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4-69 新たな使命

「もう麦野さんったら、相変わらず無茶ばかりしますね~」


「そうですよ、もうヒヤヒヤしましたよ」


「だけど、これでそう波風を立てなくても済んだんじゃないのかい。

 もし大精霊ハイドラに捌きを任せていたら、後の事は考えない罰で奴を排除していたろうから大混乱になっていたぞ。

 とにかく、これでランカスターのお嬢様方もなんとか無事な訳だし、君達も晴れて自由の身さ」


 だが采女ちゃんは首を傾げた。


「ねえ、そういえば風の大精霊の居場所はわかったの」


「そうですよ。

 そのために湖にというか、この国へやってきたんですから」


「う、その話かあ」


 俺は鼻の頭をかきながらバツが悪そうにしていた。

 それを見た彼女達も嫌な予感がしたらしい。


「まさか」

「ふふ、まさか?」


「風の大精霊フウの手掛かりが切れたとか言うんじゃ」

「ピンポーン」


「ピンポーンじゃない!

 ねえ、この後一体どうするのよ~」


「そうですよー」


 だが俺は片手で掌を前に差し出して、両手を振り回し涙目で抗議する彼女達を制止した。


「慌てるなよ。

 その代わり、新たなる重大なヒントが見つかった」


「本当?」


「この世界では、大精霊が神の代わりにそれぞれの国で崇められているらしい」


「え、まさか」

「ピンポーン」


「だから、ピンポーンじゃあなくてえ」


 代わりに佳人ちゃんがおそるおそるといった感じに話を切り出した。


「あの、それはもしや、手掛かり、あるいは風の大精霊フウ本人が見つかるまで、私達姉妹が世界中を巡るという……」


「あったりい!」


「おーい、麦野さん。

 それどういう事か、わかっている~?」


「わかっているともさ。

 つまり世界中全部の国で今までのような探索をしないといけないっていう事なのさ。

 まあ大精霊の加護を集めるスタンプラリーみたいなものかな。


 それが君達姉妹の新たな使命なのだ。

 まだ日本に帰りたいと思っているのならな」



 さすがの宗篤姉妹もこれには物凄く嫌な顔をした。

 というか、もう半泣きだった。


「うわあああ、この過酷な旅がまだまだ続くのね~」


「か、佳人ちゃん、お願いだから泣かないで。

 もう麦野さんったら!」


「まあまあ、焦ったってしょうがないのだから、気を取り直してクリスマスと年末年始はゆっくり楽しもうぜ。

 せっかく、あちこちで御馳走も集めたんだしさ。


 さすがに王都はマズイだろうから、ビトーの冒険者ギルドへおいでよ。

 あと、この国の漁港にもいい物があるかも。

 ああ、そうだ」


 そして俺は、あの騒ぎの後にほったらかしにして待たせておいたせいか、少し不貞腐れたような顔をして突っ立っていた総帥の野郎に向かって言った。


「おい、春人。

 俺達がこの国の中を自由に回れるような通行手形というか、お前の名前で許可証を寄越せ。

 ちゃんと人数分な。


 ああ、それとプラスもう一枚だ。

 海産物のプロを呼ばないとな。

 この子達の身分証も返せよ。


 あと、こいつを貴様に授けようじゃないか。

 これは貴重な通信用の子機宝珠の最後の一個だから絶対に無くすなよ。

 そして呼ばれたらすぐに出ろよ。

 さもないと」


 あれから何かあった時のためにと、こちらへ向かう前に師匠から一旦回収しておいたのだ。

 またこれを一式揃えないといけなくなったなあ。

 やはり師匠には通信魔道具を持たせておきたいのだから。


「わかった、わかった。

 まったくもって、平和なこの独裁国家になんという災厄がやってきたものか。

 これだからハズレ勇者と言う奴らは。

 貴様はまるで魔王弐号のような男だな」


 ここでもハズレ勇者は評判が悪いようだった。

 俺が更にその評価を下げたような気もするが。


 えーと、平和な独裁国家とか言われてもなあ。

 それに普通は独裁者が自分で自国の事を独裁国家とか言わないものなのだが。

 なんかこの国って妙に調子が狂うな。


「あと、こういう通信の魔道具がどこかにないか?

 あったら寄越せ」


「宝物庫にはあるが」


「馬鹿野郎、さっさと持ってこいやー!」


 マルータ号で総帥を使いに出して、俺は念願の第二通信宝珠を手に入れた。

 

 そして管理で混乱しないように、さっき奴に渡した子機は師匠用に回収して、二個目の親機は俺が、そして新子機を野郎と三蔵法師のお嬢さん方にそれぞれ渡しておいた。


 これも子機は十個あった。

 きっと同じ勇者が作った物なのだろう。


 色が違うので間違えなくていい。

 前の物はやや青みがかったクリスタルっぽい感じだが、今度の物は深緑っぽい感じのガラス玉っぽい感じの色合いだ。


 こうして大精霊フウを求める捜索は一旦手掛かり失うも、また新たな、そして果てしないような局面を迎える事になってしまったのだった。


 世界中全部回ったって、あの気まぐれな風の大精霊の痕跡すらも見つかるとは限らないのだからな。

 行き違ったが最後、絶対本人とは会えないのだろうしなあ。


 多分、あいつ自身は神として崇められていまいよ。

 単なる根無し草なんだから。


 もう俺は一生あの焼き締めパン村で生きていく事にするわ。

 ちゃんと正式な領主様も誕生した事だしね。


 そういや、村に建てられる教会ではノームが崇められるのかあ。

 あれの残念な正体を知り尽くしている俺としては、ちょっと複雑で微妙な気持ちだ。


 同じ地を司る存在なら、うちのミール君の方がよっぽど真面目そうなのだがな。

 何せ、人に非ざる生真面目さと、退屈などには縁のない無敵のメンタルで頑張ってくれるのだから。


 やっぱりミール神社も本格的な奴を作るとしようか。

 そうだ、それと共に初詣で用に御神籤も作らなくては。


 まだ門松とかできていないのなら師匠に頼んでおかなくてはな。

 一緒にフォミオも貸し出すぜ。


 着物とかも姐御の方にフォミオを貸し出せば製作可能かもしれん。


 おチビコンビにも是非勇者式の晴れ着を着せてやりたいものだ。

 何しろ、日本人勇者を呼び出すアルフェイムの地を納める子爵家の御令嬢なんだからな。


 どうせなら凧揚げ用の凧に、羽根つき用の羽子板も作らなくっちゃなあ。

 村中の子供と、みんなで羽根つきをして遊ぶぜ。


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