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4-70 新魚市場にて

「さて、二人とも。

 無事に通行許可証は貰った事だし、身分証も取り返したのだから、もうこの国に好きなだけ滞在できる。

 国境にはいい宿もあるし、この国なら王国連合から追われる事もない。


 何かあったら、あいつの主である俺に言ってくれよ。

 まあ眷属化した者は主に絶対服従なのだから、その心配はないと思うのだがね。


 ところで港まで軽く御土産漁りに行こうぜ。

 今日は俺が視察しておいて、次回は水産のプロを連れてくるんだ。

 この国はもう、半分くらいは俺の物のようなもんなんだからな」


 この市場巡りに行きたいのも問題を先送りにした理由の一つなのだった。


 余計な騒ぎなど要らないのだ。

 今俺に必要なのは、新たな海の幸だけなのだから。

 なんとか新しい魚を買って帰らないとな。


「もう、麦野さんったら本当に。

 でも海産物かあ、えへへ」


「うえへへへ、これで王都に帰れば、年末年始シーズン用に集めた御馳走三昧なんだからな。

 まずはチキンレッグに、ホイップクリームで飾られたクリスマスケーキに各種の御馳走だあ」


「えへっ、それはちょっと嬉しいですね」


 日本にいれば、この佳人ちゃんも同級生や家族と一緒に、あるいはボーイフレンドなんかと人並にクリスマスを楽しめたのだろうに。


 でもこの子達だってビトーやアルフ村で楽しめない事もないのさ。


 世界の、あるいは異世界のどこかにいたって、なんとか日々笑っていられれば、もうそれでいいと思うのだ。

 俺は自分がハズレ勇者だったからこそ、今そういう風に思えるのだと感じていた。



 そして元侯爵家の御令嬢のお姉さんの方は、なんと彼女に危害を加えようとしていた総帥様に自らついていく事になったようだ。


「いや、でもいいのかい。

 まあ今更そいつが君に危害を加えるのは無理そうなのだけれど」


「この男に好き勝手させておくと、またこの国が大変ですから!

 私が一緒に行って、この男のやる事は一挙一動をきっちりと見張っておきます」


「わかったよ、何かあったらそいつの兄貴分兼主になった俺に言ってくれ。

 そのために連絡用の宝珠を持たせてあるのだから」


 だから総帥の野郎は渋い顔をしているのだ。

 自分が本来考えていた阿漕な計画と、まったく立場が逆になってしまったからなあ。


 どうやら彼女は本格的に三蔵法師として就任するつもりらしい。

 まあ勇者三人はあれこれと忙しいので、ここは元からのハイドラの加護持ちという事で彼女に一任しよう。


 案外と、この二人がくっついたりして。

 世の中って、そういう事が結構あるからなあ。

 特にこのお姉さんは、そういうタイプにみえる。


 そして目出度く俺の舎弟及び、人の身でありながら勇者の眷属になってしまった有り得ないような大馬鹿者は、ブツブツ言いながらも首都に帰っていった。


 実を言うと、まだやらせたい事はあったのだが、お互いに忙しいのでまた今度かな。


 そして、俺達は総帥様から『喜びを持って』御許可をいただいたので、堂々と魚市場へとマルータ号へと乗り付けた。


 ほお、港は軍人がたくさん見張っているな。


 この国が王国連合の中で、優位に立てるような地理的な要因や貢献度をもたらしてくれる貴重な施設でもあるし、また一般国民には簡単に多量の食料を渡さないようになどの理由かね。


 そういう国は長く持たないぜ。

 国民を食わせるのが、どこの国でも政府というものの役割りなのだから。


 こういう真似をやっていると、後で国を発展させようと思って止むを得ずに経済解放政策を打ち出しても、それが足枷となって半端な規模の独裁政権は必ず滅びるのが必定の定石なのだ。


「いい海産物があるといいなあ。

 まあ今日は様子見なのさ。

 次回にプロの目利きを呼んでくるに値する市場なのかどうかを、しっかりとこの目で見極めないとな」


「でもここはかなり大きな市場じゃないですか。

 うちの街の魚卸市場へ社会見学に行った事がありますが、あれとそう変わらない規模ですよ。

 異世界にもこんな場所があるんですねー」


「うわあ、魚の匂いでいっぱいだ~」


 俺達は、そのやはり煤けたような感じの木造の平屋の建物へと入っていった。

 そして、いきなりお宝に出会ったのだ。


「うお、干物類がこんなにある~。

 そうか、軍用の需要があるので日持ちするような加工がなされているわけか。

 ここへは収納を持った金持ち商人もそうやってこないだろうからな」


「貝もたくさん干した奴があるよ。

 いいスープができそう」


「ねえ、これ鮑の干した奴じゃないかな」


「まさしく!

 だが生の鮑も欲しいところなんだが、それもその辺にありそうだよな。

 刺身にしてもらうのも悪くないのだが、鳥羽名物の鮑のステーキにしても悪くないし。

 ああ、涎が止まらないよ」


 いきなりの大収穫であった。

 俺はもうザクザクと買い込んで、彼女達にも渡していった。


 それにしても、今彼女達は追われる身なので、ここの通行証が手に入ったのは凄い事だ。

 総帥並びに神相当の大精霊ともお近づきになったのだからな。


 まあ魔王が攻めてきても自力でも相当頑張れる人達だし、俺への連絡手段もあるのだ。


 ここは独裁国家だからヨーケイナ王国のようには快適じゃないが、そもそもあそこではこの二人も御尋ね者なのだしな。


 ビトーなんか、そんな事は特に気にしちゃいないわけなのだが。

 元々東方面なんてヨーケイナ王国の中では辺境なんだしな。


 そして俺達はぐれ勇者による我が物顔な海産物探索隊は、一つ新しい品を見つける度に歓声を上げて、おそらくはその半分ないしは殆どの物が地球では新種扱いになるだろう海の幸を見つけては、金に飽かせて買い漁って回る買い物ツアーがまだまだ続くのであった。


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