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2-5 商談は脂汗と共に

 御飯も食べ終わったので、幼女様方は子供椅子にもたれかかっていて、すでに御昼寝状態だ。


 フォミオが気を利かせて、子供用の毛布とタオルケットの間のような感じの、ベンリ村で仕入れた織物をかけてやっている。


 こいつも魔物のくせに本当に神経が細かいものだ。

 あの城での王様達から受けた俺の待遇を思い出して、さすがに同じ人間として首を捻らざるを得ない。


「ところで、商売の方の成果を聞かせてもらおうじゃないか。

 戦果の方はどうだい」


「ええ、まず上級ポーションですが、裏ルートで取りに行けば手に入ります。


 通常は金貨五十枚が我々商人の扱う利益込みの売値としての相場ですが、今は軍の需要が多いため金貨七十枚から八十枚が表の相場でしょう。

 当然、このような辺境近くの街ではその値段では買えません。


 王都や大きな街から何人かを経由し、強引に横流しに近い形で持ってきますので、そこには軍の階級の高い人間が受け取るリベートも含まれ、信じがたいくらいの価格になっています。


 私のような零細商人では、特別にオーダーが入っているのでなければ死んでも手が出ない代物です。

 正直に申し上げれば『時価』であり、値段は現地での交渉次第という事になります。


 売ってくれる人の目星はもうついており、私も仲介はできますが、さすがに交渉は無理です。

 私も調査料と仲介手数料として金貨十枚だけいただきます。


 調査に使ったお金は別になります。

 そちらは金貨三十枚になりました。

 ただでは買い付けルートを調べられない代物なのです。

 街の商人はみんな、とてもがめついです」



 俺は感心した。

 目の前にいる男は涼しい顔をして話しているが、これだけ調べ上げるのは、きっと並大抵の事ではない。


 よく何にも情報がないようなところから調べてこれるもんだ。

 こいつの事だから、あちこちで愛想よくして気に入られているのだろう。


 聞き上手は商売上手。


「なるほどなあ。

 わかった、上等だ。

 では、この場ではっきりと言おう。

 どうしても俺にはそのポーションが必要なんだ。


 金に糸目はつけないから絶対に入手したい。

 しかも、なるべく早くな」


 聡いこの青年は、俺の微妙な物の言い方、特に最後のあたりに何かを感じ取ったようで、顔を傾け俺の眼を物問いたげに覗き込んだ。


「もしかして、私の留守中に何かございましたか?」


「ああ、留守中っていうか、前回お前と別れてからすぐに魔王軍の大幹部から襲撃を受けたんだ。

 これがまた凶悪で残忍で、とてつもなく防御の固い野郎でなあ。

 俺にはどうにも倒せなくて閉口したぜ。

 もうちょっとで、この村一帯が永遠に消えて無くなるところだった」


「うわあああ」


 頭を落とし、若干それを抱え気味で呻くショウ。


 綺麗な薔薇には棘がある。

 そして、すこぶるつきで気前のいいクライアントには、ありえないような猛毒があるのだ。


 それでも、その厄介な依頼主とも付き合っていかないと裕福にはやっていけないのが彼ら行商人というものなのだから。


「う、あなたの事ですからね。

 どうせこのようになるだろうことは半ばわかってはいたのですが。

 それで、その幹部とやらは結局どうなりました?」


「ああ、勇者の仲間の強い奴がやってきて倒してくれたよ。

 もっとも、その凶悪な大幹部とやらもその子達の後を追って、ここまでやってきていたんだがな。

 勇者と魔王軍は、常に殺るか殺られるかの関係だよ。

 あっはっは」


「えー、それは笑いごとじゃあないんですがねえ」


「まあまあ、そう言うなって。

 そういう事で、そいつは今やこのザマだ」


 そう言って、俺はこの上ない笑顔でザムザの魔核を収納から取り出して見せてやった。


 それは血のように真赤な色合いで妖しく輝き、見るからに瘴気と妖気を封じ込めたような、まるで人間・魔王軍に関わらず奴の手にかかった犠牲者達の恨みの血と呪いの文言で塗り固められたような禍々しい光を放っていた。


 もう本当に今更だけど、ザムザざまあ。


 ショウは「うわあああ」とでも言いたいかのような顔をして、眉を顰めて俺の手の中のそいつをじっと見つめた。


 その少し青くなった顔によくない汗が滲み、一筋の汗が伝った。


「そ、それ、取り扱いは十分に気をつけてくださいね。

 迂闊な扱いをすると、その魔王軍の幹部が復活してしまいますから」


「知ってる知ってる。

 それは仲間から聞いたよー。

 でもこいつには最高の使い道があるんだ。

 これは今の俺には絶対に必要なものなのさ」


 大丈夫かなあと言いたそうな顔をした彼の無言の主張は脇に置いておき、俺は次の話題に入る事にした。


 そして肝心の収納だが、こっちは朗報だった。


「収納袋の方はもう獲得が確定しました。

 そして予約金も入れてきたのですが、実は二個予約できました。

 おそらく、あればきっとお入り用かと思い、その分も」


「でかした~」


 これで作り立ての生菓子なんかも手に入るし、こいつが持てないような大きな物品とかも手に入るだろう。


 例えば割れやすく嵩張るガラスの蒸留器とかガラスに入った危険な薬品の運搬なんかもOKのはずだ。


 こいつは特別な魔道具なので万倍化できないのではないか。

 あの例の『わかる』という感覚で理屈抜きで理解できた。


「それで手付金は大金貨を合計二枚要求されまして。

 これはもう商品の金額からして仕方がないかという事で止むを得ず置いてきました。

 今のところ、そのせいで僕におかしなイチャモンがついている事はないようです。

 後をつけてくるような不審な人間もいませんし」


「ああ、それは構わないさ。

 こっちはお前さんが殺されていなければ、そして商売に支障がなければそれでいいんだ」


「向こうも信用がかかっているので、この状態でよほどの事がない限り予約確定は大丈夫だと思いますが、あれほどの商品の場合は何があるかわかりませんので早めに取りに行った方がいいです。

 今は世の中もあれこれとガタガタしていますのでね」


「わかった、そうするとしよう。

 予定通りに明日、お前と一緒に出かけるとしよう」


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