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1-50 交通機関

 命題:幼女二名を二十キロ離れた村へ運搬する方法:


 とりあえず日本の、あるいは世界の人員輸送の方法について考察してみた。


 まず神輿。

 太古の時代の偉い人達って、神輿の上に設置された椅子に座って運ばれていたような気がする。


 あと、手軽なところでは時代劇でよく見た籠かな。

 俺は歩いて行くから、二人ほど担いでくれる人がいれば、一泊すれば子供一人くらい余裕じゃないかと。


 休み休み行けばいいんだしな。

 ただ、お子様は二名だから篭屋は四人必要かな。


 無理をすれば二人でもいけるか。

 しかも更に他に『裕君』なる者が存在していた場合が困る。


 あのアリシャが、このような話を持ってきた背景に『男』の影がないと誰に言えようか。

 もしカイザが聞いたら、その可能性だけで発狂しそうだがなあ。


 万が一の可能性のために、子供なら何人か乗れる施策の方がいいかなあ。


 そもそも、この辺境の村では、村中がみんな忙しいから篭屋をやってくれる人員を集めるのが非常に困難なのだ。

 その点がこっちよりマシな隣村だと、どうなのかなあ。


 次に現存する交通機関として荷馬車の存在があげられるのだが、これもはっきりと言って難しいな。


 そもそも村の人口に比べて馬口は非常に少ないというか、それらはしっかりと労務に従事されているため借りる事がはっきり言って困難……というか、ほぼ不可能だった。


 レンタロバやレンタバー(馬)などはない。

 この俺だって歩きたくないのに、渋々と隣村まで歩いているくらいなんだぜ。


 馬が要るのであれば、それこそ街まで出かけて買ってきた方が早いくらいなのだ。


 こんなところじゃ馬すらまともに売っていないので、結局はショウ頼みで買い付けをするしかない。


 あの子だって俺専任ではないのだから、そうそう無理は言えない。

 今もかなり強引な仕事を頼んであるところだしなあ。


 普通なら、あんな無理は聞いてくれやしないさ。

 俺も人を見て無理を言っているのだ。

 このあたりは日本時代の延長線の、仕事の感覚というかね。


 とにかく、へたをすると馬を買うためだけに自分で徒歩の旅をしないといけなくなるという話なのだ。


 あともう一つ重要な問題として、この俺が馬に乗れないという、どうしようもない事実があったのだ。


「こうなったらショウか、あるいは女将さんにでも頼み込んで、御車付きの馬車でも借りてくるか。

 それとも自家用馬車を持つか。

 でもそれはまた悪目立ちしそうだしな。

 御貴族様じゃないんだからよ」


 こいつは困った。

 一番現実的な解決法は俺がアリシャを背負っていく事なのだが、村へ行くとなるとマーシャも一緒に行きたがるはずなので、それも無理なのだ。


 こうなったら自動車でも作るか!

 いやそれこそ絶対に無理だ。


 いや、本当に困ったな。

 ここはとにかく田舎過ぎる。


 子供を乗せて走れる魔物でも、どこかでティムできないものだろうか。


 あと俺が引く人力車という手もあるが、あれは二十キロの距離にはまず対応できないし、ここの轍でいっぱいの悪路に対応できないものだ。


 少なくとも俺には無理だし、そもそもまともな人力車が作れまい。


 ここの荒野に準じたような道であれを引くのは罰ゲームだし、おまけに新しく買ったブーツがあっという間に擦り切れちまうぜ。


「ショウが帰ってきたら一度相談かな」


 だが、俺が森であれこれと熟思している間に何かがそこにいて、いつの間にか忍び寄っていた。


 何故か俺にもわかる。

 もしかして、たくさんつけられた精霊の加護のせいなのだろうか。


 エレがそっと話しかけてきた。


「ねえ、カズホ。

 そこの茂みに何か魔物がいるっぽいよ」


「うん、それは俺もなんとなく感じたんだけどさ。

 なんか、そいつの様子がおかしくない?」


「さあ、槍でもドカンとぶち込んでみたら?」


「さあて、どうするかなあ」

 

 だが、その時ザザーっと茂みから何か大柄な物が飛び出してきて、そいつはいきなり俺の前にべたっと蹲った。


 まるでスライディング土下座だ。

 なんだあ?


 結構図体は大きいな。

 こいつもずんぐりむっくりの、何かこう人間っぽい体形で、しかし全長三メートルくらいはありそうだ。


 だが、今までの攻撃的な感じの奴とは異なって、のたのたしているような感じだ。


 そして、そいつは顔を上げたのだが、頭は体の割に小さめで、その上禿げ頭で3Dアニメなんかに登場するユーモラスなモンスターのような顔立ちだ。


 体付きも、いわゆる「あんこ型スタイル」で、俊敏とか凶悪とかいうイメージがまったく伝わってこない。


 何よりも殺伐とした雰囲気が欠片もないのを見て、俺もなんだか却って眉が寄ってしまう感じだ。


「おい、お前はなんだ。

 魔物なのか?」


 何故かわからないが、そいつは悪しき者というか襲ってくるようには感じなかったので詰問してみた。

 しかし、その露骨にへつらうような様子には面食らい、却って警戒心が湧く。


「ははあ、勇者様におかれましては大変御機嫌麗しゅう」


 なんだ、こいつ。

 人間の言葉を話して、いきなり媚び始めやがったな。


「なあ、エレ。

 念のためにこいつを殺しとく?」


「ヒエエ、お許しを~。

 お、お願いだから、あっしの話を聞いてー」


「あー、一応、話くらいは聞いてやったら?」


「まあそうなんだけどさ」


 すると魔物は安堵したような感じでペコペコして、何故か日本式の正座で座り込んだ。


 こいつも俺の思考を読むのだろうか?

 あれこれと情報を知られたなら殺しておかないとマズイだろうか⁉


 だが、そいつはキョトンとした様子で俺を見ていた。

 どうやら素で改まるとそうなるだけらしい。

 何こいつ、なんだか気が抜けちまうな。


 そんな俺達の様子を見て、どうやら魔物の思考を読んだらしいエレが笑って言った。


「そいつには、そんな器用な真似はできやしないさ。

 でもそいつって、魔王軍の間諜だね」


「なんだと!」


「ひえー、お話を最後まで聞いてください」


 俺はチラっとエレを見たが、笑いながら俺のこめかみをぺちぺちして俺に促したので、仕方がなく話を聞く事にした。


「話せ」


「ひゃあ、助かりやす。

 実はあっしは魔王軍の間諜なのでごぜえやすが、元々戦闘力がないので、そういう任についていたわけなのでして。


 魔王軍の幹部から今回の異変を調べるように申し付けられまして、この地へとやってまいりやした。


 道中でたまたま見つけた、あの少年勇者の力も解析しやしたが、いやあ、あれには震えあがりましたね。


 あと魔物穴について調べていたら、あなた様のあの力も拝見してしまいやして。

 あれは本当に死ぬかもと思った次第でやんす。

 これにはもう悩んでしまいやしてね」


「なんだい、そりゃあ」


「それで、もう魔王軍はお終いなのだろうと思い、戻って報告せずにここに居残っていたわけでして。

 戻っても、あっしみたいな下っ端はへたすると、人間の勇者どころか幹部の無体な命令で殺されちゃいそうですしねー。


 それで魔王軍には帰らずにこのあたりでうろうろしておったわけなのですが、ここにいたってそのうちに見つかってしまいそうですし、それならいっそあなた様にお仕えするのもいいかと思いまして。


 もう今更魔王軍に戻っても死刑になってしまいそうですので。

 いや、うちの無慈悲な上司にかかったら間違いなく死刑でしょうなあ」



 こいつめ、なんてアホな魔王軍なんだろう。

 まあこいつも自分で下っ端って言っちゃっているしな。


 どうするんだ、こんなもの。

 でも魔王の手下が離反しだしているかもしれないというのは、一つの情報ではあるな。


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