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2-3 魔物馬車は幼女様を乗せて

「ひゃっほーう」

「はやいのですー」


 幼女様お二方は、風を切って走る魔物馬車にそれはもう夢中だ。


 所詮は時速二十キロ程度のスピードに過ぎないのだが、彼女達にとっては未曽有のスピードで走ってくれる乗物なのだ。


子供は乗物が大好きだからなあ。

 今度、鍛冶屋さんやフォミオと一緒に三輪車でも作るかあ。


 パーツだけでも何か作っておくかな。

各種の鉄パイプとかがあるだけでも、あれこれと何かが作れそうだ。

 鉄パイプは自転車の基本パーツなんだしねえ。


 アルミも素材だけなら手持ちの物があるのだし。

 アルミのパイプなんかも作っておくとするか。

 また自転車用にスポークのついた軽量の車輪も作れば馬車向けにもできそうだ。


 地球のヨーロッパでも、意地になったように様々な動物に馬車を引かせていたらしいが、さすがに魔物に引かせる事はなかったようだ。

 イエティやサスカッチ、ビッグフットなんかの馬車があったら観光客に大人気だろうな。


 最後は彼らが子供を抱っこしてくれて、最高の笑顔をサービスしてくれての記念撮影だ。

 俺も姪っ子と一緒に一回五十ドルまでなら出してもいいかな。


 生憎とうちの魔物君は焼き締めパンで走ってくれる契約なのだが。


 まあ彼はよく働いてくれるし、一応は名を与えて眷属にしたという家族みたいなものなので、なるべく契約よりも待遇はよくしてあるのだけれど。


 風を切って、輝く夏の光の中を走る荷馬車は実に爽快だ。

 子供達には、日射病の予防と万が一の事故に備えて、革製のヘルメットのような物を作ってある。


 彼女達の身内であるブートンおじさんに頼んで作ってもらったものだ。

 その中には化学繊維の布地から取った綿を内装として挟んであるので、何も被っていないよりはマシだろう。


 俺の鞄についていた、一体成型で作られたプラスチック製のパチンと嵌まる留め金で、顎のところで留められるようにしてある。


 子供達は、他に可愛い編み籠のお揃いのバスケットを持っている。

 これはフォミオがさっと作ってくれたもので、意匠にも非常に優れたなかなかの逸品だ。


 材料は森に行って自分で集めてくれているし、本当に器用な従者だな。


「君達。

 あんまりはしゃいで馬車から落ちなさんなよ」


「平気ー」

「だいじょうぶなのー」


 アリシャさんや、君が一番心配なのだけれど。

 四歳児のそういう台詞を信用してくれる大人なんて世界中探したってどこにもいませんからね。


 そして言っている傍から、小さいほうの幼女様は立ち上がってバンザイしておられる。


 そして路面の盛り上がりを車輪が踏んだ加減で荷馬車が揺れて、見事にコロンっと転がったが、俺は待ち構えていたので捕まえてお膝に乗せた。


 こういう感じになるのがわかっていたので、商談を控えた今日は一人で来たかったのだがな。


 商談中もこやつは絶対に大人しくしておらぬのに決まっているので、お話に集中できんわい。

 今日はお前ら用の新しい絵本やお菓子なんかも仕入れるのだからな。


 だが、奴は懲りずにお膝の上から脱走を試みたので、罰として強烈なくすぐりの刑にしておいた。


「きゃはははは、やめれー」


「ほれほれ、脱走罪は重罪だぞー。

 死罪なのじゃあ」


 とりあえず反乱軍との戦いは俺の勝利に終わり、幼女様は見事に悶え死んでいたので、騒動は鎮圧できたようだ。


 一方で六歳児の方は、フォミオに頼んで荷馬車の前部に掴まれる手摺りというかバーをつけさせてやったので、それにしがみついて素敵なロードアトラクションに夢中だ。


 日本の遊園地とかに連れて行ったら大変だろうなあ。

 さすがに遊園地は作れないのだが、麦野城を史跡テーマパーク化するのはありかもしれない。


 何せ、あそこはテーマが『異世界からの侵攻軍対王国連合世界防衛軍の戦い』だからな。

 こいつは本物だから、ある意味ではハリウッドのSF大作よりも凄い。


 地球でいえば、宇宙人の侵略者対国連軍の戦いを記念した戦場記念公園みたいなもので、ちょっとありえない物ではある。

 ま、この世界じゃただの廃砦なんだけどな。


 もうちょっと近かったら、あそこを綺麗に直してお祭り会場にしてやってもいいんだが、さすがに歩いて二日分くらい距離があるので遠すぎる。

 それこそ大量輸送の手段を考えないと難しい。


 大型馬車を引かせるようにでかい魔物でも捕獲して忠誠を誓わせるといいのだが、なかなかそうもいくまい。


 餌代も結構かかりそうだしなあ。

 餌を俺のスキルで増やせば、なんとかなるのかもしれないが。


 そして当然の事ながらスピードが出ているので、あっという間に魔物馬車はベンリ村についてしまった。


「ベンリむらー」

「すてきパン」


 最果ての辺境村に住む村人幼児の憧れの的は、煌びやかな王都ではなく、お隣の普通の村だった。

 そこは現実に手が届く、しかし夢のような世界。


 だって、村の中にお店が軒を並べたメインストリートなどという物があり、洋服や靴などをショッピングできて食事ができ、帰りに素敵なお土産まで選ぶ事ができるのだ。


 アルフ村は買い物不便な僻地の村なので、またその御土産が喜ばれる事、喜ばれる事。


 近所の森での採集や狩猟などの腕があれば、それを持ち込んで買い取りしてもらって豪遊できるし。


 ただの薪だってそれなりに歓迎される。

 このベンリ村は人が多い割に山とか森までそこそこ遠いので、薪集めなんかに行くには微妙に中途半端で面倒くさい。


 周辺の村などから持ち込まれる、薪や森での各種産物などは非常に歓迎されていた。

 何しろ基本的にどこの村も全部歩きで、荷物は背負うか手に持つかだからなあ。


 荷馬車など持っている方などは村ではそれなりに富裕層にあたるのだ。

 普通の家では馬は使っていなかったし、荷馬車もそれなりに値が張った。

 農耕馬とかいそうなもんなのだがな。


 最果てのアルフ村に住む自力で隣村まで歩けないような小さな子供達にとり、ここはなかなか行く事ができない夢の国なのであった。


 まあ行きたがるし、はしゃぐわね。

 油断すると、そのうちにこの子達の友達まで連れて行く羽目になるかもしれん。


 さすがにこの荷馬車に子供を大量に乗せて一人では引率できないので、今のところそいつは勘弁だな。


 子守りの名人である従者はいるのだが、村まで行く道中は奴が運転士兼エンジンなので如何ともしがたい。


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