2-15 精霊さんとおやつ談議
楽しい祭りの余韻を残しつつ、俺は村人達に見送られて街へ向かって出発した。
「楽しかったなあ、お祭り。
フォミオ、今度そのうちに綿菓子製造機を作ろう。
あれの加熱する部分を薪を燃やす釜で作れるかなあ。
薪だと火力が強すぎるような気がするし」
「綿菓子?」
ショウが聞き咎めて尋ねてきた。
さすが商人だけあって、いい勘してるね。
「ああ、そういうお菓子があってな。
綿飴ともいって、まるで真っ白な綿とか空に浮かぶ雲みたいな形をしたお菓子なのさ。
色付きの物もあるから綺麗だぞ。
こっちの世界には多分ないだろうな。
砂糖の塊みたいな巨大な菓子だから、子供に大人気なんだぜ」
「はあ、まあやってみやすか。
よくわからないでやんすけど」
「さあフォミオ、今すぐそいつを作るんだ」
「だからエレ、加熱部分が簡単に作れないんだよ。
機構も複雑なものじゃあないが、適切に作らないとうまくできないだろうから、何回も試作が必要だろうよ」
こいつめ、俺の頭の中から綿菓子のイメージと味や食感を持ち出して、やきもきしていやがるな。
焦ったって、そう簡単にはできやしないんだよ。
りんご飴とか綿菓子は確かアメリカから入ってきたんじゃないんだろうか。
綿菓子はコットンキャンディーだったか?
そういや、りんご飴くらいなら作れそうだな。
りんごがこの世界にあればの話だが。
バナナもあればチョコバナナは作れそうだ。
「ええい、なぜリンゴやバナナをこっちに持ってこない、このハズレ勇者め」
「アホか、なんで俺が会社帰りにそんな物を抱えていないといけないんだよ」
だが仕方がない、こいつで試してみるか。
モームの実、日本で言うところのスモモだ。
こいつは自生している野生の物だが、日本の品種で言うと『タイヨウ』に近いのではないだろうか。
完熟させると酸味が抜けるので甘くなるタイプだ。
その控えめな味わいがとてもよい果実なのだが、この手の加工にはあまり向いていない気もするのだ。
ここではリンゴと同様酸味がある方がよいので、完熟していないタイプをスモモ飴に使い、完熟した方をバナナのように甘い物同士を合わせるチョコスモモにしてみる事にした。
次の休憩には、フォミオの屋台で湯煎にかけたチョコと、別の鍋で砂糖から鼈甲飴を作り、スモモ飴とチョコスモモを試作してみた。
うーん、やはり味はかなり淡い。
スモモも何もないところでは素晴らしい御馳走に思えたが、こうして地球的な味覚として加工してみると今一つだった。
さすがにリンゴ飴のようにはいかないか。
やはり、あれも数ある果物の中から、わざわざ特に酸味の強いリンゴを使う事には訳があるという事だ。
まあとりあえずの代用品というところだな。
リンゴ飴は、祭りにおいては綿菓子と並んで欠かせない代物だろうから、ショウにはリンゴをよく探してもらうとしよう。
「そらよ」
ショウも新商品とあっては、試さざるを得ない。
むろん、フォミオにも遠慮なくやってもらう。
一人だけ重労働をしているから、一番美味しく感じるだろうな。
「うわ、コレどっちもいけるじゃないの」
本物のリンゴ飴を食べた事のないエレからしたら物珍しく感じるのだろう。
多分、村人からも肯定的な意見が聞けそうだな。
「ああ、組合せを間違えると悲惨な物が出来上がるけどな。
最近じゃチョコイチゴなんかも多いよ。
イチゴならどこかにありそうなものだが、あれに使うのは品種改良されたイチゴだから、野生のベリーだと難しいかもな。
あれはジャムにしたりタルトにしたりなんかすると美味しいかも」
「くー、早くイチゴの改良をしなさいよ!」
「あのなあ、無理を言うな。
俺はイチゴ農家の人間じゃないんだ。
いやイチゴ農家の人にだって、こんな野生種しかないような世界じゃ品種改良なんて難しいわい。
出来たって何年も何十年もかかるもんなのさ」
ショウは真剣な目をしながら両手で食べ比べていたが、思わず唸っていた。
「うーん、美味しい。
これだって十分に美味しいのですが、片やあなたしか持っていないチョコで、片や高級品の砂糖、しかも上物を煮詰めた超高価な飴が原料ですかー。
凄い商品ですが、商売にするのはきつそうですねえ」
「ははっ、お前も商魂逞しいよな。
まあ、そういう事だ。
収納袋を仕入れたら、今度から珍しい果物とかを見つけた時に仕入れておいてくれ。
何かうまく加工すると、採算の取れる商品が作れるかもしれないな」
「ああ、いいですね。
また探してみましょう」
もともと昔は甘味と言えば果物から取ったので、菓子と字を書くのだろう。
あれで結構果物も糖分が多いので、糖分が良くない持病のある人なんかは要注意だ。
果物からの加工品には大いに期待している。
フルーツやドライフルーツ各種を集めて、フルーツケーキやフルーツクッキーとか作りたいんだよね。
おお、そういえばチョコチップのクッキーなんかもできそうじゃないか。
「早く作ろう」
「だーっ!
だから材料がまだないんだよ。
チョコチップクッキーや、普通のパウンドケーキはまた作りたいな。
あと卵もどこかで仕入れたい」
「さっきの村では普通に卵も手に入りますよ。
この先でも手に入りますから。
やはり卵を生産して商売のペースにしている村などでないと卵は手に入りにくいです。
ベンリ村ではそういう形では作っていませんので」
「そうか、そういや女将さんも卵料理は出してくれなかったな」
「ええ、個人で卵を生産している方も中にはいますが、市場には出回らずに周辺で消費されてしまいますので」
村へ帰ったら鳥でも飼うか。
数羽買ってくれば、そのうちに増えるだろう。
生きた鳥は収納には入れられないので、今回みたいな時に荷馬車へ乗せて持って帰るといいかもしれないな。




