4-79 その石言葉は
フォミオも今日は正装をしてカイザ達と夕食を共にする。
料理は主にフォミオ謹製なのだが、簡単な料理などはルーテシアが担当している。
お母さんの御馳走で初めてのイベントを迎える晩御飯。
二人の幼女様は、お母さんの存在を実感して小躍りして大層喜んでいて、お手伝いというか半分お邪魔をしていたが、フォミオもルーテシアもその暖かな手で子供達の頭を撫で回している。
フォミオには、後で夜中にサンタさんをやってくれるように言ってある。
奴の特技である隠密スキルは本物のサンタ並みだしなあ。
お父さんはプレゼントをちゃんと手渡しにする模様だ。
俺はその、この家では何年ぶりかになるだろう賑やかな家族の肖像を見届けると、夕方には王都へと向かった。
俺も、将来はきっと家族になってくれるだろう女の子と、初めてのクリスマスを迎える夜なのだから。
彼女の部屋へ直接に飛空したら、ミニスカサンタ姿の泉が待ってくれていた。
「ヤッホー」
「よ、メリークリスマス。
これプレゼント」
「あら、何かしら。
えへへ、さっそく開けちゃおうっと」
泉が、がさがさと遠慮なくその場で包装を解体して出てきたものは。
「何これ、凄く綺麗」
泉が目を丸くするのも無理はない。
それは不思議な、きらきらと輝く結晶状の鉱物だった。
水晶のようでもなく、また金属質でもガラス質でもない。
そして収納を使って素材分解すると、何故か証拠隠滅するかのように痕跡をなくして、収納の中に取り込んだ物質も、外に取り残された物質も共に消滅してしまうという不思議な物質なのだ。
はたして自然に地質的な条件で出来たものであるものか、魔素などが作用して出来たものなのか、どこかの魔道士か錬金術師か何かが作った物が地中に埋もれていたものなのか。
訳がわからないし、鉱物として何の効用があるのかもよくわからないが、とにかく綺麗なのだ。
虹色というか、紫を基調にしたかのように見える時もあれば、それが薄い紫よりのピンクに変わる事もある。
突然真っ白に光り、命の脈動に息づき、まるで何かの生き物であるかのようにさえ見えるが、その実はただの鉱物なのらしい。
大魔獣の魔核でさえ、このような不思議な現象は見せないのだが。
とりあえず、美しい結晶鉱物であるというだけで、俺の彼女にプレゼントするには相応しいのだ。
デザインは泉の好きな可愛い猫が、地面に這うような格好で前足を出してじゃれているポーズにしてみた。我ながらなかなかの力作なのだ。
この鉱物は硬くて加工が難しいので、収納で少しずつ削っていったものだ。
そして、目には大きめのダイヤモンドをはめ込んである。
溶岩魔人マーグに頼んでダイヤモンド原石を生成してもらったのだ。
あいつこそは、まさに作成に熱と圧力が必要なダイヤモンドを作るために生まれたような大魔神なのだ。
ダイヤモンドはこの世界では見かけないので、加工技術がないのか発見されていないものか。
そのうち、売り出したら人気になるかもしれない。
この世界には物凄い魔法金属があるので、ダイヤとて地球のように工具としての需要は微妙なのだが、まあその美しさだけで十分に宝飾品としても重宝されるだろう。
あの耀きはダイヤモンド特有のもので、カット技術によってもたらされているので、知識のない人間にはその美しさの理屈がよくわからないだろう。
俺も加工するのに凄く苦労したのだ。
自分の収納で加工したり、ザムザやゲンダスのスキルで削ったり、フォミオに魔法金属の刃物や魔法金属を使ったヤスリで削ってもらったりなどで苦心惨憺して作った苦労の結晶なのだから。
「あは、こいつは以前にどこかで収納を使って穴を掘って資源探査していた時、岩石の中から出てきたものさ。
どういう過程で出来たものなのかよくわからないのだが、その鉱石を万倍化して形を加工してみたんだ」
そして、それとは別で『指輪』を贈った。
俺とお揃いの左手の薬指に嵌めるものだった。
泉の指のサイズはしっかりと事前に計ってある。
何度も数えきれないほど握った指なのだ。
「うわあ、これって」
「ああ。
一応、お揃いにしたんだぜー」
「ああ、うん。
ありがとう、凄く嬉しい」
「泉、愛している。上手く
俺と結婚してくれ。
こんな異世界だけど、俺達ならきっと上手くやっていけるさ」
「うん、あたしもそう思う。
愛しているわ、一穂」
ダイヤモンドの石言葉は、純潔・清浄無垢・純愛・永遠の絆などの意味があるという。
また金剛石とも呼ばれるように大変に硬い石なので、固い絆を結ぶという縁起的な意味合いもあるようだ。
無色透明さからの純粋無垢という意味合いもあるのではないだろうか。
台座はプラチナ製で、そのアクセサリーを持っている奴から借りて素材を作っておいた。
そこに副石として藍玉とも呼ばれるアクアマリンを添えてある。
幸せな結婚・夫婦和合の石言葉を持つ石だ。
何故、この薄水色の石を藍玉などと呼ぶのか知らないが、色合いもそう悪いものではない。
こうして俺達は、苦労しながらもこの異世界でなんとかやっていけそうな目途を立て、聖夜のイブに新しく家族になる約束をしたのだった。




