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2-6 魔法

 俺は食後の御茶を一口啜り、そのゆらゆらと立ち上る湯気を見ながらその話を切り出した。


「なあ、ショウ。

 この世界で、魔法って普通に覚えられるものなのか?」


 別に特に熱心に魔法を特に覚えたいというわけではないのだが、一応聞いてみた。


 まあハズレ勇者なのだから特に期待なんかしていないんだが、またザムザみたいな奴が来た時に多少でも足しになればと思ってね。


 できればあの防御の魔法が欲しいのだが、あれがあったからこそ宗篤姉妹は生き延び、そしてあのザムザにもついに勝った。

 まあ囮の役であった俺も相当頑張ったわけなのだが。


 後、飛行の魔法とかは是非欲しいものだ。

 だが、それらは入手する目途は無い事もないのだ。


「うーん、魔法ですか。

 まあそれは個人の適性や資質にもよりますしねー」


「へえ、魔法の適性ねえ」


 ショウは座ったまま腕組みをして、軽く天井付近を睨むような感じで唸るように言った。


 その様子から察するならば、やっぱり魔法の習得はそれなりに困難なものだという事か。

 ますます期待がしぼむな。


 このショウだって魔法は使えそうにない。

 まあ孤児院育ちだって言っていたし、一流の魔法少年を目指すような環境じゃあないよなあ。


「まず剣や槍などを扱える人とそうでない人がいますよね。

 そして足の速い人、高く飛べる人、器用な人、生まれつき力の強い人。

 魔法もそれと一緒ですから。


 剣が得意な人、槍が得意な人、弓が得意な人、こん棒に杖に格闘、ハンマーに暗器。

 魔法もそのように生まれつきの適性もあれば、血が滲むような修練をして身に着けられる方もいらっしゃいます。


 ただ魔法に関しては、その源泉となる魔力が必要ですので、どれほど頑張っても必ずしも使えるようになるとは限りません」


「うーん、そいつはなかなか厳しいなあ」


 少なくとも生まれつきの魔法の才なんてものが、この魔法のある世界から見て魔法の無い異世界から来た俺達に本来はあろうはずが……って、俺と同じ境遇だった勇者のあいつらはどうなるんだよ!


「しかし、いわゆる異世界を越えてきた勇者は、本来の勇者とあなたのように巻き込まれてきたような勇者との間に、そういうものの差異はそう認められないそうなんですよ。

 逆にそういうものの適性というか、順応力というものが秀でている事が勇者の重要な資質の一つであるというか」


 あの勇者の子、何かそういう事に秀でているような子だったかねえ。

 傍目から見てもとてもそうは思えないのだが。


 なんか彼女達の話によると、だいぶビビッていたらしいんだけど。

 宗篤姉妹に逃げられて、きっと今頃おたおたして、また国護のおっさんに叱り飛ばされているんだろうなあ。


 他所の子でも、まだ高校生だから何か気になるなあ。

 今頃は日本で親から捜索願いとかを出されていそうだ。


 ついでに、こっちに一緒に来ちゃった警察官二人組なんかもなあ。

 警察も身内があんな具合に行方不明になったのだから、さぞかし困っているだろう。


 あの会社帰りの人や学校帰りの学生なんかで人が溢れていた夕方の繁華街の出来事だ。


 目撃者はいっぱいいただろうし、監視カメラには召喚の瞬間が果たしてどのように映っていたものだろうか。


 俺の捜索願いはちゃんと出ているかな。

 うちの親は肝が太いから「あいつも、もう大人なんだから。何か考えがあるんだろう」とか言っちゃって、碌に気にしていないかもなあ。


 それは十分過ぎるほどに有り得るぜ~。

 まあ、捜索されても絶対に向こうで見つかりゃあしないけどね。


「へえ、つまり勇者向きの特殊な能力じゃあなければ、俺みたいな人間でも凄い魔法の力を発揮できるっていうわけなのかい?」


「その可能性はあります。

 詳しくはこれから行く街でも調べられるかもしれません」


 いいね。

 ビルダー、土木、灌漑。

 そういう系統でチートなら物凄くないか。


 あと俺のスキルと連携して生産系を補助してくれる魔法なんてあったら【世界を牛耳れる】商会が誕生するかもしれない!


 なんだかちょっと楽しくなってきたな。

 向こうの世界じゃ叶わないような荒唐無稽な夢なんかも、こっちの世界ではあっさりと叶ったりするかもしれない。


 そういう趣旨でいえば、ライバルとなる他の勇者どもを日本に帰れる通路から追っ払っておけば、この時代は俺の一人天下じゃないのか。

 まあそれも魔王を倒したらの話なのだが。


 そういや魔王の奴、奴自身もまさかそういう事で何かどうしても叶えないといけないような、切ない願いのために人間を裏切ったとか?


 例えば、一緒に来ちゃった幼馴染の女の子を救うためとか、必ず生きて日本に戻りあの子と絶対にもう一度会うんだとか、そういう物語にありがちな展開は俺も大好物なんだけどなあ。


 魔王め、もしそういう話なら、なんだかちょっと会ってみたくなる。

 会って殺されないならの話だけど。


「なあ、ショウ。

 魔王ってどんな男なんだい?」


「魔王ですか!

 まさか、御興味がおありなので?

 あなたって本当に【勇者】ですねえ。


 でもそれだけが止めておいた方がいいです。

 思惑があって、あなたのように魔王に会いたいとか考えた人達もいましたが、全員あえなく殺されました。


 それはもう惨い躯となって送り返されてきました。

 あの魔王軍の残虐な幹部達が崇拝している男なのですよ?


 まあどうしてもというのであれば止めはしませんがねえ。

 僕としても大切なスポンサーをそんな蛮勇で失いたくはないものです」


 よし、ショウよ。

 その心からの忠告には一秒待たずに従うぞ。


 俺が苦心して作ってやった角砂糖に齧りつきながら、横目で「このアホが」と言いたそうにしているエレの忠告も思い出して胸に刻み直した。


 事情通で非常に賢い行商人と、自分に加護をくれて一緒にいてくれる精霊のありがたい忠告には従った方が、この世界ではきっと長生きできそうだ。


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