1-45 カゲロウの如くに
それから、姉妹に日本で子供達がやるような遊びなどを教えて、一緒に遊んでいた。
「かーごめ、かーごめ。
『加護』の中の鳥は」
何か「かごめかごめ」の新解釈が誕生しているようだ。
何故か手を繋いでパパを囲んで輪になっていた子供達の体が光り、加護の力が増しているような気がする。
というか、鬼になっているカイザパパは、その事にまったく気がついていない。
座って目隠ししている鬼でなくても、あの鈍感パパさんには精霊の到来などは理解できないのだろうが、ハッと気がつくと何故か周りに見知らぬ大量の精霊達が集まってきていた。
すげえ数だ、まるで蜉蝣の大発生だねえ。
透明な羽根を生やしたフェアリータイプだから余計にそう感じるのかもしれないが、連中は幼女二人には例によって加護をつけまくっていたようだ。
「……お前ら、チョコの匂いを嗅ぎつけただけなんだろう」
俺に指摘されて図星だったのか、何かこうテレッテレな感じで頭をかいている羽虫精霊軍団。
でも精霊が団体で遊びに来てくれたので、おチビ二人は大喜びだ。
「みんなでおやつにしよう!」
「もう、さっき一回食べただろう。
子供は御飯の時間だよ。
精霊さん達はおやつタイムね」
「そっかあ。
午後のおやつは何かなあ」
「そいつはまたその時のお楽しみ」
そして、子供用に取っておいた分と元本のオリジナルバッグに入っていた分を除き、チョコが見事に全滅した。
数が多すぎるんだよ。
害虫か、お前らは!
まるで稲を食いつくす蝗か雲霞のようだ。
甘いチョコを食いまくって満足したのか、奴らは俺にも大量に加護を置いていった。
ありがたいものかそうでないものか。
何かこう、地方のうらぶれた安キャバレーだかピンサロの女が大量にやってきて札束をむしり取っていき、別れ際の顔繋ぎにお義理で安いキスをくれていったような、そのような何というか非常に安っぽいイメージがあった。
「なあ、エレ。
精霊って一体何なんだよ」
「まあまあ。
いっぱい加護が貰えてよかったじゃないのさ」
「いや、別にいいんだけどなあ」
子供達は、父親と一緒に例の女将さん謹製のカナッペに舌鼓を打っていた。
ここで子供達はお昼寝タイムに入り、精霊共もエレを除いていなくなったので、落ち着いたもんだ。
「ふう。
こんなに平和なのに、この世界には魔王なんてもんがいるのかねえ」
「ああ、生憎な事にな」
「なあ、カイザ。
魔王って何なんだ?」
「うーん。
それについては、あまり言ってはならん事なのでな」
「ふうん。
まあいいさ。
俺にはもうあまり関係ない事なんだから」
あの行商人ショウが言った事が本当なら、そうも言っていられないのだが、本日火薬用の硫黄を大量に獲得した俺は少々心に余裕があったのだ。
これでやっと遊んでいた硫黄用の石臼が使えるなあ。
子供達が起きたので、引き続き皆で遊んでいたら、なんだかここの広場の様子が変だった。
「ん? おい、カイザ。
なんだか様子が変じゃないか」
「何がだ?」
「いや、何って言われると少し困るんだが。
ほら、なんとなく景色に違和感がないか?」
「うーん、どうだろうなあ」
「いや、絶対になんかおかしいぞ。
なあ、エレ」
「ん? まあそうかなあ」
そう言って何故かニヤニヤしているエレ。
子供達も何かにこにこしているし。
「あれ、やっぱり変だぜ。
また何かが変わった気がする」
「そうか?
特に異常とか異変は感じないがな」
しかし、子供達の様子が変だ。
エレも。
なんというか、笑いを堪えているような具合というか。
「ぷくくくく」
「くすくすくす」
「ふふふふふ」
「なんだあ。
気持ち悪い笑いはよせよ、エレ」
その様子を見て、カイザも不審そうに娘の前にしゃがんで訊いた。
「どうしたんだい、何かあったのかい?」
ただ、娘達の様子から危ない事があるのではなさそうなので、よけいに目を瞬かせている様子だ。
俺は首を傾げて、辺りの風景を眺めていた。
その異変というか変化は、目に映る物、景色、風景といったものに関わる何かのはずなのだが。
そこまで考えて森の広場の風景を眺めていたが、俺もとうとう笑い出してしまった。
「あっはっはっは。
こりゃあいいや。
これはきっと、あいつらの置き土産なんだな」
「なんだ。
どうした、お前まで」
カイザが慌てて立ち上がり俺を詰問したが、俺は彼の肩をポンポンと叩き言ってやった。
「おいおい、さすがのお前も今なら気がつくだろう。
これで気が付かなかったら娘達に笑われちまうぜー」
もう十分に笑われた後だけどな。
「ん?
何! おお、これは~」
そう、それはお花畑。
辺り一面の、広大なここの広場全域がそれに変わっていったのである。
今も地面の中から芽を吹き、花達はどんどんと咲き誇ろうとしているのだ。
なんていうんだろうな。
アニメ番組ラストの企画なんかの間違い探しで、段々と何かが一部変わっていくタイプの物があるが、あれって見ていても少しずつ変わっていくと、なかなか気が付かないんだよなあ。
俺は自らが作り出した殺風景な土の広場が、うっすらと緑色に変化していくのに違和感を覚えたのだ。
それはまるで自分がキャンパスに描いた絵を、誰かが上書きしているような感覚だったろう。
そして緑が濃くなってまた違和感があり、最後にうっすらと花が咲き出してようやくわかったのだ。
カイザのお父つぁんは、もう幾重にもいろんな色の花が咲き誇ってカラフルになってからようやく気がついたのだ。
子供達、特に女の子はお花畑には敏感だからね。
精霊のエレなんかは、お仲間が仕掛けていたのだから当初からわかっていたはずだ。
そして素敵なお花畑で午後のおやつを楽しんでから、俺達は少し幸福な気持ちで家へと帰っていったのだった。




