2-1 めくるめく土建屋の日々
あれから毎日、俺はアルフ村とベンリ村の間の村間街道の整備に明け暮れていた。
何故かというと、ことあるごとに幼女様が隣村に連れていけと非常に煩いので、隣村まで時間がかかると面倒でしょうがないからだ。
だいたい二十キロの道のりを四十回くらいに分けて、道のデコボコを平らに切り均してみたのだが、切り落とした部分が他の道から妙に低くなってしまって雨が溜まるような感じになってしまった。
表面を石で舗装すると後のメンテナンスが面倒だし、俺がいないと道の補修に金と時間がかかり、そうなると再舗装も困難になってしまうので躊躇いはあった。
そこまでするほど、この村には金銭的な価値がないため、どこからも金なんて出ないからな。
しかし、未舗装のままにしておいても走るのに時間がかかるし、雨が降るとまた路面が崩れてきて困る。
特にぬかるみに荷馬車の轍が出来てしまうと、もうどうしようもないのでそのままになってしまい、乾くと深い轍のレールが出来てしまうのだ。
結局どうするか非常に悩んだのだが、どの道未舗装のままにしておくと雨が降るとぬかるんで、土も流されてまた道がデコボコになってしまうため、諦めて一旦石畳にする事にした。
これもまた敷いておいた石が部分的に剥げていくと、また道がぼこぼこになって手に負えないのだが、一応村の了解を得て、やらせてもらう事にしたのだ。
もうそういうものは、ローマ時代に整備した街道が後世に整備が行き届かなくてボロボロになっていくようなものなのでもう仕方がない。
昔のローマの道路はかなり上等に作られていたようだが。
日本の道路のように下の地面に凝固剤を浸透させたりするわけでもないので、雨水が染み込めばどうしても駄目になる。
海外だと、ああいう公共工事も金を浮かせるための手抜きというか中抜きがあって、ある日突然に激しく陥没する事もよくある。
ただこの辺境ならば交通量が極端に少ないので長持ちはしそうな気がしているが、いずれ経年劣化で表層の石が風化したり、その下の地盤が変形したりするとお陀仏だ。
一応、石の下にスキルで増やした砂利を敷いておいたのだが、アスファルトのように固めてある訳ではないのでね。
しかし、このあたりなら荷馬車と徒歩がメインなので、さほど道を痛めないはずなのでやってみる事にした。
一応石畳の下の部分も少し嵩上げして高くして、いざとなったら石畳を剥がしてしまえば、なんとか元通りになるという感じにしておいたのだが、それでも多分傷んだ石畳の方がマシだろうという状態ではあった。
俺があちこちで集めてきた、形がよくて丈夫そうな厚めの石を、収納を利用して綺麗に削り敷石としてみたのだ。
色々な形に整えた敷石をスキルで増やして、毎日せっせと石で舗装をしている。
できれば、例の徒歩で五日かかる街までこれをやってしまいたいのであるが、それは各所の許可が必要なので、さすがにやれないのではないか。
アルフ村の場合はもう辺境最果ての村なので、アルフ村からベンリ村方面へ行く事はあっても反対方向からはほぼ交通がないため、勝手にやってしまっても誰からも文句が来ない。
それどころか、この名すら知られぬ田舎町にて、そのような街道整備が行われた事すら世間にはまったく知られないだろう。
行商人も含めて、誰も向こう方面からの客がまったくといっていいほど来ないので、ごくたまに街からやってくる、あのモールスさんが来た時だけは腰を抜かすほど驚かれるかもしれない。
あの人もよほどの事でもない限りやってこないらしいし、カイザの家で笑い話になるのがオチだ。
「いやあ、これはまたこうして出来上がりを眺めてみると街道が見違えるように綺麗になったなー。
色石でも使っておくと、もっと映えたかなー」
「まったくでござんす。
これならあっしも速く走れやすよ~」
「さて、今日も女将さんのところへ顔を出すか」
ついに石材舗装が最後まで完了したので、今俺達はベンリ村側の街道の端にいるわけである。
水はけの悪いところは、これまた自家製の石で作った排水溝を設置したりしていたので、そういうところが少し大変だった。
雨の日とか天気の悪い時は、濡れるのが嫌なので誰も街道を使用しない訳なのだが、雨水が溜まって道が崩れるのが嫌なのだ。
また水はけが悪いと、石の下の地面がブヨブヨになってしまうし。
石の下の部分をあまり水はけのいい素材に置き換えても、道が崩れやすくなる気がするので悩ましいところだ。
まあ砂利で御勘弁だな。
世の中、砂利を敷いただけの道だってあちこちにあるのだから。
「やあ、女将さん」
「おや、あんた達かい。
いらっしゃい。
また街道の整備をやっているのかい」
「とりあえず、そいつはもう今日で終わらせたよ」
「へえ、そいつはご苦労さん。
まあ、お座りよ。
お茶でも一杯どうだい」
「ありがとう。
まあ、こっちの村の人にはまったく関係がないといっても過言じゃないけどね。
なんというか自分用にやっているだけだからさ」
「それでも凄いものじゃないか。
この辺境には他にそんな道はないからね。
あたしも後で見にいってこようかねえ」
「あとは宿を建てたら、こっちにも行商人が来てくれないかなとも思ったけど、やっぱり人口が少ないから行商人ですら商売にならないよなあ。
靴屋アルフだって、向こうの村出身の人がここで商売しているくらいなんだから。
まあ来る人がいたとしても、せいぜい俺の急ぎの用を片付けるために、俺がこっちの村に来ていなければショウがあっちの村へ来てくれるくらいの事か」
「そうだねえ。
たとえ村で宿屋を建てても、肝心のお客が来なければ大変だ。
あの村のレベルだと、誰かの家に泊まるとか、大事な客なら村長の家に泊めれば済んでしまうだろうからね」
「まさにそれだね。
畑仕事と採集がメインだし、元々は砦に代わる神殿なんかの監視村だからね」
「まあなんにせよ、始めた仕事が片付いたのはいい事さ」
そう言って女将さんはサービスのお茶を淹れてくれ、俺とフォミオの苦労を労ってくれた。




