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1-29 歩けば歩くほど健康

 そして俺はまた歩き出し、黙々と荒れ地のような道を歩いた。

 いやあ、道路も日本みたいに綺麗には仕上げてくれていないので、長々と歩くと大変だわ。


 マラソン選手なんかでも、道路の端の斜めに傾いたところを走ると疲労が余計に蓄積するのだ。

 今後のために、落ちている大きな石とかは歩きながら回収していく。


 ようやく隣村が見えてきたのだが、久しぶりに結構な距離を歩いたので少し疲れてしまった。


 これってわざわざ自転車道まで行って、徒歩ではなく自転車で走るような距離に近いんだ。

 普通に日本人が歩く距離じゃないね。


「ふう、こんな事じゃ王都なんてとてもじゃないが行けやしない。

 ここはかなりの辺境区域なんだからな」


 何しろ、あの村と来た日には宿すら無くて行商人すらやって来ない、重要地域の監視を行うためだけに存在する特別な監視村なのだ。


 本物の砦が放棄されたため、その代わりを担当している、いわば砦村である。


 番人と言っていたカイザが何の仕事をしているのかなと思ったら、あいつはなんと正式な王国の役人だった!


 村の人間が、代々使命としてやっているとか王国から頼まれているとかじゃなくって、ちゃんと国から給料をもらって監視業務をしている役人だったのだ。


 俺の事を国へ報告しないのは、俺が王に捨てられた廃棄物のような人間なので、王の心を煩わせないようにとの配慮なのかもしれない。

 いつも王様に忠義な感じの発言をしているからなあ。


 王様も王都じゃどうか知らないが、こっちじゃ我儘を言わずに喜んで焼き締めパンを食っているような立派な人だし。


 もっとも、今回は俺がやらかしたので、そのうちに報告されるかもしれない。


 その結果、もし今更王様が俺を雇いたいと言ってきたって死んでも雇われてやらないけどな。

 向こうも今更吐いた唾は飲めないだろうから、そんな事は言ってこないと思うのだが。


 でも王都にいる勇者には美味い物くらい食わせておかないと、いざという時に戦えないんじゃないのかねえ。


 まさか、勇者達は今もあのパンを食わせられているんじゃないんだろうなあ。


 俺? ああ、カイザの家は当然焼き締めパンだよ、うん。


 まあ買い物が困難な物流僻地なんだもの、なるべく日持ちのするパンがいいに決まっているさ。

 さすがは砦村だけの事はある?


 あれだけなら俺だって収納の中に一生困らないだけの在庫があるんだ。

 いや、それでも焼き締めパンじゃないパンがあればいいなというのが、今回の主たる目的でね。


 ここの村は、奥の村に比べればさすがに規模があった。


 石で舗装こそされていないものの、メインストリートといえるような通りもあり、そこに人の往来もみられたのだ。


 向こうの村だと畑仕事に行っちまってガランとしている頃合いなのだから。

 あの村にはメインストリートといえるようなところすらもない。


 確かにストリートというか、ただの幹線村内道路と思しき広めの道はあったがな。


 こっちの村には洋服を売っている店などもあったので、後で覗いていくか。


 さすがに歩き疲れたな。

 二十キロだよ、二十キロ。


 砦からカイザの村までも距離が相当あったんだけど、あれはまだ人里に出るまでと必死だったから歩けたのだ。


 お隣の村へお買い物に行くのに片道二十キロ歩くのは勘弁してくれよ。

 しかも日帰りだと丸一日歩きっぱなしで、往復四十キロだよ。


 死ぬ、絶対に死んでしまう。


 まだお日様は頂点にも達していない時間なのだが、今日、日帰りはもう無理だと諦めた。

 初めて訪問した勝手のよくわからない村で、これから買い物があるんだし。


 宿に泊まってゆっくりして、明日の朝に帰るとしよう。

 カイザが「無理しないで明日のんびりと帰ってこい」と言った意味がよくわかるな。


 慣れれば日帰りも難しくないだろうがなあ。

 もしいつか王都を目指すのなら、まずそれが最初のクリアすべき目標だよな。


 それくらいじゃないと長旅なんてとても無理だ。

 もう俺の心は、あの村へ永住という未来へ強く傾きかけている。


 お、なんとなく宿屋っぽい感じの二階建ての大きめの建物を発見した。

 お向かいには広場のような何もない空間が広がっていた。


 お店になっているようで軒先に商品が並んでおり、その隣には食堂らしき場所へ通じる広い入り口になっていた。


 その中に宿屋があるのだろう。

 おそらくは行商人専門みたいな宿だ。


 村人の親戚や友人なら、それぞれの家に泊めるだろうからな。

 あるいは結婚式なんかの時には泊まったりするのだろう。


 遠方から旅芸人の一座が来たりする事もあるのかもしれない。


 そのようないいものが来てくれたとしても、それはこの村止まりなのだろうが。

 あっちの村には、そんな物が来た事すら伝わるまい。


「ふう、この世界で初めての宿屋か。

 システムがよくわからないから緊張するな。

 もっとカイザにいろいろと聞いてくればよかったぜ」


 だが中へ入っていくと、頭に三角布のような物を被った恰幅のいい女将さんが声をかけてくれた。


「おや、もしかして宿のお客さんかい?

 見かけない顔だねえ」


「あー、奥の村で世話になっている者です。

 今日は買い物に来たんですが、疲れましたんで今日は泊まっていこうと」


「おやまあ、あそこなら今からでも日帰りできそうなもんだが。

 まだ日は随分と高いよ」


 う、さっそく体力の無さを突っ込まれてしまったか。


 時代劇に出てくる江戸時代の旅人などは、壮健な成人男性で一日十里、約四十キロを歩いたという。


 全国から人がやってきて、船に乗る時以外では基本的に歩いて御伊勢参りとかしていたんだからな。


 交通機関が馬と籠しかないから仕方がないのだが、現代人にそのような事をして旅をしろと言われたら笑われてしまう。


 一日四十キロなんて走るのは自転車でも非常に大変なのだから。


 ああ、自転車でもいいから欲しい。

 さすがに自転車に乗っていた勇者はいなかった。


 高校生の子なんかは乗っていたっておかしくはないのだが、何しろ場所が駅前だったから仕方がないなあ。


 そうだ、村の鍛冶屋さんに頼んで……絶対に無理だな。


 むしろ大工さんの管轄なのかもしれない。

 村内なら木製自転車でもなんとかいけるのではないだろうか。

 子供の玩具くらいならいけるかもしれない。


 俺が欲しいのは交通機関となるレベルの高性能自転車なのだが、さすがに作るのは無理過ぎる。

 ベアリングやスポークなんか、まともな物が作れない。


 この世界にあるベアリングボールっぽいものは、俺が持ち込んだパチンコ玉しかないのだが、自転車に使うにはあまりにも大き過ぎる。


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