2-16 街道を駆け抜けて
それから次の宿泊地へ泊まったが、ここは比較的小さな村だったので特に見るべきものはなかった。
「普通なら、あと三日分の行程が残っていますので二泊は必要ですが、おそらく街道の具合からしてフォミオの足なら一泊でいけるのじゃないでしょうか。
先に行くほど街道は混んでくるのですが、それなりに街道も整備されてきますので、頑張れば早めに行けるのではないかと。
この先は、目的地である街まで、あまり見るべきものもないような比較的小さな村が多いですし」
「そうか、じゃあそういう事にするか。
フォミオ、済まないが頼むよ」
「お任せを。
これが街道さえ整備されていれば、もっとガンガンいけるんでやすがねえ」
「まあそれでも、お前みたいには馬車じゃ走れないだろうから、普通ならなかなか前には進めないだろうなあ」
「では今日は早く休んで明日は早めに発ちましょう」
そして翌朝は、収納から出した出来合いの朝飯を詰め込んでから、夜明けとともに村を出発した。
早朝なのでまだ街道は空いていたし、比較的道の状態が良かった事もあり、かなりの速度で駆け抜けた。
こうしてみると、地球のローマ帝国というのは凄い国だったのだと思う。
版図の隅々まで石畳の街道を敷いて、あちこちに水道まで引いていた。
ローマ帝国滅亡後は、街道もあまり整備されずに朽ちた部分も多かったと聞くが、あの時代に造られた石造りの水道橋をいまだに使っている地域もあったはずだ。
生憎と、ここにはローマ帝国のような強大な帝国はないようだったので、辺境の街道はさほど整備されていない。
うちのアルフ村とベンリ村の間が突貫工事で整備されただけだ。
それも、はずれ勇者のチートで整備されただけで、今のところはそこだけなのだ。
しかしベンリ村からユーモ村までは比較的近いので、是非整備して石畳を敷きたいものだ。
ユーモ村では村長に伝手ができたので、できれば道路整備の許可をもらい、あそこまできちんとした街道を敷けば、歩きや荷馬車だと往復二日はかかる道をフォミオならば半日で往復できる。
他の小さな村はそう反対しないのではないだろうか。
そこまで街道を整備すると、通常は徒歩や馬車で片道十日はかかるビトーの街まで頑張れば往復五日もあれば行けるようになるのではないか。
街道沿いの小さな村々を通過して、また休憩に立ち寄りながら俺達は快調に街を目指していた。
徒歩や馬車と比べて倍速ほどは進めたようで、残りは今日と同じペースで進めたならば余裕で街まで着けそうだった。
「いや、今日は頑張りましたね。
あそこが今日宿泊する予定のトーチュー村です。
明日も同じペースで走れれば、ビトーまで日暮れ前につけるでしょう。
いや雨も降っていませんし、助かりましたね」
「そ、そういや雨が降った時の事を考えてなかった」
この未舗装路で雨かあ。
こんな街道じゃ水はけも満足じゃないから、さぞかし酷い事になるだろう。
ロシアの道なき道を走るテレビの企画で、アメ車のごつい4WD車がウインチで引きずり出されていた映像を思い出して、俺も思わず首を竦めた。
車高や最低地上高が高く、六輪くらい付いた走破性の異様に高い軍用車が欲しい所だ。
「ええ、雨が降ると大変な上に道がぬかるんで轍に嵌りますし、また他の嵌まった馬車などが邪魔になります。
そうなると皆でいちいち押さないといけなくなりますし、そういう馬車が多いのでへたすると街道が大渋滞で、宿も取れなくなります。
もちろん、行商人の僕らも大変でして、まことに商売あがったりなんです」
「うわあ、今度からそれも考えないといけないな」
どうやら俺達は雨期が終わった、いい時節にこの世界に来たものらしい。
もしかしたら勇者召喚をする時期も、王様達が最果ての召喚神殿の地へ行くために、そういう気候も計算して行われたのかもしれない。
その、このあたりの村の中では比較的大きめの村で泊まって、翌朝はまた夜明けと共に出発した。
この夜明けの走行距離がまた馬鹿にならない。
ショウによると、ここでしっかりと距離を稼いでおかないと今日中にビトーに着けないらしい。
「いや、旅はなかなか快調ですね。
個人的には早く着いて、収納袋などを押さえたいのです。
ああいう物はそうそう入荷しないもので、結構横槍が入る場合もないではありませんので。
ましてや僕などはただの行商人ですしね」
「そういうものかね」
大丈夫そうな事を言っていたが、やはり心配のネタはあるものらしい。
じゃあ、今日もトラブルなく無事に街まで着けるのを祈っておきますか。




