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1-53 使える奴

 それから奴を家の中に連れていったのだが、それを見て子供達がまた大喜びだった。

 フォミオって、なんかユーモラスな顔をしているしな。


「わあい、お客様だ」


「違うぞ、アリシャ。

 今日からこいつは俺の仲間だ。

 しかし、この家は天井が高くて助かるな。


 フォミオ、家は壊さないように気をつけてくれ。

 そっと歩かないと底が抜けるかもしれん」


「はい、カズホ様」


 そのうちにこいつの住む小屋でも作らせんといかんかな。

 悪いが自分で作ってもらおう。


 材料は山から切り出した木とあれこれと俺が収納している物で。

 木材は乾燥させないといけないので切ってもすぐ使えないだろうから、どこかで買ってこないと駄目かもな。

 村内で、村で使うように持っている奴があるかもしれない。

 荒城にあったパーツを使えば、もしかしたらカイザの家よりも豪華になるかも。


「なあ、カイザ。

 こいつに引かせられるような車はないかな。

 アリシャが隣村へ行きたがっているんだが」


「そいつに車を引かせるというのか、魔物だぞ。うーむ」


 しかし、何かを期待するかのようなアリシャのキラキラした瞳が、愛娘ビームを発しながらカイザのそれを撃つ。

 それに姉のマーシャも参戦した。


「じーっ」

「じーーっ」


「「じいいい」」


「わかった、わかった」


 とうとう根負けした娘馬鹿のスキル持ちが苦笑し、仕方なく口を開く。


「納屋に昔使っていた台車がある。

 あれを修理すれば使えるかもしれん。

 後で見てやろう」


「「やったーー」」


「あ、修理ならお任せください。

 その手の雑用なら、あっしはお手の物ですので」


 なんだそりゃあ、魔物のくせに。

 まあ助かるんだけど。


 俺は呆れて聞いてみた。


「お前、諜報で一体何をやっていたんだ?」


「ああ、諜報の前は雑用をしていやした。

 その前は雑兵でやんしたが、あまりにも役に立たないので前線から送り返されやして、雑用係におりやした。

 そして現場で人が足りないという事で、なんだか知りませんが特技を買われて諜報に呼ばれたというわけでして。


 しかし、よりにもよって、あの残忍な事でもって鳴る魔王軍の中でも嫌われ者の中の嫌われ者、残虐王ザムザの下につけられるとは。

 あそこで人手が足りないというのは、あいつに次々と意味もなく殺されたからに決まってやすんで」


 うわあ、どんな軍なんだよ。

 規律とか、そういうものを決めていないの?


「なんだ、お前の特技って」

「これでやんす」


 そう言って奴は、ポワンっとまるで空間に消えていくかのような感じで姿を消した。


「ありゃあ」


 こいつって案外と危険な奴だったのか?

 俺は奴がいた場所を手で探ったが、もうそこにはいなかった。


 だがカイザは何もない場所を手で軽くポンっと叩いた。

 すると、そこから軽い気の抜けたような声音が漏れた。


「ありゃあ、カイザの旦那ってば凄いっすねえ」


「ああ、そこにいる事さえわかっていれば、こんな事くらいは軽いもんだ。

 しかし、こいつが間諜なのだと?

 まあその図体なら、そうでもないと諜報として役には立たないわけだが」


「えへん、あたしにもわかるよ」


「う、俺はわからなかったなあ」


 熊の時もそうだったけど、俺って今もエレがいてくれないと、気配を消してくる相手とかには完全に無防備なんだわ。


「お前は魔王軍じゃそう役に立たなかったかもしれないが、俺の助手をするんだと物凄く役に立ちそうだな」


「嬉しいでやんす~。

 魔物だってねー、役立たずって言われるのは辛いっすからね。


 あと人間の言葉がよくわかるのも買われていたっすよ。

 比較的人間には近しい姿でやすしね。

 まあ少なくとも、蟷螂頭のザムザよりは」


 まあ蟷螂と比べちゃあな。

 こいつも図体がもう少し小さければ人間っぽい感じになるんだが、それを言ったらパワーがスポイルされてしまって、車を引いたり、その他あれこれとやらせたりするためのメリットが減っちまうからな。


「ねー、フォミオちゃん。

 車ー」


「早くー」


 さっそく幼女の召使として愛されている、うちの助手。

 あのう、そいつは俺の助手であって、早く対ザムザ兵器である強力火薬を開発させたいのですが。


 だが奴も言った。


「かしこまりやした、お嬢様方。

 お名前は」


「マーシャです」

「アリシャだよ」


「では納屋までご案内いただけやすか、マーシャ様、アリシャ様」


 おそらく生まれて初めてだろう様付けにされて、恭しくお嬢様扱いされたので大喜びの幼女軍団。


 このフォミオ、最底辺の下っ端だっただけあって意外と世渡りが上手いな。

 この家の一番のツボを一撃でついているのは見事としか言いようがない。

 俺も見習わないといかん。


 しかし、魔物のくせに妙に人間くさい奴だ。

 人間によって名前を与えられた影響もあるのかもしれない。


 両側の手に子供達にぶら下がられて、ほぼ公園の遊具に成り下がった俺の従者兼助手。

 まあ子供達があんなに喜んでいるんだから別にいいんだけれども。


「じゃあ、彼はお嬢様方の執事兼、この家の下男も兼ねてという事で」


 言葉もなく苦笑を浮かべ、手をひらひらさせるカイザ。

 駄目だって言っても、子供達が泣き喚くだけだからなあ。


 そうだ、今度こいつに何かの遊具を作らせてみるか。

 丸太系なら材料には事欠かないし。


 ああ、こいつのうちもそれで作らせるか。

 この図体なんだものな。


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