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1-52 助手誕生

「なあ、エレ。

 こいつ、一体どうするんだ」


「あたしに訊かれてもねー。

 そいつは、アンタに弟子入りしているんだから」


 こいつ自身は今回の事を面白がっているようだった。

 弟子入りって、あのなあ。


 まあちょうど人力車を引く人夫が欲しかったところなんだし、エレが嘘発見機の役割をしてくれるんだから、置いてやってもいいっちゃあいいんだが。


 お、そうだ。

 火薬の調合をやらせてもいいかな。

 あれは危ないから自分でやりたくないんだよな。


「お前、体は丈夫な方か?」


「はあ、まあ人間よりは遥かに」


 やや不安げに返すそいつ。

 よし、人力車人夫兼火薬調合助手という事で仮採用だ。


「いいだろう。

 とりあえず採用しよう」


「ありがとうごぜえやす」


「名前は?」


「特にないですが、もしかしていただけますので?」


「ああ、いいぞ。

 名前をつけてやろう。

 何がいいかなあ」


 姿がなんとなく似ているからって、『アレ』の名前じゃマズイだろうしな。


 第一、うっかりと大魔王なんて名付けたら、怒った本物の魔王がわざわざ殺しにやって来かねない。


「そうだな、よし。

 お前はフォミオ。

 英語の『調合』からとってフォミオだ」


 すると、何故か奴は心なしかそいつの体が光って、少しキリリっとした感じになったような気がする。


 あ、もしかしたら名前をつけたせいか?


「ありがたや、魔王軍にいたら絶対に与えられないだろう、名前をつけていただけるなんて。

 もう体中に力が満ちておりやす。

 ご安心を。

 魔物は名前をつけていただいた方を絶対に裏切りませんので」


「すると、ザムザという奴も魔王を裏切らない忠臣というわけだな」


「その通りで。

 奴は物凄い忠義者で魔王軍の中でも超有名ですからねー。

 あっしと同じ雑魚魔物で、うっかりザムザのいたところで魔王の悪口を言っていたら、その場で首を刎ねられた奴がいやしたよ」


 いいけど、自分で雑魚魔物って、お前。


 まあ主人となった俺だって、本当は勇者でもなんでもないのに『ハズレ勇者』などと言われてしまう男なのだから、まあいいコンビなのか。


「あら、その子ってスキルがついたわよ」


「何、本当かい?」


「うん、『調合』だって」


 なんだそれ、名前そのまんまじゃないか。

 もしかして名前を能力に反映するのかねえ。


 ナイスネーミング、俺。


 火薬の調合とかうまくできるといいんだが。

 いやそうなら助かるんだけどなあ。


 とりあえず、こいつを家に連れて帰るか。

 こいつを見てカイザがなんて言うかなあ。

 捨ててきなさいとか言われると困ってしまうんだが。


 もう名前を付けちゃったし、ネームドになってしまった魔物を野良にするのは気が引ける。


 それに、彼は今どうしても俺が欲しい人材、いや魔物材なんだよな。

 というわけで、俺はカイザの家に帰ったのだが、さっそく家主から苦情が入った。


 おかしいなあ。

 日本のアパートみたいにペットに関する規定は特になかったはずなのだが。


「おい」

「なあに」


「お前、そいつは!」


「ああ、今日から俺の従者、いや助手になったフォミオだ。

 よろしくな。 

 食事は焼き締めパンがいいそうだ」


 あれなら一生分在庫があるからな。

 こいつがどれだけ食う者なのかは知らないがね。


「いやいやいや、大丈夫なのか、そいつ。

 どう見たって魔王の手下だよな」


「ああ、裏切ったりはしないが、ちょっと人間には見えないかな。

 これでも名前を付けたら、だいぶ人間に近い感じになったのだが」


「そうか、ネームドか。

 まあ人間にも見えない事はないが、かなり無理筋だな。

 まったく、さすがは異世界から召喚されてきた人間だけの事はあるな。

 お前は魔物を手なづけられるのか?」


「いやそうじゃなくてな、こいつの方から困って身を寄せてきただけだから。

 だがまあ、今俺が欲しい能力をみんな持っている貴重な人材だから手放すつもりはない。


 あんたも魔王軍の話が聞きたかったら聞くといいよ。

 ザムザって野郎がこいつを寄越したんだ。


 やっぱり魔王軍は勇者召喚を気にしているな。

 こいつがこっちについてよかった。


 そうでなかったら魔物穴の一件も報告されていたかも。

 そして、もしザムザとかいう奴が来ていたら、今頃は俺も殺されて村も灰になっているかもな。


 でもこいつが帰らないと、いずれ次の魔物がやってくるかもしれない。

 もう少し上のランクの奴が」


 それを聞いたカイザの顔が青くなっていく。

 ぎゅっと握り締めた彼の拳が、若干震えたのを俺は見逃さなかった。


「魔将軍ザムザ・キールか。

 皆殺しの悪魔、こいつに出会うくらいなら自害しろと、王国軍中の兵士を震え上がらせた男だな。


 もっとも残虐な殺し方をするので有名な魔王軍幹部の魔人だ。

 しかも、これがまた滅法強い。


 王国最強の戦士と謳われた伝説の兵士も、あっという間に奴に嬲り殺しにされて、王国軍が総崩れになった逸話は有名だ。


 最近は何故か奴の噂を聞かなくなったと、もっぱらの評判で、ここまでその情報が回ってきたほどだ。


 そうか、諜報を担当していたのか。

 おそらく、今は勇者の情報を追っているのだな。

 捕まえた人間の拷問でもしているのだろう。


 奴ならば、並みの兵士相手なら名前とその姿のみで何でも自白させられる。

 お前の事が奴にバレていないといいのだが」


 そう言って、俺の隣の巨漢に目をやるカイザ。

 あらあ、そいつはヤバイかもしれん。


 こいつはでかくて目立つからなあ。

 こいつから足がついたら最悪だねえ。


 まあ俺も蟷螂野郎に掴まっての嬲り殺しは御免だ。

 蟷螂なんか足で踏んづけてバラバラにしてやるに限る。


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