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4 たった二人の大脱出劇

 他にもまだ城に残っていた兵が通路に面した扉から飛び出してきたのを、前を行く信長がそれはもう楽し気に斬り捨てていった。


 その中には金属の防具を付けていた者もいたのだが、ものともせず見事に真っ二つにされていた。


「なんという切れ味!

 しかし殿、いくらなんでも刀を乱暴に扱い過ぎではございませぬか⁉

 替えの刀など、ここでは手に入らないのではありませぬか?」


 何しろ信長の刀ときたら我儘三昧で強引に手に入れた物が多いので、鈍らなんぞでは我慢してくれそうもない。

 そのような物を無理に渡されようものならば、癇癪を起こしてぶち切れるであろう。


 もちろん、それらを手に入れてくるのは当然森蘭丸の役目であった。


「何を言う。

 さすがに敵の兵相手に素手で切り抜けるのは難しかろう。

 王を討ち取られて、向こうも必死であろうよ。

 だが不思議な事に、いくら金気を切ろうが切れ味が落ちるどころか刃毀れ一つなく、何かこう斬れば斬るほどに、ますます切れ味が上がっていく気がするのう。

 不思議な事もあるものじゃ」


 それは傍から見ていてもわかるほどの、まるで鬼神のような斬りっぷりというか切れ味なのであった。

 また、確かに主の言うようにますます輝きを増してきている。


 それは常に、帯刀する刀も含めて主の世話をしている小姓だからこそわかる。

「そんな馬鹿な」と首を捻るばかりの蘭丸。


 まるで妖刀のようだと、胡乱にそれを眺めていた森蘭丸ではあったのだが、それもここでは好都合な出来事ではあったし、そのせいで御機嫌な信長の機嫌を迂闊に損ねる必要など、どこにもない。

 そもそも今はそれどころではないのだから。


 信長走る。

 そして蘭丸も。

 もっとも、小姓の蘭丸なんかは後をついていくだけで精一杯であった。


 凄まじ過ぎる性能の刀、異様なまでの体力の発露、そして尋常ではない戦闘力を発揮している主を見ながらも蘭丸は思ったものだ。


『まあ、うちの殿のやる事なのだから、こんなものか?』


 考えるだけ無駄であった。

 何しろ彼の主と来たら、天下の織田信長なのであるから。


 そうこうするうちに、まもなく出口へと至った。

 所詮は平屋の神殿、いくつかの広い部屋を繋ぐ通路を抜けさえすれば外へと通じていた。


 そして外に出た彼らが見たものは。


 暮れなずむ山頂から見上げる双月の睥睨であった。

 片や三日月、片や半月の、山吹と桃色に輝くオッドアイ。


「ほお、これはまた風流よのう」


「お館様、そのような戯言を言っておられる場合ですか。

 こ、これはまた面妖な。

 さては、さっきの南蛮人どもの妖術か!」


「ふ、バテレンの国では、あの月も銀星の仲間と言うそうだぞ。

 望遠鏡は実に面白い」


「いやいや、仮にそうだとして、なんでそれが二つもあるんですか~。

 いくらなんでもおかしいじゃないですか」


「よいではないか。

 一つ不満があるとすれば、この風流な()を前に酒が切れたという事かのう」


(ああ、まずい。最初の話題に戻った!)


 だが森蘭丸にとって非常に幸いな事に、酒が切れていても今の信長は上機嫌であった。


『日の元の国の、その先に在る有り得ない世界』


 信長がずっと夢見ていた外国よりさえも、さらに彼の心をかきたてるような、そのような世界へ来たのかもしれぬ。


 その(ことわり)さえも越えた不可思議極まる現実は信長の心を高揚させ、そしてスキルをさえも掻き立てた。


『はずれスキル第六天魔王』を。


 上昇し、進化し、広がったスキルの世界。

 其は、この世界における新たな魔王の誕生を意味していた。


 そして背後の騒がしき気配を感じとる森蘭丸。


「殿、ここはひとまず脱出を。

 敵将の首は討った事ですし」


「ん? おお、そういえば王を斬ったのであったな。

 歯応えのない奴ばらであった」


 もう、その事さえも半ば忘れていたほど敵の首魁を斬った事に無関心な第六天魔王閣下。

 溜息を置き土産にして、主と共に闇の眷属の縄張りへと身を躍らせる森蘭丸。


 まるで日の当たる世界を行くが如くに早足で山道を下る主の後を見失わぬように、慌て気味に追いながらも蘭丸は後方へと聞き耳を立てていたが、ふいに語気を強めて主に声をかけた。


「お館様。追手でございます。

 馬と車輪の音が複数。

 どこかへお隠れにならないと」


「ふ、この信長に逃げ隠れせよというか」

「ああ、いや。その」


「案ずるな、蘭丸よ。

 この下る山道で馬引きの車が急ごうものなら」


 その信長の言葉を肯定するかのように、何かが道を外れて転がっていく激しい大音響が夜の静寂を食い破った。


「ほれ」

「ああ、我々も気を付けねばなりませんなあ」


「案ずるな、蘭丸。

 闇など恐れるに足らぬ。

 むしろ味方になろうぞ」


「まあ、そうなのかもしれませんがねえ」


 確かに逃亡者にとっては、往々にして闇は味方してくれないとも限らない訳なのだが。


 そして、その蘭丸の危惧通りに追っ手は追いついてきていた。

 もはや馬の鼻息と蹄が地を蹴る地響きすらすぐ背後に聞こえるかのようであった。


 この一本道ではさほど隠れる場所はない。


「どういたしましょう」などとは聞くも愚問。

 少し直線になった狭き道にて信長は足を止めた。

 蘭丸は阿吽の呼吸で道を開け、信長よりも道の前方に位置した。


 敵が止まり、大勢が降り立ったタイミングで放った一閃は比較的大型の馬車三台分の人馬を鬼籍に送り、馬車を残骸と化して山道に瓦礫のバリケードを築いた。


 そして一言もなく信長は体を翻し、蘭丸も無言で後に続く。

 信長の口の端にはどうにも止められぬ笑みが象られていた。


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