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4-64 小さな鬨の声

 到着した俺達を、ハイドラは厳かな顔立ちで湖の畔にて待ってくれていた。

 例えるならば、俺がスキル行使の準備をしている待機状態のような感じだろうか。


 これが俺なんかだと、まるで舌なめずりでもしているかのような少し悪い表情なんだろうなあ。


 着陸してすぐに俺が命じたので、ザムザ達がマルータ号からその一抱えもあるサイズの壺を並べていった。


「おお、ご苦労。

 そやつらが我の新たな眷属であるか。


 お前達、よくぞ来てくれた。

 盟友ノームの眷属達、そして選ばれし者達よ。

 水の大精霊ハイドラの名において、そなたらにハイドラの加護を与える」


 そして壺達が輝いた。

 ついでに俺の体も。


 どうやら『そなたら』の中にこの俺も含まれていたようだった。

 水の大精霊ハイドラよ、感謝するぜ。


 透き通るような柔らかい、まるで水分子のクラスターが極端に小さい水で現れるかのように、優しくかつ力強く、すべての穢れを洗い流すが如くに加護の光が体中を駆け抜けた。


 大精霊の加護が二つも重なると、こんなにも凄いのか。


 なんと比喩したらいいのかよくわからないが、まるで感覚が今までは濁った水の中にいたようで不明瞭だったのが、数十メートルの水深でも非常に透明度の高い綺麗な湖の中にいるかのように澄み切って感じられる。


 今、この湖へやってきた小さな戦士のすべての種族もこのような感覚であるのであろう。


 同時にノームを通じて、あそこの留守番部隊の微生物達へもハイドラの加護が返礼として贈られたのを感じた。


 あの湖自体にも加護が与えられたようだ。

 もはやノームも湖のある景色は嫌だとは言うまいよ。

 これは俺の保養地が更にグレードアップした予感がする。


 地の大精霊が整えた聖域に出来上がった湖に、湖を聖域とする水の大精霊の加護が与えられたのだ。

 こいつは俺にとっては何よりの御褒美だなあ。


「じゃあ、同じ二つの大精霊の加護を持つ、俺の小さな兄弟達よ。

 さっそくだが頑張ってくれ。

 この俺も及ばずながら支援をするぞ。

 出でよ、ライデン1からライデン10」


 そして現れたライデンどもは、俺の思念指示により、みるみるうちに真っ黒に変異していき、敵の重要な援軍である陽の恵みをすべて覆い隠していった。


 そこは闇、星の瞬く銀河の緞帳ではなく、ただの真闇である。


 ライデンは戦闘を行うのでなく、ただ広がるだけでいいのならその気になれば相当の範囲に広がる事ができるため、気象庁のマップなんかで見たとしたならば、それを見た人が思わず驚くほどの広範囲で陽光を奴の力で見事に隠したので、遥か先に続く地平線までを見事なまでの闇の世界に閉じ込めた。


 ライデンは魔獣であり、単なる雲とは性質が異なるのだ。

 元は闇黒たる魔王の眷属なのだから。


 そして大精霊の魔力によって壺達は宙に浮き、次に傾けられて湖上を移動しながらばらまかれた。

 待機場の中から解放されたその小さき眷属達は巨大な湖中を縦横無人に駆け巡った。


 やがて加護の力や俺から与えられた魔力を糧に増殖を開始しながら、増えた仲間と共に藻を退治していった。


 そして、なんと驚くべき事に彼らは湖を侵食していた瘴気をも食らい始めたのだ。


「ひゅう。

 いやあやるねえ、あいつらも。

 さすがはこの最強ハズレ勇者カズホ様の、穴兄弟ならぬ加護兄弟だけの事はあるぜ」


 敵魔王軍の強化藻軍団は日の光を浴びる事ができず、栄養素や、何よりも奴らの活発で強大な活動の担保となっていたと思われる瘴気を奪われて、みるみるうちに弱体化していった。


 ハイドラの聖域の持っていた魔力から生み出していた瘴気を、強力な加護を与えられた微生物が食ってしまっているのだ。


 特殊な能力特化的な強化種である事が災いしたとみえて、奴らも衰弱が異様に激しい。


 まるで朝日の光に当たった吸血鬼か、大神官の浄化魔法(ゲームなんかの奴)を食らったゾンビやグールなんかの魔物であるかの如くに、その緑の版図を急速に失っていった。


 そして湖が霊光に輝くにつれ、それは更に勢いづき加速していく。


 二体の大精霊が与えた加護の力を受けた聖域は、その恩恵を如何なく発揮していき、五分も経たないうちに湖は完全に元の輝きを取り戻したようだ。


 ライデンが光の福音を遮る世界で、それは陽の光の下よりも、より輝いて見える気がする。


「カズホよ」


「あいよ。

 ライデンども、戻れ」


 そして、一瞬の後に世界は天空に輝く偉大な天然の核融合炉がもたらす恩恵、暖かく柔らかな光に再び満たされた。


 そしてこの聖域は再び、いや更に力を増しただろう霊気に満ち溢れていた。


 初めて来た場所なのだが俺にはわかる。

 俺は水の大精霊ハイドラの加護を持つ人間なのだからな。


「御苦労だった、勇者よ。

 いや、並みの勇者よりさえ力が強いというハズレ勇者よ」


「やっぱりそういう事はあるのかい?」


「そうであるようじゃの」


 つまり、あれか。


 ハズレ勇者こそが、ある意味で真の勇者としての力を発揮する場合があるとか、あるいは俺とは違い心までハズレたままだと魔王に堕ちる事もあるという事なのだろうか。


 光と闇の狭間に生きる者、それがハズレ勇者の宿命なのか。


 大精霊様のあまり妙な御神託は訊きたくなかったので、この件に関してはそれ以上の追及はやめにしておいた。


「それにしても皮肉な事だね。

 あいつらは魔王軍の軍勢であるにも関わらず、光を遮られた闇そのものに駆逐されてしまうなんて」


「ああ、本当にな。

 それにしてもあの藻が片付いてよかったなあ」


 これは日本でも一旦藻だらけになってしまうと、それはもう駆除が大変なんだからな。


 今回の藻などは、敵国の水源地にぶち込みまくったら、生物兵器として十分に機能しそうなほど恐ろしい連中だった。


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