表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/318

2-12 村長屋敷

 そして、街中と言ってしまってもいいような村並みの中、俺達は村長の屋敷に案内された。


ヨーロッパの家並みのように美しい白壁と木材で彩られたその家は、なんと三階建てで、この世界で初めてお目にかかる高層の建物だった。


確かに日本でも高層建築は溢れちゃいるが、一般の住宅はせいぜい二階建てで三階建て以上は珍しい。


 日本のアパートだって三階にすると階段が大変なので、借りる人に敬遠されちゃうからな。

 それくらいなら少しくらい古くてもエレベーター完備のマンションにでも住んだ方がマシだし。


 これまでは、あのベンリ村の女将さんの宿の二階建てが最高だった。

 あの宿が今までで一番大きかった家だったし。


 もちろん、ここでも村長の家が群を抜いて大きく、後は平屋か二階建てだった。

 おそらく、後は村長の家に匹敵するのは、王様一行が泊まっただろう宿しかないはずだ。


 それも全部は泊め切れないだろうから、村長の家や他の有力者の家に分散して泊まったのかもしれない。

 勇者が五十九人も増えたからな。


 兵士などは全員が天幕泊だったかもしれない。


 こんな立派な家に住む村長さんでさえも、いざ有事になれば完全武装で先頭を切るのか。

 異世界というのは物凄いもんだな。


「いやあ、これは立派な家だなあ」


「いや村長たるもの、大事な村のお客様をお迎えする事もありますのでな。

 まさか王様がこの村を訪問なさるとは想定しておらなんでしたが。


 これも聖戦の地アルフェイムの近くに村を構えるものの宿命といえましょうか。

 本日の魔物の件も含めて。


 わしの先祖もあの戦いには趣き、そして勇猛に戦って国を守り戦死いたしました」



 なるほど、その誇りを汚さぬように、子孫もあのように勇猛であるわけだねえ。


 うちの御先祖ってどんな感じだったんだろうか。

 少なくとも、きっと子孫にまで遺伝で伝わるほど子煩悩なお方だったのに違いない。


 しかし、さすが大きな家だけあって天井が高くて助かるな。

 フォミオを上の階に泊めてもらって床が抜けてもいかんので、その事を話すと一階の空いていた部屋を用意してくれた。


 フォミオ用の、大変頑丈な本人が自作したベッドを収納から出すとひどく驚かれたが、彼は感心したように言った。


「やはり、あなた様も勇者様なのですな。

 その黒髪黒目の御姿、魔物を全滅させられる力に、素晴らしい収納の能力。


 何故あなただけがご一行の後からやってきなさるのか知りませんが、あなた様も立派な勇者様でございます」



「ははは、恐れ入ります」


 まあ、ハズレでも勇者は勇者、そういう事にしておくさ。


「昼食までまだ時間がありますから、村を見に行って来られては。

 ショウが案内してくれるでしょう」


「じゃあ行きますか、カズホさん。

 ここは、ここまで来る間で一番大きな村ですから」


 お言葉に甘えて、俺は村の様子を見に行く事にした。

 何、ガイドさんを連れて、お買い物に行くだけだ。


 フォミオは今日も頑張って馬車を引いてくれていたので、休憩がてらにお留守番だ。

 明日からも頑張ってもらわないといかんので。


 それに放っておけば何か工作でもしてくれている事だろう。


 背中にも荷物を背負っているし、荷馬車にもいろいろ積んであるのだ。

 俺に預けておくと好きな時に出せないからな。


 うーん、やはりフォミオのための収納がもう一つ欲しい。


 通りには、いろいろな物が売っていた。

 ベンリ村よりも垢抜けた洋服はやはり値段が高い。


 あっちは基本的に村内で生産から消費までが循環しているので、農家のおばさんの内職的な内容が色濃いようだった。


 あれでも中には可愛い物なんかはあったのだが、俺があの子達に買った良い物などは、この村から仕入れたのだろう。


 ここで作られる、あるいは販売されているものは、この世界で初めて出会う職業的な洋裁の成果なのだ。


 洋服は良さそうな物を適当に買い込み、道具屋を覗いてみたが、かなり大きめの道具などがあったのでフォミオ用に一通り揃えていった。


 あの子はいつも弘法筆を選ばずといった感じに作業しちまうんだけど、まああればあったで役には立つはずだ。


 おやつなども売っていたが、そう珍しい物はない。

 あればショウが仕入れてきているだろう。


 素朴なクッキーのような焼き菓子とか、あと何かこう瓦煎餅っぽい物があった。

 瓦煎餅はパス。


「えー、買わないの。

 せっかくだからそいつも買おうよ」


「ちょっと待て、エレ。

 これこそまさに焼き締め煎餅と言ってもいような物なのだがな」


「それ食べてみたいな~」


「いいけど、こいつは多分甘くないよ」


「いや、それでもいいからさ」


 つい根負けして買ってしまった、異世界の瓦煎餅。

 さっそく俺の肩に陣取り、がっしりと抱え込んで齧っているエレが言った。


「いやあ、通の味ですね」


 俺も齧ってみたのだが、やっぱり瓦煎餅だったし、しかも劇的にマズイ奴だったので俺の心に激しい衝撃が巻き起こった。

 これは初めてあの焼き締めパンに出会った時以上の衝撃だったなあ。


 いっそ、これの美味い奴を作ってアルフ村の名物にでもしてみるか。

 あんな最果ての村には誰も買いに来ないけどね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 最近読み始めまして一気に最新話まで読んだのですが フェミオなんですがフェリオとなってる場合も複数見受けられたのですどっちが正式名称なのでしょうか? [一言] 名物に美味いモノなしですか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ