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1-43 ピクニックにて

「森ー、森ー、たったらんらん」


 一応、ベビーシッターのおじさんが手を繋いではいるのだが、今すぐ跳ね飛んでいきそうな勢いの四歳児。


 久しぶりの森アンドお父さんとお出かけという事で、何かダンシングなスイッチが入ってしまっているようだ。


 これは確実に、帰りはお父さんにおんぶコースだな。


「アリシャは森が大好きだねえ」


「うん、森は楽しいよ。

 あたしの大好きな別荘なの」


「そりゃあ豪勢だな」


 そうだよなあ、うちの近所にある結構大きな国立公園みたいな森林なんて、別荘の庭のようなもので、他に滅多に人はいないから子供なんて我が物顔なのだ。


 それはこの前のようにリスクが大きい事もたまにはあるのだろうが、一種の子供だけの秘密基地みたいな楽園だ。


「ちなみにこのマーシャさんも森は大好きなのですが、遊び方は四歳児よりもさらにグレードアップされているのです」


 何か少し大人びたような、いつもと違う感じの喋り方のマーシャ。

 一見すると、ちょっとお姉さんぶっている感じなのだが、あれは多分違う。


 久しぶりに森へ来たので、六歳児なりにハイになっているのだろう。

 何か鼻歌も出ちゃって、踊りながら歩いている感じだし。


 こっちもおんぶコースは免れまい。

 子供だけで行くのとはまた異なるハイテンションなのだから。


 アリシャも、その不思議な踊りに吸い込まれるように参加していった。

 踊りには特にスキル効果はないようだ。


 俺とした事が、幼女様がそういう電池切れに陥る可能性を忘却していたとは情けないな。

 今日はお父さんがいてくれて助かったぜ。


 こんな事は日本じゃ散々経験していただろうに、今日は思いっきり油断していたな。


 危険な魔物穴も粉砕し、街へ出かけてあれこれ物品や情報を手に入れて、ちょっとだけ気が緩んでいるようだ。


 日本でどこかに小さな子供と一緒に行く時は、おんぶなどが可能な大人も同数必ず揃え、おチビ様はいっそベビーカーを装備という手筈を整えていた。


 この姉妹は歳の割にしっかりしているし、異世界の子なので歩くのにも慣れているからと思っていたが、しょせんは一介の幼女様に過ぎないのだ。


 そして向かった先はなんと例の魔物穴広場であった。

 幼女様方は、そちらへとぐいぐいと行ってしまわれるので。


 俺はもう朝に行ってきたばかりなので特に行きたくはないのだが。


「魔物穴! 見たい~」


「あたしの森がどうなってしまったのか見ておく必要がありますね!」


 だとさ!


 マーシャ様はまるで、この森の不動産としての自分の権利が侵されたのではないかと言わんばかりに、チェックというか査定に燃えているようだ。

 まあいいんだけどね。


 そもそも、ここって正式には誰の領有になっているんだろうか。


 そういや、この地区の領主みたいな人っているのかな。

 どこかの大きな街の領主が統括しているのだろうか。


 それとも王家の管轄とかかもしれないな。

 あんな要監視区域があるくらいなのだから。


 国家の一大事にはこうやって勇者召喚をしたりしないといけない地域なのだし。


「エレ、魔物穴の具合はどうだい」


「んー、何も感じないねー。

 魔物穴は機能を停止しているというか完全に消滅しているし、魔物は一匹もいなそうだね。

 もう大丈夫なんじゃない?」


「だってさ、カイザ」


「いや、そう言われても俺には何も聞こえないのだが」


「大丈夫だよ、お父さん。

 魔物はいないってさ」


「羽虫の人、偉いのですー」


「あたしゃ、羽虫なんかじゃない。

 って四歳児に言ったってしょうがないわね。

 みんな、今から何して遊ぶー?」


 エレも諦めて今日は保母さんムードだな。

 後のお楽しみである御菓子を、子供達と一緒に心行くまで楽しむつもりなのだろう。


 俺はそれを眺めつつ、森の空気を吸いながら寝転がったら、カイザが何かを始めた。


 ハンマーで岩のような物を砕いているので、俺は近寄って声をかけた。

 まったく煩くて眠れやしないぜ。


「何やってんの。

 化石でも掘っているのか?」


 どっちかというと、それは息子と楽しむ御遊びなんだぜ、子煩悩な旦那。


「なんだ、その化石っていうものは。

 こいつは火打石にしようと思ってな。

 今使っている奴がどうにも具合が悪くてなあ。


 こいつは昔からずっと火打石として使われていたものなんだが、今はもっといい石もあるし、そいつを入手するまではこの代用品で我慢だ。


 この村で火打石は売っていないし、隣村でもなかなかいい物は売っていなくてな。

 お前が隣村に行った時に、女将さんから行商人に頼んでもらっておけばよかった。


 ちょうど今たまたま見つけたんだが、こいつはちょっと固い石なんで、切り出すのが非常に難儀なのさ」



「へー」


 俺ならマグネシウムを使ったファイヤースターターを使うんだけどな。

 よくキャンプで使って遊んだっけ。


 生憎と異世界には持ってきていないけど。

 あいつは安いのに面白いくらい簡単に火がつくから楽しいものなんだけど。

 どこかに転がっていないかねえ、マグネシウム。


 あれはけっこう高熱を出すしな。

 燃焼兵器の作成にもいいかもしれない。


 それよりも一円玉から作ったアルミ粉と酸化鉄でテルミット弾なんか作れるはずなんだが。

 またやっておくかな。


 しばらくはショウの奴も離れた場所にある街から帰ってこないだろうし。


「どれ、見せてもらおうじゃないか。

 異世界の火打石の性能とやらを」


 ふふっ、鑑定のスキルでね。

 素で石ころを見たって、俺に鉱物鑑定なんて出来るはずがねえ。

 それ!


『黄鉄鉱 硫黄分54% 鉄46%』


 ぶふうーっ。


 カ、カイザさん、あんた何をやっているのさ。

 そのような貴重品は、さっさと俺におよこしなさい!


 そりゃあ固いはずだわ。

 半分鉄なんだもんな、この鉱物は。

 故に、このパイライトと呼ばれる鉱物は、手で持つと塩分を含む汗で錆びる事もあるらしい。


 氷に閉ざされていた状態で発見された五千年前のミイラ『アイスマン』も、その所持品にパイライトの痕跡がある事から、そんな時代から火打石として使っていたのではないかと言われているくらい由緒正しき製品なんだぜ。


 灯台下暗しとはよく言ったもんだ!

 黒色火薬の最後の原料は、子供の遊び場(対魔物戦場跡)でゲットー!


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