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4-61 緑の恐怖

「お、そろそろ着くころだな」


 俺は街道や山の位置を計算しながら、その湖へと向かった。


 超高度から直接降下してやってもよかったのだが、何かがあった時のために周りの地形などをしっかりと把握しておきたかったのと、いきなり魔獣の相手をするかのような派手な登場をすると、初対面の大精霊に警戒されそうだったし。


 一応は礼を尽くして近づいて、ノームの紹介状である加護を見せる感じで行きたいのだ。

 いきなり大精霊の機嫌を損ねたっていい事は何もない。


「カズホ、やっぱりなんだか様子が変だ。

 確かに大精霊の濃厚な気配はするのだが、なんだか相当に気が荒ぶっているみたいよ。

 ちょっと気をつけなさい」


「え、なんだいそりゃあ。

 本当だ。

 精霊達の加護を通じて何か凄い気配がする。

 これはおそらく大精霊がいきなりの御登場で、しかも強いパワーを発揮しているようだなあ」


 俺とエレは少し警戒モードで、ゆっくりとその緑のかった湖へと降りていったのだが。


「おんどりゃあ、ええ加減にせんかーい!」


 なんだか猛ったような感じの女声が聞こえてきた。

 声というか、これは大精霊の魂の叫びみたいなものだな。


 近づいてみると、そいつはなんというか全長五メートルほどの白い被り物タイプの衣服を着込んでいた。


 女神、ニンフといった感じの美しい女姓というか、美女が宙に浮いている。


 水の色を映したものなのか、大きくて深い湖や川の水のように真っ青な目を鬼女の如くに吊り上げ、真っ白な肌によく浮かぶ真っ赤な唇をきつく結び、それと風や重力などは無視して勝手に靡く金髪が、あたかも静電気に揺り動かされるかのように不思議な動きを披露していた。


 その様を一言で言い表すのであれば、「怒り心頭怒髪天を突く」といったところであろうか。


「あのう、もし」

「やかましい!」


 あら、せっかく人が気を使って、そっと声をかけてあげたのに、思いっきり罵声で一蹴されてしまったな。


 エレもその様子を見て、やや難しい顔をしている。


「カズホ、大精霊が荒れている原因がわかったよ。

 よく湖を見てみな。

 あの緑色は湖の色なんかじゃない」


「どれどれ。ありゃ?」


 よくよく見れば、なんというか『植物質』の緑色に湖が覆われていた。


「あれは……多分、藻だね」

「藻?」


 藻といえば、家庭用排水や工場排水なんかで水が汚くなると繁殖する厄介者なのだが、ここまで酷いとは。


 何か有毒な化学物質であるかのような、激しく毒々しい青緑色だ。

 そういや、池なんかで毒性のある藻が大量発生してヤバイ事になるとかあったような気もする。


 しかし、ここは辺鄙な場所で、この国の中では辺境区域に当たるのではないだろうか。


 いくらこの国が首都へ真っ直ぐに隣国からの街道を配置していないといっても、主街道は迂回しつつもまた反対側の街道へ繋がっていく構造になっている。


 そして、ここはその街道からも大きく外れた場所にあるのだ。

 だから人為的な汚染は起きにくいし、藻は確か比較的高温の場所で大量発生しやすいのではなかっただろうか。


 ここは涼しい山間地なので、それはない気がするのだが。


 何かがおかしい。

 通常の藻の大発生ではないようだ。


 そもそも、通常であれば少々の穢れなどは大精霊の力で清められてしまうはずなのだが。

 それが、あの怒り心頭の状態という事は。


 俺の頭に過ぎった物は、あの大ウミヘビの群れだ。

 こいつらは、まさか。


「このクソ魔物ども~。

 採っても採ってもすーぐに生えてくるー。

 誰だ、こんな物を持ち込んできた馬鹿は~!」


 やっぱり魔物の群れなのかよ。

 植物、しかも小さな藻だから一体何匹いるのかも想像がつかないな。


 こういう物に水源地に来られると、人間の国にはダメージが大きいかもな。


「あのう……」


「なんだ、お前は。

 は! さてはこれはお前の仕業かー!」


「いや、ちょっとあんた。

 落ち着いて、どうどう」


「ガルルルル」


 やれやれ、こいつはまた相当頭に来ちまっているなあ。

 お蔭で俺に精霊や大精霊の加護がある事にも気づいていないようだった。

 まあこの有様では無理もないのだろうが。


 こんな植物系の魔物がいやがったとはなあ。

 しかも、おそらくは水系侵略に特化した強化植物系魔物種だ。


 この水の大精霊、確かハイドラといったな。

 何故水の大精霊のくせに、自分のテリトリーである湖で苦戦などしているのだろう。


 おそらくはこの大精霊も、やろうと思えばノームがダンジョンを担いで逃げ出せたように湖を移動させて難を逃れるくらいはやってのけられるはずなのだが。


「頼むから落ち着いてくれ。

 俺は勇者だ。

 よく見ればわかるだろう、ハイドラ」


 いきなり名を呼んでやったので、そいつは青き水系の、強い魔力を湛えた目をすっと細めて俺を値踏みするように見た。


「勇者か。

 一体何用でこの地にやって来た。

 今、お前などに構ってやっている暇などはないぞ」


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