 てっきり怪しげな裏路地にでも連れていかれるのかと思って楽しみにしていたら、なんとそこは宿からも近い、大通りの立派な大店(おおだな)であった。


「ひゅう、こいつはまた」


 俺は店を選ぶ際には門構えで選ぶ事が多い。

 それで結構食い物屋でも通用する事のだが、これはまた。


「ここって相当な高級店、しかも王都でも通用するというか、王都でもそうそうないような品揃えがあったりするタイプのお店なんじゃないか」


「よく御存じですね。

 このゴヨータシ商会は非常に高級で個性的な商品を販売する事で有名で、このビトー内にも各特色を持った支店を四軒も持っております。


 どこの店も特色があって、ここへやってくる富裕層や貴族の方々は、そのすべてを回られるのが習わしとなっているほどなのです」


「しかも特殊な商品まで特別な伝手を使って回す事も可能というわけか。

 凄い店だな」


「このお店と取引関係を持つのは、この国の全ての行商人の夢とも言われているのです」


 うっとりとした表情でお店の佇まいに見惚れているショウ。


 その気持ちもわからんでもないなあ。

 かくいうこの俺にもそういう想いを込めた、取引を目指す相手はあったのだ。


 あそこと取引ができないうちにこの異世界へやってきてしまったのが、ある意味で心残りといえば心残りだった。


 まあその夢は日本にいる後輩達に託しておくさ。

 とりあえず俺は、まず収納袋とやらを拝まなくてはな。


「ほう、もしかしたら、あなた様は今噂の勇者カズホ様でありますか?」


 気合を入れて店に臨もうとしていた矢先、いきなり後ろから尋ねられて俺は振り向いた。


 そこには上品そうな感じで、立派な服を着た紳士がステッキを持って立っていた。

 年の頃は五十代後半から六十歳といったあたりだろうか。


 上下は少し古めかしいが、昔のスーツのようなクラッシクな服装でチョッキを着用し、足回りもこの世界ではついぞ見た事が無いような立派な仕立ての上品な革靴を履いていた。


「いかにも俺がカズホですが、どちら様でしょう」


「失礼、私はこの店の主人でサーイコ・ゴヨータシと申します。

 勇者様より過分のお褒めの言葉をいただき、感謝いたします。


 そちらは確かショウ君と言ったね。

 さあさ、このような往来で立ち話はなんですので、どうか店の中へ」


 俺はチラっと横目でショウを見たが、奴は涼しい顔をしていやがった。

 一介の行商人の分際で、このような高級店本丸の御主人様に名前を憶えていただいているとはな。


 さすがは勇者御用達商人だけの事はある?


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