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1-46 念願の作業

 楽しいピクニックで、この焼き締めパン村における地球おやつデビューも無事に済ませたので、俺は翌日からついに火薬の調合を始めた。


 もう他の材料の下準備なんかはかなり済ませておいたので、後は硫黄の準備をして調合に入るだけだ。


 異世界で初めて火薬が調合されたのは、このヨーケイナ王国という事になるのではないだろうか。

 そもそも、この世界、いやこの国についてだって俺は何一つ知ってはいないのだ。


 何しろ、この辺境にある最果ての村から碌に出た事がないのだから碌に知りようもない。

 王都にすら行った事がないのだからな。


 そんな話はさておき、無煙火薬や各種爆薬類とは違い、黒色火薬の製法自体はそれほど難しいものではない。


 火薬というのはむしろ保管の方に気を使うはずだ。

 旧日本軍でも、弾薬庫の中の発射薬の無煙火薬が化学的に不安定で、勝手に爆発したりするような事故もあった。


 火薬は威力よりも、安定性を保つために製法や成分の研究が進められたのではないだろうか。

 その点、俺の場合は収納に仕舞っておけるので特に心配はない。

 一番の問題は威力の調整だ。


 特に俺のユニークスキルと組み合わせる時は必殺を期するようなシーンであるため、おそらく「ちょっとだけよ」という訳にはいかないだろう。


 魔王関連を相手にするのでなければ、必殺スキルは使わないでも済むはずなのだから。

 要は魔王が絡むと、あのネストのような大惨事になりかねないという事だ。


 すでに硝石や木炭は徹底的に磨り潰し、細かいパウダーにしてある。


 基本的に燃焼材と酸化剤はよく混ざった方がいいと思うので、素材は細かい方がいいはずなのだが、その辺はやってみてからのお楽しみだろう。


 本来は何かの液体で溶かしながらやるのだろうが、そこまで専門的にはしない。

 とりあえず試作品なんだからな。


 ガソリンが空気を取り込んで動かすジェットエンジンの燃料だとすると、火薬は酸化剤を内包した個体ロケット燃料だ。


 この前は穴の中で使うという事でなんとか粉塵爆発を引き起こしたが、毎回あれをやるわけにはいかない。

 やはり火薬などの使い勝手がいい物が必要だろう。


 俺は魔王などというもの相手にやりあう気なんかは特にないのだが、俺が魔王軍から狙われる事もあるのではないかという、ショウの危惧するような懸念は実にもっともな話なので、なんとかあれこれ作っておくだけは作っておこう。


 おそらく、王都にいるだろう勇者達がやり過ぎると、そのせいで辺境にいる俺のところまで、とばっちりで魔王軍のヒットマンがやってきかねない。


 黒色火薬は爆発もするが、基本的に燃焼速度の低い発射薬、つまり銃や大砲に装填する装薬として使われるものだ。


 武器にするのであれば、砲弾の中に詰める炸薬としても使えるような爆薬系の武器が欲しい。


 硫黄からなんとか硫酸を作り出したい。

 そして硝酸も手に入れニトログリセリンを作り、ダイナマイトへと変える。


 そこまでいく過程でニトロセルロースも作れるだろう。

 これも安定感が求められる危険な代物だが、収納があるので、当座はそれほど気にしない。


 ニトログリセリンも医薬用に使われる事もあり、成分によっては非常に安定しているが、そのような安定した爆発しない代物では俺の場合は却って使い勝手が悪い。


 魔人の脳天から山ほどぶちまけてやっただけで爆発するくらいでちょうどいいのだ。


 爆薬として、せめて旧式爆薬のピクリン酸くらいの代物を作れるといいのだが、あまり複雑な物は道具もないし知識もないので作れない。


 錬金術用の機材を王都から取り寄せたいものだが、あまり派手にやると王国にバレてマズイかもしれない。


 この世界に死と破壊をもたらす硝煙の天使の封印を、この俺が解き放ってしまうのもアレなのだし。

 もうそれを勇者の誰かがやっていないとは限らないのだがな。


 錬金術があるのに火薬や爆発物が無いのもよく理解できないが、確かヨーロッパだって日本同様に硝石があまり産出しなかったから、火薬は硝石を豊富に産出出来た中国方面で発明されたのだろう。


 まあその辺は流れで行くとして、早急に製作したい物は材料が揃っていて製作工程も比較的簡単な黒色火薬からだ。


 拳銃弾が一発でもあれば万倍化連鎖により無煙火薬が大量に入手出来るのだが。


 あれも使用銃器により火薬成型の形状や燃焼速度が精密にコントロールされており、米国などの地域では自分で薬莢に火薬や弾頭を組んで弾薬を作成する際には、火薬も用途によって適正な物を買い求めるのだ。


 ニトログリセリンが作れれば、手持ちの材料とニトロセルロースを原料にして、ゼリグナイトという世界で初めて作られたプラスチック爆弾も作れる。


 そっちの方が危険なピクリン酸などよりも安定しているだろう。


 ピクリン酸は砲弾の炸薬にも使われた粉末だったが、敏感過ぎて爆発事故が多発した危険物なので、その後TNTにとって代わられたものだ。


 いずれにせよ爆発系の物体を作成するには、酸の現物とか錬金術の道具などがいるのだが、ここでは手に入らない。

 そっちの方は当面お手上げだ。


 拳銃弾に使用される火薬にも、確かニトログリセリンやニトロセルロースは使われており、できれば銃の弾丸が一発欲しかった。


 そこから各成分を部分収納で分離できれば、それらの原料があればダイナマイトは作成可能だし、おそらく安定した炸薬となるTNTも製作可能だ。


 そこから現代版のプラスチック爆弾も作成可能だろう。

 いずれにしても、今の俺にとっては望むべくもない代物ばかりなのだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「危惧する」と「懸念」はかなり意味合いが同じ言葉なので両方使うのはおかしいですよ。 「ショウの危惧する事が現実になった時の為に備えは必要だ」か「ショウの懸念が的中してしまった時の為に準備はし…
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