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1-37 聞きたくなかった大変に有意義なお話

「そうか。

 俺は出歩くだけで、異世界の勇者関係の人間だとバレちまうんだなあ。

 まあそいつは仕方がないが、君は何故精霊が視えるのだい」


 すると彼は素晴らしい笑顔を顔に張り付けて、少し誇らしげに教えてくれた。


「僕は子供の頃、精霊と友達だったんです。

 孤児院で育ったんですけど、そこの院長先生が凄く優しい方で、精霊達にもお菓子を振る舞ってくれて。


 だから彼女も視える方だったのです。

 それで僕にとって精霊達は幼馴染でした。

 彼らが気に入った子には見えるようにしてくれたんでしょうね。

 他にも視える子がたくさんいました」


「へえ」


 するとお腹いっぱいになって足を投げ出して座っていたエレが解説してくれた。


「ああ、精霊というのは皆そういう感じだからね。

 人間の子供と仲良くなる事は多いよ。

 私もそうだったから」


「ああ、ショウ。

 ちなみに俺は勇者様じゃあないぞ」


「ええっ、違うのですか?」


「ああ、勇者と一緒に勇者の国から来たんだけど、本物の勇者は一人だけで後はみんなただ巻き込まれてやってきただけなんだ。


 全員、おかしなスキルは持っているけどな。

 しかも俺なんか一人だけ戦力外通告されて、そこの廃城に置いてきぼりだったんだぜ。

 だから、ここにいるんだ。

 まあ好きでこの世界へ来たわけじゃないし、せいせいしたがな」


 だが彼は首を捻り、俺を疑惑の目で見ていた。


「でも、あなたも勇者の仲間みたいなものでしょう?

 このままじゃ済まないと思いますよ。

 多分必ず何かの事件や騒動に巻き込まれると思います」


「それはどういう根拠がある話なんだい」


 是非とも聞いておきたいね。

 行商人というのは情報通なんだろうから、俺も何か気をつけないといけないような話なのかもしれないし。


「かつて勇者あるいは勇者の仲間の中には、あなたのように特に勇者として振る舞わなかったような人もいました。


 でも結局はその力が元で、また勇者の力を恐れる魔王なんかに狙われたりして、必ずといっていいくらい騒ぎに巻き込まれたのですよ。


 大体、魔王相手に呼ばれた勇者の場合は、それも十中八九魔王絡みですねー。

 今まで魔王の手先と対峙する羽目になった事はありませんでしたか?」



 エレは少し吹き出しそうな顔で俺を見上げていたし、俺も少し渋い顔になってしまった。


 カイザはあの魔物穴から湧いた魔物を『魔王軍』の一員であると見做していた。

 いずれ魔王軍に合流するはずの魔物なのだと。


 勇者召喚の力の影響が尽きるまで、延々と魔王軍用の魔物を生み出してくれる予定だったと思われるそれを、仕方がなかったとはいえこのハズレ勇者の俺が木っ端微塵にしてやったからなあ。


 もし、それを見ていて魔王に報告した奴がいたなんていったら最悪だ。

 俺ってば魔王軍からウォンテッドな賞金首になっていたりして。


 俺はちょっと不安になった。

 あのような魔物穴なんてイレギュラーな代物なのだ。

 はたして魔王が放っておくものだろうか。


 あの召喚のエネルギーは魔王軍もキャッチしていただろうし、それから魔王軍にとり有用な魔物穴の出現を予期して、ずっとあのあたりを監視していたような魔王の手先の魔物がいなかったとは限らない。


 今までにも他に魔物穴のような物はあっただろうし、もしそういう監視していた奴がいて、あのような超爆裂したカタストロフィーを見ていたとしたら魔王に報告しただろう。


 その場合は、俺の顔や名前なんかも魔王軍にモロバレなのだが。

 へたをすると、本物の勇者よりも危険な人物であると見做されないとも限らないのだ。


 まあその時はその時の事だろう。

 だって、あの時はああするしかなかったのだから。



「その顔から察するに、すでにあったんですねえ」


「うーんそうだなあ。

 魔王軍というか、これから魔王軍に合流しそうな大量の魔王軍予備軍をちょっと粉々にしてやっただけだよ。

 いわゆる魔物穴、ネストって言う奴?

 あれの歴史的に大きいらしい巨大な物をな。


 なんというか、魔王軍幹部クラスや超ド級のモンスターに、魔物の大軍勢が湧きかねないような凄い代物らしい。

 あれを見て、カイザが絶望していたよ。

 村人全員を連れて逃げようとしていたくらいだからな。

 

 だってしょうがないだろう?

 誰だって家の近所に魔物が湧いていたら巣の始末にいくだろうに。

 もしあのままだったら俺達がいるこの宿さえも、今頃はとっくにただの廃墟になっていただろうよ」



 それを聞いて彼も天を仰いだ。

 そして溜め息を吐いて、忠告するようにこう語ってくれた。


「いいですか、よく聞いておいてくださいね。

 まったく、さすがは勇者として召喚されてきた人だけあるな。

 なんて無茶な事を。

 それじゃ魔王に正面切って喧嘩を売っているのとそう変わりませんよ。


 いやあ、勇者というものは勇者の国では勇気ある者と書いて勇者と読むそうですが、目の前で御本人様から直接お話を伺うと、まさしく納得の事実ですねー。


 まあ勇者召喚というのは神託により選ばれて、それに基づいて召喚されるものなのです。

 従って、召喚されてこちらの世界に来たという事は、一見関係がないような方が一緒におられてしまったとしても、そういう方って実は神意に基づき必要だから招かれたというケースが多いようです。


 だから、あなたも魔王軍から見たら、ほぼ確実に『無罪』じゃ済まないのではないでしょうか。

 無罪どころか、人間である僕の眼から見ても完璧に有罪です。

 どうかお気をつけください」


「ぶはっ」


 うわあ、こいつめ。

 なんてとんでもない事を、涼しい顔して御茶なんか飲みながらサラリっと言いやがるのか。


 くそう、じゃあ俺の欲しい物をさっさと寄越しやがれ、この物知り行商人めー。


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