表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/318

1-42 待ちに待った日

 翌日は大事な儀式があった。

 そう、待ちに待ったお菓子その他の万倍化だ。


 鞄ごと万倍化するため、かなりぶち広がる事が想定されているので、広い場所が欲しかったから森の中へ行ってきた。


 例の魔物穴跡の広場である。

 俺が準備を整えている間に、もう既にエレの奴が正座待機している。


 俺の頭の中からそのイメージを、今日の心境に合わせて持ってきたらしい。

 まあその気持ちもわからんでもないのだが。


 例のお菓子などがいっぱい入った鞄の中に、瓶に入った飴とロッシェ、それにポーション二種類とパン五種類、パテとカナッペを包んだ物を入れて、ついでにお金もいくらか隙間に詰めておいた。


 これで鞄ごと増やせるはずだ。


 おっと、この前拾った魔物の魔核も入れておくか。


 実験実験。


 もう鞄がかなりパンパンなので、お菓子や料理が潰れたりしないように少し詰め方に気をつかった。


 俺は元々、ぺたっとしたタイプの親父臭いビジネスバッグが嫌いで、大きめで肩掛けにもできるゆったりした、革製の割とお洒落系のバッグを使っていた。


 最近はサラリーマンでも、昔ほど作法というか流儀というかガチガチに拘っていないので、こういうスタイルも許される。


「スキル本日万倍日よ、この鞄を万倍化してくれ」


 そしてスキルで見事に万倍化され、予想通り大量に広がった鞄を全て目視収納で回収すると、あれこれと蓋を開けてみて確認してみたが、魔核も含めてすべて中身は見事に増えていた。


 このスキルって一体なんなんだろうなあ。

 こんな風に物体が増えてしまうという事に対して、非常に違和感を覚えてしまう。


 鞄が一面に並んでいるのを見ると実に壮観だ。


 デパートの鞄売り場に展示されているのを見たって、一軒でせいぜい百個くらいのものじゃないだろうか。

 鞄だけで一つのデパートの中に百軒も店はない。


 同じく物理的な効果も万倍化するのだ。

 爆発エネルギーが何故万倍化するのだろう。


 さっき収納の中での万倍化は試してみたが無理だった。

 これはもしかして収納の中にはない、この世界の中で物質やエネルギーへと変化する何かを対価にして増やしているのかもしれないな。


 まあその辺はあまり考えても仕方がないので、俺は朝食のためにカイザの家を目指した。

 もうこれはスキルだからとしか言いようがない。


 どこかに仕組み的なタネがありそうなものだが、俺にはよくわからないし、ここでは小難しく考えても仕方がない。


 最初の水が十分になければ、俺は困窮していたかもしれないし、スキルがなければ魔物達と戦っても勝てなかっただろう。

 そして、何一つ守る事もできなかったのだから。


「ねえ、何から食べようか。

 目移りするー」


 俺の記憶からお菓子の味をイメージしているらしく、エレの奴は半ば涎が垂れ加減だ。

 食卓として俺の肩は使用禁止だな。


「おやつの時間までに考えておけよ」


「あら、まだ待たせる気なのー」


「お前が食べているとアリシャ達も食べたがるからな。

 子供は朝御飯を食べる時間さ」


「そうか、じゃあ仕方がないわね」


 そして朝御飯に出てきたのは、例の御土産の女将さんのパンだった。


 うーん、朝っぱらから景気がいいねえ。

 いや何かがおかしいぞ。


 この世界でも、割と普通っぽいだろうはずのパンが食卓に並んでいるだけで、凄く贅沢な気がする。

 俺は女将さんの宿で贅沢に慣れてしまったのだろうか。


 いやいや、自分を見失うんじゃない。

 俺は元々飽食日本から来た贅沢人間なのだ。


 どうも、あの王様やカイザに洗脳されて、重度の粗食推進派に傾いていたようだ。


 成人病の予防にはいいのかもしれないが、ともすれば食事が貧しくなり加減のこの世界では、生きる意欲の減退に繋がってしまうわ。


 生きる事とは、まず食う事なり!


「なあ、カイザ。

 今日は子供達を森へ連れていっては駄目かな」


「うーむ、森の安全はもう確認できただろうか」


「もう大丈夫だと思うんだけどな。

 俺が一緒なんだし。


 もし魔物が出ても、あの穴から先に出ていたような奴なんで、そうたいした奴じゃないはずだ。

 いたら精霊のエレが見つけてくれるはずだし。


 エレの話では、魔物穴自体はもう機能しないらしいんだ。

 あれから特に魔物も見かけないしなあ。

 あんたや村の人間も魔物は見ていないんだろう?」


 エレがいてくれるのが、俺がこの話を切り出した一番の理由だ。

 精霊には魔物なんかがいるとわかるそうなのだ。


 俺のウイークポイントを上手くカバーしてくれる素敵な相棒なのだ。

 そして、エレといえばおやつ、おやつといえばピクニックだ。


 このアリシャ達はまだ小さい。

 あんな事はあった直後なのだが、本当は森へ行って遊びたいのだ。

 あそこくらいしか子供が行けるいい遊び場が近所にないしな。



「そうか、じゃあ今日は俺も一緒に行こう。

 どうせ森の見回りをしなければならん」


「わーい、お父さんと森だ」

「今日は薪拾いの仕事じゃないんだねー」


「「やったー!」」


 呆れた俺はジト目でカイザを見たが、奴は咳を連発していただけだった。


 生真面目に任務に邁進もいいけれど、母親がいないんだからさ、ちゃんと娘達は構ってやれよな。

 まだ子供が小さいんだし、たまには一緒にお出かけして遊ぼうぜ。


 本日は子供達が待ちに待った森の解禁日となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 鞄が可能なら次は水樽の水を抜いて、その中に色々詰めて万倍化ですね(*‘ω‘ *)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ