2-18 名誉復活
俺達が連れていかれたのは、もう繁華街といってもいいような街の中心街だった。
看板を見たら、『ビトー警備隊本部』とあった。
「ああ、申し遅れました。
私はビトー警備隊本部付の中隊長セントラ・マンデルと申します。
勇者様のお名前は?」
「ああ、カズホだ。
カズホ・ムギノ」
「しかし、王と御一緒には行かれなかったのですな。
王国に戦力を分散させる余裕などないはずですが」
だが俺は、くっくっくと悪い笑いを浮かべてポンと彼の肩を叩いた。
「甘いな、セントラ。
俺はこの辺境地区の担当さ。
確かに派手で華やかな勇者達と比べたら地味な感じだが、辺境に置いておくなら俺くらいでちょうどいいのさ。
何しろそれで正解だった。
あの召喚の儀式の影響で伝説級のネストが湧いた。
もう少しでこの街だって魔王軍に挟み撃ちにされるところだったんだぜ。
あの魔物穴から湧いた魔物の群れは、大軍勢で王都へ向かって進撃するだろうから、全ての街々が蹂躙されるところだった。
俺がそいつを始末しておいたのさ。
王には先見の明があった。
それにな」
俺は適当な事を言い並べて、例のザムザの魔核を取り出した。
それを見て彼は硬直した。
「ほう、隊長さんはこれがなんだかわかるのかい」
「それはもう、何という禍々しい魔核である事か。
それはまさしく怪物クラスの物。
まさかと思いますが、それはもしかして、あの……ザムザ・キールの!?」
それを聞いた俺はさすがに驚いた。
この男、何故そんな事を知っている?
あのユーモ村では喋ったが、それならこの男だって俺と宗篤姉妹のコンビが倒したという事も知っているはずだが。
「ああ、いかにもそうだが、お前が何故そんな事を知っているんだ?」
「それは、奴があちこちに出現して大虐殺を繰り広げたからです。
王国を脱走した勇者を追って、その事を各地で声高々に喧伝しながら。
そのことが勇者様への不満となって、今このヨーケイナ王国に、引いては魔王討伐連合軍の同盟国の間にも非常に大きな波紋を広げておるのです」
あっちゃあ、これはあの二人って俺よりも立場が悪くなっているんじゃないのか?
ザムザめ、さすが諜報を任されるだけあって頭の回る野郎だな。
脱走して立場の弱っている勇者を、人間自身の手で追い詰めさせ燻り出すと共に、ヨーケイナ王国その他で構成される連合国に内部亀裂のダメージを与えようってか。
あんの野郎は始末出来ていて幸いだった。
きっと他の魔王軍幹部は脳筋が多いのに違いない。
魔王自体が少々アレっぽい頭の構造してやがるみたいだから。
これはいかん。
一つ援護射撃しておかんと。
知己なのもあるが、あの子達にはその機動力を生かした『帰り道探し』を任せてあるんだからな。
ザムザめ~、お前の思惑通りになんかさせんぞ。
俺は少し語気を強めて言った。
「馬鹿な!
あの子達は遊撃隊さ。
王は最強のコンビを敵幹部各個撃破へと差し向けたのだ。
魔王さえ倒せると言われたほどの最強の姉妹をな。
あのエビルバスター・シスターズに向かって、なんという無礼な事を。
実際に件の魔人ザムザを倒したのは、あの英雄姉妹だ。
彼女達は俺にこの魔核を託し、次の幹部を倒しに颯爽と向かったのだ。
まったく心得違いも甚だしいぞ!」
まあ、あながちそれは嘘でもないのだ。
あの二人は、今魔王軍が殺したい勇者の三本指に入っているだろうから、強力な幹部魔人に狙われているのだろうし。
何しろ、王国にも魔王軍のスパイがいやがるのだから始末に負えん。
もちろん残りの一人は、あの超駄目駄目勇者陽彩選人だ。
俺なんかランク外どころかランクレスなんで、抹殺対象としても多分ランク自体がついていないわ。
その事自体は非常にありがたいのだけれど、やっぱりちょっとだけ悲しい。
「な、なんとそうでありましたか。
それはさっそく王国へ知らせねば」
「そうしてくれよ。
さすれば連合軍も安心して戦ってくれるんじゃないか?
さすれば、あの勇者陽彩の力さえあれば魔王軍などは恐れるに足らずだ。
人間連合軍に、あの残虐魔将軍ザムザ・キールを瞬殺した最強勇者・戦乙女宗篤姉妹あり!
さっそく全国、いや全世界に喧伝せよ。
間違っても彼女達の足など引っ張ってはならぬ。
世界を上げて全力で支援するのだ!」
後であの姉妹に聞かれたら怒られちゃいそうな内容だが、背に腹は代えられん。
こんな話はそのうち王様の耳に届いたら呆れられるんだろうな。
まあ、あの王様ならこれ幸いとばかりに惚けて、俺の口車に一口乗ってくれるのかもしれんが。
とにかくあの子達に対して出来得る限りの後方支援はしてあげておきたいし、帰り道を捜す前にあの子達が人間の王国に掴まって処刑されたりしたら、それもまた堪らん。
それにそんな事にでもなったとしたならば、もし日本へ戻れた場合に、俺が会社の連中から怒られちゃうよ。
「ははっ、これは申し訳ございません。
さっそく手配をば!
あ、あと従魔証はこのタイプでよろしいでしょうか」
見せてくれたのは、首から下げる赤ちゃん用の前掛けのようなタイプで、朱系の色合いでよく目立つものだ。
つけてみたが、フォミオのユーモラスな雰囲気とマッチしてなかなか似合っている。
「よく似合うぞ、フォミオ」
「ありがとうごぜーやす。
こいつは嬉しいでやんすねー」
そして、セントラに訊いてみた。
「なあ、このフォミオが泊っても底が抜けなくいくらい頑丈で、しかも高級な宿ってどこかにないかい?」
「ああ、それではご案内いたします。
かなりお値段はいってしまいますが、よろしいので」
「かまわないよ。
勇者御一行様が泊まって恥ずかしくない宿へ頼むな。
今回は物資の補給のために来ただけさ。
俺は今、辺境監視官のカイザ・アルクル騎士と行動を共にしている。
あんな辺境だというのに、あのアルフ村には魔物がいっぱい湧いてきて困ったものさ」
それを聞いて、彼はさらに恭しく礼をしてくれたのだった。
俺だって、もうこれくらいしてもらったってちょっと割に合わないくらいの功績を上げているんだから。
少なくとも、あのへっぽこな本物の勇者・陽彩選人よりはな!




