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1-72 精霊の加護

「ねえ麦野さん。

 私達、これからどうしたらいいと思う?

 あたし達、どうしても日本に帰りたいのよ」


「そうだな。

 とりあえずは各地の精霊を捜しなよ。

 それがまず一番手っ取り早い情報源だな。


 あとは昔の伝承などを調べて回ると、その中にこちらから帰って行った勇者の話なんかがあるかもしれないぜ」


「でも精霊なんてものが本当にいるんですか?」


 不安そうに訊く佳人ちゃんの質問に、俺は吹き出しそうな顔になった。


「いるともさ。

 今君の顔の目の前で飛んでいて、あっかんべーとか面白い顔をして君を小馬鹿にしている最中の、トンボの翅のような物を生やした、うちの精霊エレが」


「えーっ」

「どこ? 精霊どこ、麦野さん」


 二人はキョロキョロしているが、まあ見つかるはずもないわな。


 そして俺は、えっへんというポーズで采女さんの頭の上で威張っているエレを、笑って指差した。


 彼女は慌てて頭の上を探るが、そんな事で精霊が捕まるはずがない。

 見えない相手には実態がないのと同じ状態なので、そのまさぐっている手も虚しくすり抜けてしまう。


「そうだな。

 なあエレ、この子達にお前の加護をやってくれないか。

 そうすれば精霊は視えるようになるんだろう?」


「えー、どうしてそいつらに、あたしのこのありがたい加護をやらなくちゃいけないんだい」


「そう言わずに頼むよー。

 彼女達が帰り道を捜してくれたら俺も助かるからさあ」


「む、じゃあさ、そいつらはあたしに何をしてくれるというのさ」


「そうだなあ。

 あ、そうだ。

 宗篤さん、確かお菓子作りが得意だったよな。

 そのレシピや完成品と加護を引き換えってところでどうだい」


「え、そりゃあ構わないけど、そんな事で加護なんて凄い物を本当にくれるの?」


 まあ疑うのも無理はないのだが、奴らはそういう残念な連中なんだから仕方がない。


「それって美味しいの?」


 エレの興味津々の様子に、俺はにっこりと笑って言ってやった。


「彼女のお菓子作りの腕前はなかなかのものなのは保証するよ。

 昔は会社にもよく持ってきてくれていたからな。

 正直に言って、俺がそういう点では女の子に比べるべくもないんで、実を言うと地球の素晴らしいお菓子達のレシピは殆どが死蔵になっているのさ」


「なんですってー。

 ありえないわよ、このハズレ勇者め。

 なんでそんな大事な事を今まで黙っていたのさ」


「そんなもの、無い物ねだりをしたってしょうがないだろうが。

 俺はこの辺境に捨てられていった、ただのハズレ勇者なんだぜ」


「よし、小娘ども。

 今すぐ加護をつけてやるから、さっさとこのあたしのためにお菓子を作りなさい!」


 こうして無事にトレードは成立して、二人に加護は与えられたのだった。


「よっ!」


 気楽に手を振って、目の前に浮かんで挨拶するノリの軽い精霊に、初めて精霊を見た二人は目を丸くする。


「さあ、さっさと対価のお菓子を寄越しなさいよねー!」


「慌てるなよ。

 そいつはカイザの家まで戻ってからでないと作れないからさ。

 ところでフォミオの奴は一体どこまで行っちまったのかなあ。

 ん? なんだこれは」


 俺は足で踏んづけた、大きな丸い石のような物を拾い上げた。

 ちょうど砲丸投げの玉くらいの大きさがあるんじゃないのか。


 これがまた真っ赤な色をしているのだが、それもどす黒い怨念でも籠ったかのような赤だ。

 恨みの血赤とでもいうか。


 金属ではなさそうなのだが、妙にずっしりとしていて、その上何かこう、手の中で妙な存在感に満ち溢れていた。


「きゃあ、それってザムザの魔核よー。

 なんと、あの攻撃でも魔核だけは無事だったのかあ。

 本当に化け物ねー。

 魔核にも絶対防御のスキルが作用しているんじゃないの~?


 ちょっと麦野さん、気を付けて。

 油断すると、ザムザクラスの強大な魔物だと、肉体を失っても魔核から復活する可能性があるわよ」


「ほお、そいつは初耳だなあ。

 へえそうなのか。

 そうだなあ、これでちょっと面白い事を思いついたぞ」


「え、何を?」


「また今度教えてやるよ。

 だからこいつは俺がもらっておこう」


「別にいいけど、お願いだからやたらな事はしないでよお」


「へへ、わかっていますって。

 そうだ、あとはこれらの品を渡しておこう」


「何を?」


「これさ」


 そして俺はバッグごと増やしておいたあれこれを、ジッパーをはずして中を見せてやった。


「まあ、これは」


 中身は俺が持ってきた地球のお菓子群に、こちらの世界で作ったお菓子群。


 女将さんやフォミオが作ってくれたお料理に、そして手持ちのポーション類全種類と、銀貨と金貨と大金貨の山だった。


「うわ、凄い。

 あ、もしかして、これがあなたの」


「そうだ、これが俺のランクレスなはずれスキル『本日一粒万倍日』の力さ。

 あと王都の勇者達に渡りをつけられる方法はないかな。

 なんとかして奴らの持ち物が欲しいんだ」


 そう、まずは拳銃だ。

 あのお巡りさんは自動拳銃を持っていた。


 弾丸は空薬莢しかなくてもいい、後は何とか作ってみせるから。

 弾丸は一発でも残っていれば踊っちゃうほど嬉しいんだがな。


 お巡りさんは二人一組で行動するので二人いた。


 自動拳銃持ちの警察官は少ないはずだが、あの二人の警官が持っていた拳銃は日本製の威力を抑えたリボルバーではなく、刑事でもないくせに何故か9ミリ口径の外国製の強力な自動拳銃を持っていた。


 最近の繁華街は危険なのかな。

 よくわからないのだが。


 あとはスマホ用の太陽電池付きのバッテリーチャージャーを持っている奴が一人くらいはいるはずだ。


 あるいはスマホのバッテリーを温存している奴とか。

 俺はメジャーな奴を使っているから、他にも同じ機種を持っている奴が必ずいるはずだ。


 常備薬なんか持っている奴がいないだろうか。

 さすがに時間が経ち過ぎたから、もう全部使っちまっているかな。

 虎の子っていう感じで、まだ持っている人がいてもおかしくないけど。


 あるいは電池式の使い捨て緊急チャージャーを持っている奴がいると助かるのだが。


「そして、このチョコは収納に入っていても精霊からは匂いを嗅ぎつけられるからな。

 これらを持っているだけで精霊ホイホイも同然なんだぜ。

 このエレもチョコに寄って来たんだから。


 あの時たくさん集まった精霊が、お前らにもいっぱいついていったらしいんだが、誰かからその話は聞いていなかったかい?」


「ううん、特には」


「へえ、おっかしいな。

 まあいい、じゃあうちに行くか。

 もう、さっきから本当に催促が厳しいんだから」


「いいから早く家まで行くよー、このハズレ勇者!」


「はいはい、もう相変わらず意地汚い奴だなあ」


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