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4-73 激闘山葵狩り

「うむ、では出発だな」

「ええ!」


 あの独特の鍔のついた探検帽に、象牙色でポケットのたくさんついた探検服に茶色の頑丈なベルト、そして足回りはブーツ。


 まるで昔ながらの探検隊のような格好をした師匠と姐御がいた。

 張り切ってやがるなあ。


 もう五十路近い鉄人ヘラクレスの戦士と、徐々に三十路の足音が聞こえてきているお姉さんを連れての、大山奥の探索か。


 まあ、体力的な事をいえば俺も人の事をいえないというか、あの師匠はもとよりバイタリティ溢れる姐御にだって敵わないので、油断するとこの探検隊で俺が一番見劣りしかねない。


「あのう……」


「どうした、一穂。

 さあ、早く行くぞ」


「そうですよ。

 何をグズグズしているの、可愛い山葵ちゃんが待ってくれているのよ。

 若いくせにだらしのない、はよ歩け!」


「へえへえ」


 若いってあんた。

 俺は姐御と一つくらいしか違わないのですよ?


 そこは凄まじいまでの山奥というか渓谷というか、まあそういう場所なのである。


 まあ、山葵っていうのは山奥にて流れる清流のような場所に生えており、かなりの奥地にあると相場は決まっているのだが、なにせこの世界の事であるからして、そこは当然の如くに未開の地なのである。


「じゃあ、行きましょうか」


 そう言って微笑ましそうに彼らを眺めると、先頭を歩きだすのは、もちろん案内人のショウだ。


 お伴はあの弟子の子達である。

 あの子達も歩くのが仕事で基本である行商人の卵なのだ。

 しかも普通の子達じゃないしな。


 一番普通の人間なのだが、こういった事に関しては一番精通していて、おそらくはメンバー中でこれまでの人生で一番距離を歩いているだろうショウと比べても、やはり俺が一番見劣りする。


 何しろ俺ときたら、あの焼き締めパン村から一~二回出ただけで歩いて移動するのを諦めていたくらいの軟弱者なのだ。


 少なくとも、どれだけ研鑽を積んだとて、あのパウルやフランコのようにはなれそうにない。

 文字通り生きる世界というか、生まれた世界も環境も違うのだ。

 あいつらだって選ばれしSランク冒険者なんだしな。


「明日はクリスマスイブなんだけどなあ。

 俺ってなんでこんなところを歩いているんだろうか。

 久しぶりに彼女と一緒に迎えるクリスマスだというのに」


「まあまあ、泉ちゃんも楽しみにしていますよ」


「ああ、うん。まあね」


 その泉は一緒に来てくれていなかった。


「山葵、うーん山葵探しかあ。

 それ絶対に山奥よね。

 頑張って。

 御土産の山葵、待っているから。


 クリスマスイブの飾りつけは任せてちょうだい。

 勇者のパーティ用に王城の大広間を貸し切りにしてあるから。

 もちろん、あたしのお部屋もバッチリと飾るわよ。

 イブの夕方までには帰ってねえ」


 そう言って見送ってくれた泉。


 ちっくしょう、うまく逃げやがったなあ。

 相変わらず要領のいい奴だ。


 まあいいか。


 しかし、明日のお昼には村の子達を領主館に集めてクリスマス会をやる予定なので、本当は俺も出かけたくなかったのだ。


 まあフォミオとニールもいるから、そっちの催しの方は新御領主様にお任せかな。

 奥様の方も、子供達と楽しくやるのを楽しみにしていたし。

 あの人も子供達からとても好かれているようで何よりだ。


 ああ、俺だけがすべての催しから仲間外れだー。

 しかも、その翌日の昼からはビトーのギルドでクリスマス飲み会の予定なのだしなあ。


 最初はクリスマスってなんだと聞かれたのだが。


「何、年末だから飲んで騒ぐイベントなんだと?

 勇者の国もなかなかナイスじゃないか」


「何、そんな忘年会みたいなイベントじゃないのだと。

 忘年会ってなんだ」


 そして説明してやると、次期ギルマス候補であられるパウル様がおっしゃったものだ。


「ようし、ギルマス。

 今年は大幅黒字だったし、年末は慰労会としてギルドが費用持ちで大忘年会といこうじゃないか」


 もちろん、彼も賛成してくれたので実施される事になったのだ。

 当然、勇者式のメニュー大炸裂で。


「あー、せっかく楽しいイベントが目白押しだというのに、俺だけ発走除外じゃないか。

 ああ、なんてついてないんだ」


「じゃあ、さっさと見つけなさい。

 何かとっておきの考えはないの?」


「うーん、無い事もないんだけどな」


「そう、じゃあ頑張るのよ」


 まあ頑張るけど、山葵は子供達への土産にはならないだろうなあ。

 まだまだサビ抜き寿司でないと駄目な歳だろうし。


 チラシ寿司は前から作っていて、もう子供達の大好物で、クリスマス会にも欠かせないメニューになっているし、フォミオが握った寿司もペロリっと美味しそうに平らげていた。


 カイザの奴はおっかなびっくりだったけど。


 魚は俺が収納を通しているので寄生虫対策は完璧なのだが、日本食に慣れないと外人さんなんて、あんなものだな。


「そういや、川の魚も欲しいと思っていたんで、ここいらで獲れませんかねえ」


 俺は渓流の岩場を通りながら、師匠に訊いてみた。


「ああ、イワナとかヤマメとかいそうな場所だな。

 魚海さんも仕事明けに近場でやっていたらしいが。


 一つ毛バリでも作ってみるか。

 日本にいた頃は、自作の毛バリを大量に作っていたもんだ。

 竿も開発するか。

 またフォミオを貸してくれ」


「わかりました。

 異世界でも渓流釣りとか流行るかもしれないですね。

 海の方は魔物が出るから堤防釣りしかできないだろうし」


「まあ、地球だって釣りといえば陸釣りが普通だがな。

 海釣り用の本式の竿も作ってみるか。

 網で獲ると魚が傷む」


 相変わらず師匠も小器用で凝り性だな。

 どれもこれも年相応に渋い趣味ばっかりだし。


 なんでこんな人がラノベなんか読んでいたのか理解に苦しむね。

 まあいろいろな事が異世界にも広まってくれれば俺達も便利でいいのだが。


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