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1-48 ハズレ勇者の憂鬱

 とりあえず、昨日は今の手持ちの黒色火薬を万倍化しておいた。

 比較的爆発物として威力が高かった混合比の奴だ。


 黒っぽい悪魔の粉が大量に完成したのだ。


 花火に代表されるように、この黒色火薬という奴は衝撃や静電気に弱いので、おっかなびっくり少量ずつ作っていたのをスキルで増やしておいたのだ。


 それを元に作った爆発物をまた万倍化して在庫にする予定だ。

 やっぱり火薬を扱う作業は、万が一に備えて例のポーションを待つべきだった。


 静電気が怖いのでパンツ一丁で、静電気を逃がすようにいちいち金属片に触れてから作業していた。

 まるでパソコンの組み立てだ。


 まあ材料的に色は黒で落ち着くよね。

 白っぽいのと黄色っぽいのと黒色を混ぜたら何色になるかという話だ。


 もし材料の色が違っていたら、黒色火薬と呼ばずに桃色火薬とか緑色火薬とか呼ばれのかもしれないが、まあ実際には黒っぽい粉だ。


 英語でも確かブラックパウダーと呼ばれていたはずの物騒な代物だ。

 発射薬としてガンパウダーとも呼ぶが、生憎な事に肝心のガンがここにはないのだ。


 それにしても、あの警官の持っていた拳銃の弾が一発でもあれば弾薬がいくらでも作れたのだが。

 それを言うなら、銃本体やその素材も手に入ったのだ。


 鍛冶屋で頼んでおいた、鉄の細長い筒を各種用意した。

 材料はもう碌に使えなくなった屑鉄でいいからと頼んでおいたものだ。


 下を塞げる丸い鉄板もセットで頼んで、大きさもいろいろある。


「こんな物を何に使うんじゃ」と鍛冶屋はえらく首を傾げていたが、そんな物は爆弾に決まっているじゃないか。


 前金で銀貨を渡して頼んでおいたので彼もにこにこだ。


 とりあえず、下はもう塞いで円筒形の筒にしてもらってあるので、後は粉を詰めてやるのみだ。

 危ないので、アリシャ達のいない場所まで行って作業をした。


 上には例の羊皮紙で蓋をしてみたが、どうだろうか。

 今度蝋を染み込ませた防水用の油紙というか蝋紙というか、そういうような物でも作るか。


 次は本式の導火線の試作だ。

 こいつは一応作っておいてみるだけのものだ。


 これも火薬自体を導火薬に使い、これを定番の紙素材で巻いて包んだ。

 これらの紙材料はスキルで鞄ごと増やした、俺の持ってきた仕事の書類さ。


 まさか、そういう物を異世界でこのような事に使う事になろうとは思いもしなかったのだが、これでサラリーマンとしての俺の心残りも立派に成仏してくれる事だろう。


 たーまやあ。



 導火線は容器に詰めた黒色火薬の中心にねじ込んである。

 信管なんて小さくて複雑な物はすぐには作れないし、あれはあれでまた結構危険物なのだ。


 衝撃で破裂する敏感な爆薬を使っているんだからな。


 正直言って黒色火薬は爆薬ではないので、ボンっと爆ぜるだけのものになってしまいそうだが、まあないよりはいいかな。


 悲惨な花火事故における爆発力を見れば、そう悪いものじゃないと思うのだが。

 素材を少し変更というか加工して燃焼速度を上げる方法もあるが、あれはまた危険な代物だ。


 比較的構造が簡単そうな硝酸アンモニウムなんかがあってもいいのだが、生憎と材料の硝酸はまだ手元にない。


 しかも完全に危険物なので、碌な設備もないのに弄りたくない。


 ニトロセルロースは欲しいんだけど、爆発させるつもりならニトログリセリンなんかの方がいいだろう。


 敏感上等!

 ただ万倍化させる時だけは絶対に金貨みたいに地面に落としてはならぬ!


 いっそあれは水の時みたいに『樽』で作るか。

 そこまですると、一歩間違って爆発させてしまうと破壊力が大きすぎて確実に死ぬがな。


 一万樽のニトログリセリンねえ。

 そいつがいっぺんに破裂したら、うっすらと見えるだろう、お花畑すら三途の川ごと吹き飛びそうだ。


 一応、黒色火薬も樽にも詰めておいて、その樽爆薬の上に他の小型の物をおいて万倍化したので、爆弾は一式持っている。


 まあ火を点ければ、なんとかなるのじゃないだろうかね。

 雨が降っていたら駄目だけど、黒色火薬は乾かすとまた使えるのがいいところだ。


 ひょっとしたら王都でもこういう物を作っている連中がいるかもしれないが、本当はやめておいた方がいいんだがな。


 魔王は倒せても、その後で銃や爆弾の登場により、また人間同士で酷い殺し合いになるのは目に見えている。

 剣や槍から銃への戦いへ、その地球の歴史をここでも今繰り返すのだ。


 いつかは銃や大砲などを始めとする近代兵器も、この世界にやってくる事になるのかもしれないが、俺達の手で早めるのはどうかと思う。


 その挙句に自分達も銃で撃たれたり砲撃に晒されたりする羽目になるのだし、魔王軍だって火薬式の武器を取り入れるかもしれない。


 それに王国側の情報は駄々洩れなんだからな。


 どうせ魔王戦が終わっても人間同士の戦争が始まれば、勇者なんて戦争に駆り出されるのに決まっているのだ。


 魔物相手とは違う、人間同士の戦いなんだ。

 絶対に地球の激戦区の兵士同様に心が病むし、嫌な思いばかりをする事になる。


 出兵を嫌がって逆らえば死刑、俺のように逃げ出しても黒髪黒目だと勇者関係だとすぐバレるらしいし、果たして逃げ延びられるものかどうか。


 あいつらの場合は俺みたいに不用品扱いのハズレ野郎とは違うからな。 


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