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4-58 再会

「ヤッホー、麦野さーん」

「こんにちは~」


 案内してもらった先の応接間というか、広めのサロンのソファに二人は座り、地味目だが素晴らしい意匠のティーカップでお茶をいただいていた。


 それを見て、こういう場所をカイザの両親は焼き締め村のカイザ邸に希望していたんだよなと、カイザの実家の侯爵家のサロンを思い出した。


 俺も主らしき初老の人物に勧められるままに、派手な色合いではないが上質で高級そうな単座の革製のソファの上に腰かけた。


 うん、なかなか素晴らしい座り心地だ。

 これを日本で買ったら俺のボーナス一発でも……とてもじゃないが無理な値段なのだろうな。


「よお、二人とも元気そうだなあ。

 一体何をやっているんだよ。

 こんなところで油なんか売って。

 随分と探したんだぜ。

 ここを突き止めるために、もう成層圏まで行っちまったよ」


「う、それはまた~。

 実はこれには日本海溝よりも深い訳がありまして」


「本当~?

 君のその定番の言い訳が非常に軽いのは俺もよく知っているのだがね。

 まるで天女伝説に登場してくる羽衣なのかと思うほどの、ヘリウムガス級の軽さだよ」


「う、やだなあ。

 これだから同じ会社で仕事をしていた人はやりづらくて困るわ」


 そう言いつつ、彼女はそのやり取りも少し楽し気にしていた。


「もう、お姉ちゃん。

 せっかく一穂さんが来てくれたんだからさ」


「え、ああうん。

 そうだね、手伝ってもらっちゃおうか」


「ん? なんか困りごとでもあるのかい。

 いいけど、クリスマスと正月が待っているんだから、あれこれと難航しているようなら一回帰っておいで。

 もう関係各所はクリスマスツリーでいっぱいなんだぜ」


「マジで⁉」


「ああ、あちこちで光の精霊によるイルミネーションが素敵なんだぜ。

 発電機じゃなくて、チョコ動力の精霊光源だけどな」


「う、それは是非見たいわ~」


「他にも御馳走が、それはもうてんこ盛りなんだぜー。

 もう師匠がしめ縄も作ってくれたし。

 帰ったらでかい門松が王城に飾られていたりするかもしれんぞ。


 もうケーキ用のホイップクリームも完成したしな。

 ケーキ用のイチゴがないのが玉に瑕だ。


 あと、醤油や味噌が完成してラーメンなんかも出来て、鰹節や昆布も手に入ったしね。

 漁港を見つけて仕入れてきたから魚なんかもいっぱいあるのさ。

 今は数の子や蒲鉾まで水産関係のプロが作ってくれているところでね。


 あと正月に餅が無いんだよな。

 あれから五平餅は作ったんだけど」


「うわあ、凄い~。

 豪勢な年末年始ねー」


「ああ、しまった~。

 そういや蕎麦がまだだったわ。

 蕎麦汁はもう完成しているんだが年越し蕎麦がない。


 う、そういえば魚介類は豊富にあるのに、まだ山葵が未発見なんだよな。

 今ショウに発破をかけて探させているんだが。


 銀麗のイカソーメンや、ピチピチ新鮮なハマチの刺身が凄く美味かったよ。

 カニや海老なんかもいっぱいなのさ~」


「何か、ちょっといない間に食方面が物凄い事になっている……」


「わあ、帰るのが楽しみだなあ」


 佳人ちゃんは既に正月の御馳走に意識が持っていかれているようだ。


「いや、水産物なんかは俺の収納にも入っているから分けるよ。

 料理なら師匠や姐御が次々と作ってくれるし、原材料はショウが仕入れてきてくれたりフォミオが開発してくれたりしているから、もう楽しみがつきないよ。

 たまには帰っておいでよ。


 ああ、カイザが結婚して子爵になったから凄い大型ロッジみたいな家を建てたよ。

 あの最初に連れていかれた城もテーマパークとして改装する準備が始まっているから、それも一度見においでよ」


「うわあ、ちょっといない間に焼き締めパン村が物凄く発展していってるー」


「あははは。

 カイザの奴が何もしていないから、新郎新婦の親が気をもんであれこれやっているし、王様も金や人を出して支度を整えてやってくれているからな」


「うーん、そうかあ。

 水の大精霊の件は早く片付けたいな。

 でも」


「でも?」


 すると二人は顔を見合わせて少し躊躇っていたのだが、急にガバっと体を伏せるように頭を下げて言った。


「お願い、一穂さん。

 ちょっと手伝って。

 ここの家の人を助けてあげたいの」


「本当にいい人達なんです。

 お願いです」


「は、はあ~?」


 なんだか話が妙な方向に激しくねじ曲がっているようだった。

 こんな危ない国でまた何をやっているの、この子達ったら。


 そして、その後の話は元侯爵であった、この屋敷の主が引き継いだ。


「勇者カズホ殿、お初にお目にかかる。

 私が当家の主であるハーミル・ジャン・ランカスターだ。

 初対面の人間に対して誠に勝手な話で相済まない。

 しかしどうか、私の話を聞いてくれはすまいか」


 俺は驚いてしまったのだが、この人物の腰の低さには好感が持てる。


 この国がこうだから卑屈なのではない。

 元々から態度物腰がこのように低い人物なのだろうと推察できる。


 付け焼刃では、人間そのものの出来など、どうにも出来ない物なのだから。


「わかりました。

 お話をお伺いいたします」


「かたじけない」


 そうして、ランカスター氏が語ってくれた話は驚くべきものであったのだった。


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