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1-57 粘土細工の時間

 それから子供達が起きてから、採掘場に着いて粘土を採掘していたが、フォミオが少し奥の方へ向かっていった。


「あれ、どうかしたのかい?」


「こっちの方によい土がありそうですので見てまいりやす」


「そんな事までわかるのか、お前。

 いや本当に凄いな」


 これも調合のスキルのうちで、もしかしたら調合に必要な素材の採集を可能にしているのかもしれない。


 そして俺と幼女軍団が粘土採集というよりも、ほぼ子供の泥んこ遊びに興じていると、フォミオが両手に大きな木のバケツいっぱいに入った粘土を持ってきていた。


「二種類追加してきやしたので、帰ったらまた粘土の調合を試してみたいと思いやす。

 また、お作りになりたいと言われていた釉薬の材料として、お話を伺った限りの作り方ですとあちこちの土が欲しいでやんすね。

 また折を見て周辺を見て探してまいりやしょう」


「おお、頼む。

 やっぱりその方が見栄えがするし、陶器のお茶碗で御飯が食べたいよ」


 こっちの粘土もフォリオが手早くバケツに詰めてくれたので、俺がすべて収納した。


 帰りは野草や何かを採集しながら歩き、アケビを見つけたフォリオが、その巨体でまさかと思うような、猿のような素早さで木の間を軽やかに駆け抜けて大量に集めてきた。


「お前、えらく素早いな。

 木登りも得意そうだし」


「いやあ、あっしみたいに弱い奴はそうでないと死んでしまいやすからねー。

 もっぱら逃げ足が鍛えられておりやすので!

 戦場なんかでは木の上なんかも、結構お薦めの退避場所なのでございやすよ」


 何かこう、胸を張って答えてくれているのだが、それはそんなに自慢してもいい事なんだろうか。


 まあここでは大いに役に立ってくれているのだし、その御業は子供達からは大絶賛だった。


「凄い、フォミオちゃん凄い」

「すごーい」


 両手にお嬢様方からすがられて、大変嬉しそうなフォリオ。

 本日はアケビをおやつにして、残りは御土産と万倍化用にとっておいた。


 あと、秋になったら山ブドウが生るはずだから楽しみだ。

 そいつがカイザの酒の原料なのだが、調合スキル持ちのフォリオにかかっては、いかなる名酒に仕上がるものなのか。


 やはり王都かどこかで蒸留設備を仕入れてきて、ブランデーまでいきたいものだ。

 今は交通機関の強力な動力もそこにいてくれるのだから。

 とりあえずは隣村ツアーからかな。



 帰ってから、御飯前が粘土教室だった。


「二人とも、好きな物を作ってみな」


「うん、わかった」

「作るのですー」


 俺はなんというか、湯飲みだな。

 ろくろなんてないので、丸めて細く伸ばした粘土の棒を積み上げていく壺方式の豪快な作り方だ。


 湯のみとしては有り得ないような物凄くゴツイ代物ができてしまいそうだが、まあやってみようという事で。


 普通は材料代だってタダじゃあないのだから、こんな作り方ではいけないのだがな。

 確か、安い湯飲みなんて駆け出しの陶芸家さんが作っていて、利益なんて無いも同然じゃなかっただろうか。


 粘土代や電気炉にかかる電気代だって半端じゃないだろうからなあ。

 俺が作っているものは、まだ素焼きだから水とか全部もれそう。


 御茶だって紅茶しかないしな。

 理屈から言えば、紅茶の元になったであろう緑茶がこの世界のどこかにもあるはずなんだが。


 確か、お茶と名のつく物は、緑茶も紅茶もウーロン茶も元になる作物は一緒だったのではないだろうか。


 それで味があんなに違うんだからなあ。

 品種の違いもあるのだろうが。


 ここにあるのはペットボトルの御茶だけだ。

 それを温めて湯飲みに入れて飲むかな。


 素焼きの乾燥も一週間はかかると思うので、その間に忘れずに湯飲みの足をつけないと、足無しの木製湯飲みスタンドにでも置かないといけない珍品湯飲みが出来上がってしまう。


 まあちゃんと割れずに湯飲みができる保証もないのだが。

 俺は楽しく何個も湯飲みの製作に励んでいた。


「おや、アリシャは何を作っているんだい?」


 なかなかの大物作品だ。

 とぐろを巻いた大きな蛇の置物か何かな。

 蛇はこの世界でも縁起物なんだろうか。


 だが彼女は元気にお返事をしてくれました。


「うんこ!」


 ああ、幼女の感性を舐めていましたね。

 すげえドヤ顔をなさっておられるし。


 そういえば、そういう物が大好きなお年頃でした。

 あれは男の子だけの専売特許ではなかったよな。


 しかし、これはまたでかい大物作品だ。

 まさか、これのモデルはカイザの!?


 大変立派な直径三十センチはありそうな代物で、まさに粘土の無駄遣い以外の何物でもない。


「もうアリシャったら、そんな物をどこに置くつもり?」


「森?」


 うーん、確かに森には動物さんのそれもございますがねえ。

 そういえばこの間、森をパトロールしていた時にうっかりと踏みそうになったよな。


 魔物ばかりに気がいっていたら、カイザに注意されたんだ。

 あれを踏むと、気がつかないでいると家の中が汚れるからなあ。


 日本だと靴は脱ぐからいいけど、ここは土足のままだから。

 靴自体はもう捨てる予定のブーツだからいいんだけど、新品でやったらへこむだろうな。


「そういうマーシャは?」

「よくぞ、聞いてくれました!」


 見ても何なのかよくわからないな。

 もしかしてハム?


 しかし、あまり実用的じゃ無い物のようだ。

 芸術作品か何かのつもりなのか?


「うーん、よくわからんなあ。

 何だいそれは」


「じゃーん、おとうさんの枕です。

 死んだお母さんのお膝だよ。

 記憶を頼りに再現してみました」


「うーん、そいつはまたマニアックな代物だな。

 言われてみれば確かに膝だ。

 確かに膝枕は男の夢とは言うものの」


「でしょう?」


 というか、太腿の途中から膝までを再現して切り取っただけという前衛作品なので。

 おまけに堅くて寝にくくて、はっきり言って駄作である。


「お前ら、いいんだけど、その作品達はボツだぞ」


「えー」

「なんでー」


「そんな大きな塊を中まで上手く乾かせるはずないだろ。

 電気乾燥炉があるわけじゃないんだから。

 はい、粘土がまだ柔らかいうちに作り直し。

 今度はもうちょっと可愛いサイズでな」


「ちぇー、好きな物を作っていいって言ったくせにー」


「会心の作だったのになー」


 ブツブツ言いながらも、可愛い陶芸家様方は次の作品に熱中していたのであった。


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