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2-2 おめかしの季節

 そして、ついにショウが街から帰ってくる日がやってきた。


 頼んでおいたフォミオの靴も仕上がっていたので、街道整備のついでに先だって受け取っておいた。

 履かせてみたら、あつらえたようにピッタリだ。


 いやいや、相当苦労してあつらえてやったものなのだが。

 かなりの大金をかけたので素晴らしい出来だ。


 何しろ、二足で金貨百枚も注ぎ込んだのだからな。

 よくこれだけの金額の材料手配が早期に終わったものだ。

 プロっていうのは凄いものだな。


 生憎な事に、その主の方が履いている靴は銀貨二十枚の安物なんだが、フォミオがとても嬉しそうなので、そこはよしとしよう。


「ご主人様、フォミオ嬉しい。

 こんな事をしてもらったのは初めてでございやすよ~」


「ふふ、喜んでもらえて幸いだよ」


 何よりも、あの上級のポーションを手に入れるのが待ち遠しい。


 ザムザのようなとんでもない化け物に追い回された経験から、生存本能が渇望するかのように上級ポーションを欲している。


 でも街までは自分が取りにいかないといけないんだろうな。

 あまり高価な物をショウに買い付けさせて、妙な連中に襲われても困る。


 今までもよく考えずに、ただの行商人の青年に結構な大金を持たせちまっていたんで反省しよう。

 それにショウに渡す収納袋も早く欲しい。


 もし当日、他にも収納の魔道具があれば知り合い用に押さえておきたいものだ。

 幼女様にでも持たせておけば、家の薪拾いが楽になるだろう。


 収納袋をチビに渡すのなら、万引きとかしないようにしっかりと教育せねばならないが。

 まあ彼女達の徒歩圏内に店なんて一軒もないがな。

 

 カイザに渡しておいても、俺が預けておくもの以外に果たして使い道なんてあるものかな。

 

 あいつの場合は焼き締めパンと水くらいしか中に入れる物がないんじゃないのか?

 まだベンリ村で自分の商売をやっている女将さんの方が有効に使いそうな気がする。


 最近は、夜まで『本日一粒万倍日』のスキルは使わない習慣ができてしまった。

 あの時、もしスキルが使えていたら、ザムザともう少しいい勝負ができただろうか。

 そう思うと時々眠れない事がある。


 ただ、もしあいつを倒せたとしても攻撃の威力が高すぎて、その余波で俺も村もお陀仏になっていたかもしれない。


 あのザムザや采女ちゃんが持っている絶対防御というスキルはどれほどのものだろう。

 あれは本当にチートな代物で防御力が高すぎる。


 他の魔人なんかがそいつを持っていなければいいのだが。

 もしも、あれが次元障壁のような物だとしたならば、もう俺にはどうしようもないのだ。


 おそらくその場合は核兵器の直撃でも通用すまい。

 それこそ、佳人ちゃんが持っている特殊な次元刀のようなスキルが必要だ。


 仮に核兵器があったとしても、核兵器では周りの土地が超ダメージを食らってしまうだけだろう。


 化学兵器や生物兵器なんかだとどうかだが、虫系魔物となると煙や毒ガスとかに弱そうだし、ウイルスも効きそうだ。


 むしろ時間はかかるものの、へたな攻撃よりも寄生虫なんかの方がダメージは大きいかもしれない。


 ザムザタイプなどは体が人間っぽい感じなのでよくわからないのだけれど。

 魔人ってそういうところが判断に困るのだ。


 生憎な事にこの異世界にNBC兵器はないし、もしそのような物があったのであるならば、生物として耐久性が高そうな魔物軍団よりも、ひ弱な人間の方が先に絶滅しそうな気がする。


「そういや魔法もなんとかして覚えたいのだが、近場で習えるところってないものかなあ。

 それもショウに訊いてみるか」


 街道を整備しておいたので、午前中はフォミオとかねてから欲しいと思っていた物を作っていた。

 今日はろくろを作ってもらっていたのだ。


 これは近隣の村で希望者に湯飲みなんかを作らせてもいいと思っているのだ。

 冬とかは畑仕事もなくて採集も碌にできないから多分暇だろうしなあ。


 家族を村に置いたまま街などへ出稼ぎに行く人もいるのかもしれない。


 産業用の本格的な窯は製作を断念した。

 火加減や吹き込む空気の加減、あるいは構造上の問題などで燃焼に異常をきたす場合がある。


 いわゆる燃焼ではなく、その速度が速い爆発という現象が内部で起きると大事故に繋がりかねないので大変だ。


 それに窯の構造も複雑だろうから専門知識がないと作れないだろうし、俺がスキルで薪を供給しないと、このあたりの山も丸裸になってしまうしなあ。


 あれも用途によっていろいろなタイプがあって、それぞれ専門的な構造になっているはずだから、迂闊な物を作ると巨大な窯が大爆発だ。


 何よりも、真面な陶芸のスキルを持っている人がいないので、それが一番厳しい。

 この俺さえも、その分野においては無知の塊なのだ。


 王都にいるはずの勇者軍団の中にそういう人間がいないとは限らない訳なのだが、あいつらには絶対に頼りたくない。


 あの中の三分の一は確実に俺を蔑視しているので、もしうっかりと顔を合わせるような事でもあれば、オーラ同士が激突して火花を散らすだろう。


 場合によってはスキル同士、あるいは手持ちの武器を使った殺し合いが始まる。

 まあ彼らに何かを頼るなら、人を選んでという感じになるんだろうな。


 という訳で大規模な産業としての陶芸はボツ案だ。

 一応、榴散弾のような物はなんとか格好はついたものの、俺作の湯飲みはなあ。

 そのあまりにも無様な出来を見て、幼女アリシャ様はけたけたと床に転がってお笑いになった。


 くそう、かくなる上は。


 そして俺は、以前から一度でいいからやってみたかった事をついにやってみたのだ。


「駄作じゃあ~!」


 でも床に叩きつけてみたけど肉厚すぎて縦に割れずに、湯飲みはいくつもの輪っかになってバラバラに飛び散った。


 うーむ、粘土の棒を丸く輪にして積み上げて作ったインチキ湯飲みだからなあ。

 時間をかけて不器用に作っていたので、半分渇いていたところを強引にくっつけたから、強度弱っ。


 お、そうだ。

 今度そのやり方で陶器の壺湯を作らせるか。


 あれは確かそうやって作るんだよな。

 あれだけ欲していた風呂を作るのをうっかりと忘れていた。


 檜風呂なんかもいいよなあ。

 それっぽい感じの木も、この辺りで見かけた気がするのだ。


 風呂沸かしにはかなりの量の薪が必要だが、スキルを使用してたっぷりと作ってあるのだし、お湯自体をスキルで増やしておくと言う選択肢もある。


 残念ながら、このあたりには温泉が湧くような土地はなさそうだ。

 日本のスーパー銭湯あたりで沸かしている、適当な成分の冷泉くらいなら、ちょっと深く掘ればそのうちにどこかから出てくるかもしれないのだが。


 スキルによる穴掘りなら得意なんだがな。

 今ならフォミオが薪をくべて湯沸かしをしてくれるから、源泉が冷泉でも楽だな。


 風呂となると薪で沸かす釜を作らないといけないと思うが、そのへんはまたしても村の鍛冶屋さんの出番か。


 まあ鉄なら大量に在庫がある。

 とりあえず、木製の輪投げを作って子供達と一緒に遊んでみた。


 いや、こういうのを秋のお祭りに出したらいいなとか思って。

 輪投げは木の材料で作らせたから、これならこの世界でも普及させられるんじゃないだろうか。


 綺麗に仕上げられるよい塗料とかどこかにないものだろうか。

 これもショウに訊く案件だな。


 お昼前になって出かける準備をしていたが、すでに二人の幼女様はおめかしをして、にこにこして待っていた。


 今日は商談があるから連れていきたくなかったのだが、これは連れていかないわけにはいかないようだ。


 連れていかないと、また思いっきり泣き喚くだろうからな。

 別に危ないところへ連れていくわけじゃあないので、今日は連れていく事にした。


 カイザは森へ出かけているようだったので、出かける旨の書き置きを残しておいた。

 どうせそういう見回りに行くと夕方まで帰ってこないのだ。


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