1-6 スキル鑑定
翌朝、またしても例のプチ広間のような場所に集められた俺達は、朝食用に例の焼き締めパンと怪しげな水を配給されて、皆げんなりしていた。
この世界の飯は、これしかねえのかよ!
「諸君、よく集まってくれた!」
よく言うぜ。
どの道集まるしかないじゃないの。
これだから偉い奴らというのはよお。
「これから神官によるスキルの鑑定を始める。
スキルの鑑定は通常の鑑定とは異なり、専門の鑑定スキルを持つ神官にしかできぬ。
ちなみに、お前達のような世界を越えて召喚された者達は、言語や通常鑑定のスキルは全員持っているはずじゃ。
この世界では別に珍しくはない能力だがな。
あと世界を越えし者に与えられる福音として、収納のスキルがある。
これもさほど珍しい物ではないが、お前達の持っているものは特に容量制限のない強力なものじゃ。
世界を越えた者は、向こうの世界とこちらの世界の狭間に仕舞っておけるからだとも言われるのであるが真相は定かではない。
とりあえず、各自の荷物はそこに仕舞っておくがよい」
それを聞いて、全員がその場で一丸となって取り組んだ事は『水の鑑定』であった。
「うおおおおお。
おおい、みんな。
このコップの水って飲用可だぞ!」
誰かが興奮して叫んでおり、その他の連中も目を輝かせている。
「ああ、不思議と大腸菌もいねえし。
この世界は水の汚染が少ないのかな」
「もしかしたら魔法で作った水なのかも!」
「うおお、飲める。
ちゃんと水が飲めるぞおお」
くー、王様めえ。
そんな大事な事は昨日のうちに言っておいてくれよな。
まあ本人は平気で飲めているので、現代日本人がこんなに生水に弱いだなんてわからないよね。
この俺に水を浄化する魔法とか、魔法で水を作るためのスキルとか授かっていないものだろうか。
皆が突然に涙をこぼして水をむさぼり飲んでいる異様な様子を王様は不審に思ったらしいが、ちゃんと巨大な樽でお替りを出してくれた。
なかなか気前がいいじゃないか。
まあ、所詮はただの水なんだけどね。
「ああ、それでは、まず勇者の鑑定からじゃ」
そして、なんと例のひょろひょろ少年のスキルは!
【虹の攻防 勇者専用のユニークスキル 勇者が共にあることにより、味方の軍勢に莫大な攻撃力と防御力を与える。そして心を勇気と希望で常に満たす事ができる。別名、軍神の力】
「おお、おお、これこそ我らが真に求めていた力じゃ。
こ、これで世界は救われたぞ。
皆の者、我らには強大なスキルを持つ異世界の勇者がついておるぞ!」
「ああ、王よ。
なんと素晴らしい。
これこそ、まさに神の福音だ。
我らには、神の御加護がある」
そして歓喜のあまり膝から崩れ落ち泣いている兵士達、そして当のお告げをした神官も感激が極まって床で泣き伏している。
それって、でくのぼうみたいにただ戦場に兵士に守られながら突っ立っているだけでいいって事だよな。
まさに、いかにも見た目はモブキャラですという感じで勇者とは名ばかりのキャラである、あの軟弱そうな少年向けのスキルだよなあ。
しばらく号泣していた王様と配下の人達。
だが俺達は全員茫然としていた。
頼むから「お前らの事なんかもう知るか。勇者さえいれば後はどうでもよい」とか言わないでくれよ。
しかし王様はやがて立ち上がり、このように言ってくださったのである。
「さて、それでは他の、もうどうでもいい連中のスキル鑑定を片付けるとするか」
こ、このファッキン国王様め、堂々と俺達の前で言い切りやがったなあ。
それを聞いて他の皆も全員がムスっとした顔になってしまっている。
さすがに肝の太い宗篤君も苦笑していた。
まあ関係者全員で号泣するほどの大当たり勇者を、すでに望み通りに引き当ててしまった後なのだ。
向こうにしたら無理もない話なのだから、残りの俺達カスを見捨てないでスキル鑑定をやってくれるだけマシってものなのか。
この王様、はっきり言って正直者過ぎる。
建前って言葉を知らねえのかよ。
これだから異世界人っていう奴は困る。
だが俺達の中にも有用な拾い物があったようで、王様は更に顔を綻ばせた。
「これはSSランクスキルの【無敵のヘラクレス】か。
凄まじい力を振るい、無敵の力を発揮する、とあります。
これの持ち主はまさに勇士といってもよいような、実に素晴らしいスキルですな」
「ほお、勇者の護衛の戦士にぴったりじゃのう。
あるいは前線で敵をバッタバッタというのもありか」
だが、それを聞いた本人は大慌てで反応し、王様の前に見事な光速の【スライディング膝つき】を披露して、恭しくこのように申し出た。
あのレイナちゃんとやらのお友達のおっさんだ。
「いやいや、国王様。
この私こそは、勇者様をお守りするために生まれてきた最強の男。
ぜひとも勇者様の護衛につかせていただきたい!」
そいつは無理もない要望だなあ。
実に世渡りが上手いよ、この人。
日本では結構出世していたのではないだろうか。
誰だって最前線よりも、一番手厚く守られているだろう勇者の傍がいいよね。
ちょっとだけ彼が羨ましいぜ。
なんとか俺にもチャンスがないものだろうか。
最前線送りだけは絶対に嫌だ。
「うむ。
よく言ってくれた。
では、お主を勇者の護衛隊長に任じる。
そなたの名は?」
「国護守です」
おー、迫力ある顔や体に似合わず、御立派な名前だなあ。
てっきり○○組の二階堂竜二とかそういう名前なんだとばかり思ってた。
おっさん、背中に龍の紋々とかを彫っていませんか?
俺なんか、ただの麦の穂だもんね。
世の中、平凡なのが一番さ。
そして他にもごろごろと凄いスキルの持ち主がいた。
看護学校の生徒である看護師見習いの美少女は、凄い癒しのスキルで勇者専任の救護係に就任した。
防御魔法に優れた魔法スキルの持ち主である、これまた美少女の女子高生は勇者の陣を守る係だ。
すごい、あそこの陣にいれば世界一安全なんじゃないのか?
俺も是非あそこに混ざりたいな。
女の子も結構美少女ばっかりで物凄く楽しそうだし。
他にも後方から安全に攻撃できる各種魔法の持ち主達、砦を修復したり建設したりできる土魔法の持ち主もいた。
建設系スキルか、あれはいいよな。
勇者の力でこの戦が終わっても、きっと民生部門で引っ張りだこなんだぜ。
俺にもそっち系のスキルが身についていないものかなあ。