1-39 薬屋ショウ
その他に彼は薬をいくらか持っていたので、それらを金貨一枚分買わせてもらった。
まるで富山の薬売りだな。
背負子を背負った姿もなんとなく似ているぞ。
俺は自分で森の中で積んだ薬草そのまましか持っていないので実にありがたい。
その他に簡易なポーションなどというものも扱っていた。
それは非常に高価な物なのだが行商人なら必須のアイテムだそうで、自分が使う場合も考えて常時持っているとのことだ。
「これは一番簡易なヒールポーションというものです。
これでも銀貨五十枚になります。
すいません、高額商品であり手間賃がかかりますので、これはオマケできません。
あと他に毒消しのポーションがあります。
これも最低ランクですが、こちらも銀貨五十枚になります」
「ああ、いいよ。
両方とも欲しいな。
何本ある?」
「すいません、自分の緊急用も兼ねていまして一本ずつしかお売りできません」
「それで構わないよ」
受け取ったものは、掌に握ったら軽く収まるくらいの小さなガラス瓶に入った色付きの液体だった。
薄黄色の方がヒールポーション、薄緑色の方がポイズンポーションだ。
これもあっていいものだ。
いざとなれば、これの効果も俺のスキルで万倍にできるかもしれない。
さっき、なんだか物騒な話を聞かされたから、備えるだけは備えておこう。
「もし前金をいただけるのであれば、もっと上のランクのポーションも街にはありますので仕入れてこれますが」
「そうだな。
いくらいる?」
「これよりも一つ上のポーションなら手に入ります。
それぞれ売値で金貨五枚となりますが、いかがでしょう。
さっきの初級のポーションですと、ヒールポーションなら少々切ったような簡単な傷が塞がって数分で皮膚が再生するレベルですが、ランクが高い物だと、かなり深く切ってしまった重症の場合でも塞がるそうです。
それだと普通なら出血死してしまうほど酷い負傷をした場合でも、すぐに綺麗に治って助かります。
少々時間はかかりますが骨折さえ治してくれますし。
ポイズンポーションの場合、さっきの初級ポーションですと毒虫レベルの解毒効果です。
この世界には、たとえ蜂でも刺されるとすぐ解毒しないと死んでしまうようなマズイ奴がいますよ。
この最低ランクのポーションでも持っていれば、それだけで安心なのです。
ランクが高い物だと、強烈な毒蛇などの毒も解毒してくれます。
これも酷い奴は一分以内に毒消しを飲まないと死んでしまいますので、旅をするのならこのクラスの毒消しを持つのは当然です。
更にもっと値段が高いポーションだと千切れた四肢をくっつけたり、強烈な魔物の毒も解毒できたりするそうですが、残念ながら僕の守備範囲では入手不可能です。
そして、お値段も一桁違うそうです」
なかなか恐ろしい話を聞いてしまったな。
それらの高級なポーションは使い捨ての消耗品としては、べらぼうに法外な値段なのだが、今の俺にとっては是非とも欲しい品だ。
「じゃあ、もう一つ上のポーション二種類を一つずつ仕入れてきてくれ。
今度はいつ来れる?
あと絵本を仕入れてきてくれていたな。
金貨を十五枚渡すから、残りの三枚でまた絵本と何か新しいお菓子を仕入れてきてくれ。
あとはさっき言った、もっと上のランクのポーションが手に入らないか探してみてくれ。
高価なんだから、まだ仕入れなくていい。
あと金貨の上の大金貨のような貨幣は存在するかい?」
「ええ、大金貨がありますよ。
それは金貨十枚に相当いたします。
そうですね、今度ここへ来られるのはちょうど二週間後になります。
ご要望の品は探してみますが、手に入るとは確約できませんけどそれでもよろしいですか」
「それでいいよ。
じゃあ、それとこの金貨十枚を大金貨に代えてきてくれないか?」
「はあ、別に構いませんが」
彼は少し不思議そうにしていたが、なんとか引き受けてくれた。
ま、普通だったらお互いにリスクが高いだけで何の意味もないような取引だよな。
そして俺は彼の仕事ぶりを大いに労って別れ、御土産をたくさん持ってアルフ村へ向かったのであった。
「もう、あの行商人の小僧ったらやるじゃないの~」
村への帰り道、エレはまた美味そうなお菓子が入手できたようなので大層御機嫌だ。
しかも、その他にも例の飴が瓶に丸々一つ分手に入ったため、さっそく一ついただいている最中なのだ。
「俺の服に溶けた飴を落とさないでくれよ」
一応は自分の服も買い込んでは来たのだが、せっかく仕入れた新品の服が飴でべたべたにされるのは嬉しくない。
「あ、ごめん。
今ちょっと落とした」
「お前ね、別にわざわざ俺の肩の上で飴を食わなくてもいいよな?」
「いや、なんとなくここが落ち着いて。
それとも頭の上の方がよかったかな?」
「お客さあん、ハズレ勇者に御乗車中の飲食は御遠慮していただきたく思うのですが」
「まあまあ、そう言わんと。
だってこの飴美味しいよ」
「やれやれ」
そんなこんなで、俺はまたしても半日歩きに歩いてアルフ村へと帰りついたのであった。




