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4-63 聖域の対決 魔物対微生物(大精霊の加護付き)

「藻ねえ。

 うろ覚えだが、確か掃除しても掃除しても、またあっという間に増えるらしいし、地下水の汚染が原因になる事もありと。


 水を綺麗にしても、周囲の土から栄養素が流れ込んでまた藻が増えるという。

 底にヘドロが溜まっていてもアウトだよな。

 こうしてみると、藻という物もなんて面倒な代物なんだろう」


「他に何か手はないのかのう」


「無い事もないんだがね。

 勇者の世界での藻の退治の仕方に二つほど心当たりがあるのだが、はたして魔物の藻に通じるものなのかね」


「うむ、それか」


 俺の心を読んだハイドラがまた渋い顔をする。


「そうさ」


「光を遮ってしまうのじゃな。

 わしの術でやれない事もないのじゃが、湖にも被害は及ぶのお。

 この聖域から生き物がいなくなってしまいそうだわい。

 そいつもキツイのじゃが、それにそれだけではちと弱いしのう」


 となると、もう一つの方法なのだが、専門家でないと難しそうだし。

 それに本来なら状況に合わせて量や種類を調整する必要があるのだ。


 それに、この湖はかなりの大きさを誇っているのだ。

 さすがは水の精霊のテリトリーだけの事はある。


 ノームの湖も結構大きかったのだが、こいつの方が更に輪をかけてでかい。

 面積にして二十倍くらいあるのではないか。

 この湖は、この国のメインの水源になっているのではないか。


 ここが消滅したら、この国に対して大ダメージは必至だな。

 政権が倒れて完全に無政府状態になるのではないか。

 今までが今までだけに、収集が付かなくなるだろう。


 あのソ連が倒れた時よりも酷い事になるかもしれない。

 それは王国連合にとっても致命傷になりかねない。


 まあハイドラが藻なんかを追い回しても手に負えないだろう。


「生き物には生き物を使って対抗するという事か。

 勇者は面白い事を考えるものじゃな。

 では一つやってみるかの。

 その、お前達が言うところの微生物とやらで、湖の水を綺麗にしてくれればいいという訳なのじゃな」


「ああ。

 出来たら、そいつらにもあんたの加護をやっておいたらどうだ。

 そうすれば、きっと代々の微生物達が加護を受け継いでくれたなら、今後も一族を上げて湖の水質保守に力を注いでくれる事だろう」


「うーむ、かような小さき者に加護を与えるなど思いつきもしなんだが、まあ他に手もないのじゃから、手慰みに試してみようかの」


「そうしてみてくれ。

 光の遮断と両方の方策を試すのであれば、藻のような植物にはダメージが大きいと思うぞ」


 かつて初期の地球に生まれた生命体として、幾多の後進に現れる生物達のために酸素を作る役割を果たした、生命の偉大な先達たる惑星地球におけるテラフォーマーとも言える生物達。


 過去の絶大なる功績からも、本来ならそこまで悪者にされる謂れはないと感じるのだが、まあここでは大人しく退治されておいてもらおうかね。

 こいつらはただの藻じゃなくて魔物軍精鋭部隊なんだしよ。


 そして、ノームから加護を通じて念による会話が届いた。


「ハイドラよ、久しいの。

 そこのハズレ勇者をこちらへ寄越すがよい。

 こちらの出来たばかりの新湖にも、そやつのいうところの微生物が住み着いて頑張っておるようじゃ。


 今、わしの加護を与えた者を持って行かせるから、そいつらにお主の加護も被せて使ってみれば、少しは違うであろう。


 魔人・魔獣どころか、そのような日頃は気にも留めぬような小さき雑兵にさえ我ら大精霊の聖域が脅かされようとはな。

 まったく世も末じゃわい。

 聞こえたな、カズホ」


「へーい。

 その雑兵とやらが一番性質が悪いのだがな。

 まだ魔獣相手になら……」


「やめんか!

 ハイドラの聖域はうちと違って湖自体が本体なのだぞ。

 お前が暴れたなら消滅してしまうわ」


 友軍の大精霊の助っ人に気をよくしたものか、ハイドラの機嫌が急上昇していくのを感じた。

 よし、畳みかけるならここだ!


「じゃあ、ちょっといってきますんで、これでも食っていてくれ」


 俺は大量のチョコとその他のお菓子を岸辺に置いて、それを夢中で食い出したハイドラを眼下に置いて、その場で飛び上がった。


 へたに成層圏近辺まで出るよりは、近場なら普通に高空を行った方が便もいいので、そのまま一気にノームのところまで飛んでいった。


「ちょっとだけ御久しぶり、ノームよ」


「おお、来たか。

 そういや、チョコが切れたぞ」


「相変わらず、食い意地が張っているな。

 そう言うだろうと思って、チョコはたっぷりと用意してあるぜ」


 俺は万倍化に万倍化を重ねたお菓子類をどんっと提供した。


 まったく、これが日本であるならば倉庫代が大変になってしまうほどの物凄い量なのだが、こいつらにかかっては日本ですら倉庫代の心配はいらないんじゃないかと思うような激しい食いっぷりだ。


「おい、食うより先に例の可愛い連中を出してくれ」


「わかった、わかった。

 そら」


 俺の足元に、大精霊謹製の神秘的な力を宿し、微細な耀きの霊光を放つ数十の大壺が広がった。


 その中には並々と入った、ノームの加護を湖の水ごと受けたらしき微生物達が犇いていた。


「お前の言うところの微生物であるのかどうかはよくわからんのだが、そやつらが水を綺麗にする力の優秀な者どもじゃ。

 細かい事はよくわからんのだが、そやつらは選抜部隊のメンツじゃから、なんとかしてくれるじゃろう」


「へえ、まあ一口に微生物と言ったって、とんでもない種類の奴らがいるのだし、高等生物とは違って環境に応じてすぐに変化していくだろうからなあ。

 じゃあ、連れていくよ。


 お前ら、向こうへ行ったらもう一つ大精霊様の、しかもお前達の生息域である水の加護が貰えるのだ。

 頑張れよ」


 藻に向かってそんな事を言ってやったって仕方がないと思うのであったが、壺の群れは喜びをもって激しい霊光に輝いた。


 そして湖に残った微生物達が残念そうにしょんぼりと薄暗く輝いた。

 まるでマーシャやアリシャがやるコントをトーキーでやっているようなものだな。


 そう思うと、ちょっとおかしくなって連中の事も愛おしいような妙な気分になる。


「ああ、お留守番部隊の奴らも頑張れよ。

 お前達だって、立派に大精霊の加護を持ち、ノームのために働く者達なのだからな。

 ここはこの俺の別荘地でもあるのだから、頼んだぞ」


 そして壺達も湖の水も、そのすべてが鮮やかな福音の光に満ちていった。

 よくみたらノームが加護を通して祝福を与えてくれているらしい。


 俺の体さえも例の人間加護電球のように光り輝いていた。


 それらの祭典に見送られるかのように、俺はマルータ号を出してザムザにも手伝わせて壺を積み込み、ノームの聖域を後にした。


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